由緒由来があるようです
だいたい、タイプやサイズにもよるが数10万から数100万もの人口を住まわせようというスペースコロニーが個人所有などという話がおかしい。というか、そんな大所帯の責任などいくらゲームでも負いかねる。シナリオ上の秘密だろうがなんだろうがせめて「さわり」くらいは聞き出してやろう、と精一杯の眼力を込めてアイリスはクオを睨み付ける。つい今しがたまでの無駄に豊かな表情を収めたクオは、
「かしこまりました。では、この【セサミシード】の来歴から追ってお話しいたします」
あっさりと口を割った。アイリスがここからの話は出任せなのでないかと疑いを持つほどに。
「実は、セサミシードは新造のコロニーではありません。よく言って新古品、しかも築1000年以上は経過しています」
「なんか、驚くのに慣れてきた自分がいるよ」
ぽーん。 スキル【平常心】LV18を獲得しました
「おうふ…」
因みに、スキルの獲得時のLVは関連ステータスやスキルの難易度で変動する。
「何かございましたか?」
「何でもない。続けて」
フロンティア星系は、新発見の開拓可能惑星、とされているが1000年以上前にテラフォーミングを受けている形跡があるらしい。地表には遺跡化した施設が点在しており、いくつかは現在も稼働しているという。テラフォーミングを行ったのは当時繁栄していた星間文明だが、約1000年前に主星の喪失をきっかけに衰退。フロンティア星系の開発も中断、放棄し撤退したことが先行調査隊の遺跡調査で判明したそうだ。
「彼らは技術的には現在の我々も凌駕していました。このセサミシードも修理修復すれば十分に使用可能、それどころか新造するよりも永く使えそうだ、と見られたのです。が」
「が?」
「ラグランジュポイントにあるセサミシードは我々の開発拠点とするにはフロンティアから遠すぎるのです。それに、第一陣開拓者と開発公団の支援スタッフ全部合わせても22000人足らず。大半は軌道エレベータ建設基地を兼ねたステーションで、そして先行して降下した開拓者は地上で生活できます。」
「ここを今再稼働させる必然がない…そういうこと?」
「はい。ですが、物件自体は超優良。持て余してはいても放棄はもったいないと公団は考えたようです。そこで、マザーシップの危機に功績のあった姫様に譲渡して、のんびり修復していただければちょうど良いペースで事が進むのではないか、とも」
「うわ。最後のほうぶっちゃけすぎじゃない?あと呼び名」
「失礼しました、アイリス様。私としては、無理に公団の思惑に乗らずとも無料で【ホーム】にできる物件を入手した、くらいにとらえてもよろしいかと存じます。幸いポッドもザラマンダ・プロトもございますから、そちらで活動することもできますし」
クオの指摘は正しいように思えた。
「現状維持でお帰りを待つくらいは私一体でも可能でしょう」
しかし
「現状でアイリス様の代行ができる者はいませんし、ここと私のリンクが切れるのも不都合がありますから私が留守居に残ることになりますが、食事等は必要ありませんのでコスト面でもご負担をおかけするようなことはないでしょう」
それでは
「いや、できることから修復は進める。セサミシードの現状をまとめて報告しなさい」
「かしこまりました」
答えたクオに表情が戻ったように見えたのは、気のせいでないと思うアイリスだった。