表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不思議な少女、フローラは旅に出る  作者: 桜姫
第二章
19/19

ユリアの過去 ー前編ー

「さぁ、今日から僕が君の父親だ。」


「…貴方があたし、の。」


「そうだよ。今まで辛かっただろう?さ、一緒に帰ろう。」



あの手がどんなに温かかったか。あぁ、人の温もりとはこういうことを言っていたのだと、過去の私は思った。

何故なら、私は人の温かさを知らない、動いているだけだった吸血鬼。…奴隷だったのだから。


****


私がいつも目覚めるのは、暗い檻の中だった。小さい頃、人間の手によって目覚めさせられ、この鳥籠のようなところで育ってきた。

誰かに見張られて、足を鎖で繋がれていた時のあの生活が、今でも記憶に残っている。

ご飯はいつも、一つのパンと少しのおかずのみ。飲み物は、水しかなかった。たまに出てくる牛乳(ミルク)が、何よりのごちそうだった。


世界は冷たく、何もない所だと思った。何故こんな所で人が生きていけるのか、不思議でならなかった。吸血鬼は、千年に一度、人間の血を吸えば、少しの食料でも生きていける。

力もあるし、この檻だって曲げることなど容易いことだ。

ただ、私は観察していたかったのだ。人間がどういう生き物なのかを。



「どうして、そんなに元気でいられるの?」


ある日、檻ごしの隣にいる、とても細い女の子に聞かれた。彼女は人間だから、あれぐらいの食料じゃ、痩せるのも当然だろう。背骨が浮いているのを見て、少し痛々しく思った。


「…元気というよりか、あたしは吸血鬼だから。お腹も空かないし、あまり喉も乾かない。」


「え…。」


あたしに質問してきた女の子の青白い顔が、さらに白くなったきがする。人間が吸血鬼を恐れるのは分かっていたことだ。驚かれても、傷つくことはない。

そう思った直後、彼女のあたしに言いはなった言葉は、あたしの想像とははるかに全然違った。


「すごい!いいなぁ、羨ましい!」


「………………え。」


…羨ましい?あたしが?


「っ、ど、どうして?あたしは、目が赤くて、髪の毛が白くて、人間よりも肌がまっ白なのよ?匂いも血生臭いし、人間の貴方は、不気味とか、気持ち悪いとか、そういうことを思ってるんじゃないの?」


「え?全然不気味でも、気持ち悪くもないよ?むしろ可愛い!」


「…?かわいい?ってどういう意味なの?」


「うーん、愛らしい…ってことかな?」


「愛らしい……。!」


あたしは、初めて言われた言葉に、恥ずかしさを隠すために、膝の上に顔を埋めた。


「……あっ、ありがと。」


彼女の顔は見れなかったけれど、あたしの胸の奥のものが、少し温かくなった気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ