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omotenashi

 偽装コンテナの天蓋と側壁が投棄され、ハーネスで固定されたリンドブルムが姿を現す。

 『ブラウエカッツ、リンドブルム離床する。作戦後はハリケーンないしはプリンセスメイフェアに収容予定』

 『ブリッジ了解。ご武運を』

 輸送船のブリッジに発進を知らせ、リモートコントロールで固定ハーネスのバックルを解除したアイリスが床を軽く蹴ると、漂うようにリンドブルムは輸送船を離れていった。

 『アイリスさんが行ったな』

 『じゃあ俺たちも出るか。ブリッジ、ルービック1,2の固定解除を』

 『ブリッジ了解。ルービック1,2、固定を解除します』

 コンテナを固定するアンカーアームから長方形のコンテナが解放され、リンドブルムと同様に宇宙空間に漂い出た。

 『ブラウエカッツよりルービック、緊急展開』

 『ルービック1了解』

 『ルービック2、緊急展開開始』

 アイリスの指示を受けたインセクティア兄弟の返答と同時に四角く折りたたまれたコンテナが変形・展開し、一瞬で小型戦闘機らしい体裁に姿を変える。

 装甲戦闘機【ルービック】、ザラマンダ、ないしはザラマンダプロトをコクピットモジュールに使う小型戦闘機で、各部を折りたたむことで船舶コンテナサイズの直方形に変形できる。輸送船の直衛用に用意した機体だ。機動性や火力は初期装備で選べる戦闘機よりも優るし装甲は強固だが、航続力は低い。

 『どう?』

 『各部ロック異常なし。中にいるとパーツのぶつかる音がかなりうるさいな』

 『よっ……と。あと、この不意自転に入っちゃうのは何とかなんないか?』

 アイリスの問いにバダー、バズーがそれぞれ返答を返した。緊急展開はパーツの動作が早く、パーツ同士の再ロックもほとんど衝突するような勢いになる。外からはわからないが中にいれば動作音がかなり響くらしい。また、重心移動が大きく変形のカウンターモーメントで機体が回転を始め、操縦技能の高いバダーは瞬時に収束させたがバズーは収束がやや遅れたようだ。

 『回転する方向は決まってるんだからオートで修正かける方が親切かもね』

 『だなあ』

 変形自体はテスト済みだが、緊急展開は今回が初試験だった。ついいつもの調子で検討に入りかける。

 『バラクーダ3機が生残しています。うち2機が戦闘ドローン8機と共に接近中。位置情報を送ります』 『おっと、仕事を忘れるとこだった。バックアップするからあとよろ』

 『へいへい。行くぞ、バズー』

 『とりあえず倒してしまっていいんだな』

 クオの突っ込みに状況を思い出したアイリスの指示を受け、バダーとバズーは【ルービック】を加速させた。

 『結構生き残ってるみたいだけど、ハリケーンの対空ミサイルはどうしたの?クオ』

 『【バラクーダ】の技量もありますが、うまくドローンを盾にしていたようです。姫様』

 クオがグラフィカルに整理・転送してきた戦闘経過からは、ドローンが積極的にミサイルに接近、近接信管を作動させる様子がうかがえた。

 『クオ、ロックオンデータをオプチカルデータと併せてリンドブルムとルービックに転送。以後随時更新』

 『かしこまりました。姫様』

 リンドブルムもルービックも小型な分単独ではセンサーやレーダーの機能は不足気味だ。が、味方の取得したデータ、今回の場合だとハリケーンの電子戦装備をクオが解析したものを共有することで単機の性能以上の運用ができる。

 『あと、ハリケーンには対空ミサイルの使用を中止するように。榴弾破片の流れ弾が怖いから』

 『かしこまりました。お伝えします』

 大気圏内ならば榴弾破片は空気抵抗で減速もするし重力で落下もするが、宇宙では初速のまま何かにぶつかるまで飛散する。乱戦になればフレンドリーファイヤが簡単に起きるだろう。もしもアイリス等が発信していなくても非装甲の輸送船にある程度近づかれれば対空ミサイルの使用がためらわれるので、ハリケーンにとってもある程度予定の内でもある。

 『バズーさん、バダーさん、混戦になる前にミサイル全部撃っちゃうよ』

 『ルービック1了解』

 『ルービック2了解』

 リンドブルムの両肩にマウントされたランチャーから4発、ルービックに装備されたミサイルポッドから各8発、合計20発の短距離ミサイルがつるべ打ちに打ち出された。ろくな照準もなく無造作にうち放たれたようでも実際は既にクオのもたらすデータからロックオン目標が割り振られている。

 


 『ち。まんまと釣られた……いや、生贄に差し出された?』

 輸送船に向かった2機のバラクーダと別行動でハリケーンに向かった五十鈴はミサイルに追われてドローンを消耗させていく仲間の姿に舌打ちした。非武装と思われた輸送船方向からのミサイルは、護衛艦からの物と異なり「素直」な軌道の物ばかりだったが警戒の薄い方向からの攻撃であったためだろう、バラクーダ側の対応に遅れがあり、結果なし崩しにドローンを盾にして防ぐほかなかったようだ。これなら全機で護衛艦に向かった方がましだったかもしれない、とほぞを噛むが五十鈴とて後悔に沈んでいる暇はない。幸い護衛艦からミサイルが来なくなっているが、今度は対空レーザーの弾幕で接近しづらくなってきている。

 『無理だ、引こう!五十鈴!』

 『駄目だ!間合いがある方があっちは狙いやすいんだ!貼り付け!!』

 3座のバラクーダの操縦をするパイロットの泣きごとを五十鈴はすっぱり却下する。離れれば複数のレーザー砲塔の射界に捕らわれるし砲塔の回転追尾も追い付いてくる。事ここに至っては舐めるように張り付いていく方が安全だ。その視界に探していたものが入る。

 『あった!アンカー用意!!』



 『では、お迎えに行きますね、艦長。船務科から1小隊お借りします』

 『提督が向かわれることもないかと思いますが』

 『保険ですよ。皆さんずいぶんできるようになっていますが、やはり心配で。日本語では老婆心、と言うのでしたっけ?』

 再考を促すギュンターをあしらいつつメイフェアは席を立った。

 

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