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OHANASHI

 「あら?戻っていらしていたのですね」

 セサミシード港湾部から居住区への入り口は、アイリス等セサミオープナーが常用している管理者用の総督府に直結したものと一般用のコースがある。メイフェアは通常の税関手続きを踏む必要はないのだが、今日はムツキや桃次郎に付き合って一般用のゲートから入島していた。

 一般ゲートから2kmの範囲は住宅専用の建物は置かれない商業区に設定されており、とりわけゲートすぐの場所は短期滞在者や業務出張で訪れた公団職員、やはり仕事がらみのチャンドリアンなどのために用意されたホテルが立ち並ぶ。最初はセサミシード直営のホテルだけだったが、今は公団運営の物、プレイヤー経営の物、NPC経営の物がしのぎをけずる。久しぶりに一般ゲートから入島したのだし、少し商業区を散策しようかとΠレックスや多脚歩行機の走れる広い大通りのわきの歩道を歩くメイフェアは、そうしたホテルのうちプレイヤー経営の一棟の一階喫茶スペースの窓にアイリスの姿を見つけた。どうやら飛鳥とロビン、それにクラーク防衛軍のユバ中佐も同席しているようだ。ちょうどいいかもしれない、と、メイフェアは合流することにした。


 「私も開拓者の方々が蘇生できることは知ってはいますよ?それに、ザラマンダの事を誰よりもご存じの閣下が狙撃を知ったうえで実行させたのは耐えられる根拠があったんだとも、すぐにわかりましたよ?ですが、敬愛する閣下が目の前で撃たれるのは、決して見たい光景ではありません」

 「はい。全くもって浅慮でした。申し訳ありません」

 平謝りである。

 一時的にロビンとユバをパーティーに取り込んで転送ゲートでセサミシードに戻ったアイリス一行だが、何やら表情の暗いユバを気遣った飛鳥の提案で総督府には直行せず、評判のいい喫茶スペースのあるここに立ち寄っていくことにしていた。席に案内されてオーダーを通したアイリスを待っていたのは意を決した表情に変わったユバの説教だった。

 ザラマンダのカメラで狙撃者を視認した時点で照準がアイリスに向けられており、発砲を待つことなく取り押さえに飛んでも良かったし、撃たせるにしても坑甚できるはずであることをユバ等に伝えておくことはできたのだ。NPCだから、とユバを軽んじていたわけではないが、いつもの調子で詳細の通知を億劫がったのも、少しばかりのいたずら心があったのも事実だし、NPCチャンドリアンに大事にされている自覚もあるのだからぐうの音も出ない。

 「今後、閣下にはクラーク来訪のおりには身辺警護を付けさせていただきます。よろしいですね?」

 「え、その、あんまり物々しいのは」

 「ご心配なく。周りを固めるようなことは本当の緊急事態しかいたしません。普段は少し離れた所から周囲の警戒を行うだけです。閣下なら少人数の近接戦はどうにでもなるでしょうし」

 バズーやバダーはクラーク防衛軍の訓練教官役に呼ばれることがあり、その実力は彼らによく知られているのだが、そんなインセクティア兄弟を蹴散らせるアイリスもまた格闘戦では絶大な信頼感がある。なので、ユバが警戒すべきと考えているのは今回のような長距離狙撃だ。

 「いや、そう、ただでさえクラーク軍は人手不足気味なんだから、私のために人数をさかなくても」

 「むしろ選抜がもめるくらいです。閣下の身辺警護のシフトをくむとなれば志願者が押し寄せるでしょう」

 アイリスはチャンドリアンサイバーに慕われているのはあのクラーク港のオブジェからも瞭然で、ユバはその警護任務を独占している、と部下から苦情が入るくらいだ。ことこの件に関しては人手不足は絶対に発生しない、とユバは考えている。実際はユバ自身の安全も気遣われているのだが。

 「それに、そう、実験の機密保持の事も」

 「本当に機密が守られるべきことはセサミシード内で実験なさいますでしょう?閣下」

 ユバの言う通りで、チャンドラー地表は元々どこで誰が見ているかもわからない。機密保持、という観点ではザルもいいところだから、もう実用一歩手前、とか秘密にしてもすぐに誰かが同じことを始めると予想出来ることしか試していない。

 「ぐぬぬ」

 「認めて差し上げるべきですね、アイリスさん。万一の事でもあればユバさんも辞職で済むかどうかわかりませんでしたよ?」

 「うお!?びっくりした!」

 アイリスとユバの攻防の間にやってきてロビンからざっくりと事情を聴いたメイフェアが口を挟んだ。

 「て、そうなの?中佐」

 「私事ですので言うつもりはなかったのですが…」

 「まあ、そうなるでしょうね。ユバちゃんはクラーク軍の実働部隊のトップで、それがついていながらギーガー掃討戦の英雄をみすみす害された、とあっては責任問題化は必至でしょう」

 問い返したアイリスにユバは言外に肯定をし、ロビンが事情を補足する。

 「おうふ…」

 ぱん、と目を右手で覆ってアイリスは天を仰いだ。そんなことを聞いてしまっては断るに断れない。

 「わかりました。クラーク周辺、ユバ中佐の権限と責任の及ぶ範囲内に限り護衛をお願いします」

 「お待たせいたしました。日替わりフルーツタルトセットでございます」

 「あら、おいしそうですね。私にもお願いします」

 まるで決着の付くタイミングを見計らったようにウエイトレスがオーダーしたセットを運んできた。 

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