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異世界骨董店  作者: 椎名乃奈
第二章 ラジカセ
6/7


 作業を開始してどれぐらいが経っただろうか。

 それが分からないくらいに没頭していた。


 集中しながら作業をしていると、肩をツンツンと突いて来る。しかし、集中して作業を行いたいので無視をしていると、気付かなかったと思われたのか、更に強くツンツンと突かれていた。


「いい加減にしてくれ、暁」


 てっきり、暁が突いていたのだとばかり思っていたが、そこにいたのは見知らぬ女性だった。あまりに突然のことに、思わず間の抜けた声を出し、腰を抜かしながら驚いてしまった。


「う、うわあっ!」

「……」


 その女性は、口をパクパクとさせながら何度も謝る仕草を見せる。


「いや、そこまで謝らなくても良いよ。僕は、大丈夫だから」

「先生、どうしたんですか!」


 どうやら、僕の悲鳴を聞き付け暁が飛んで来たようだった。


「だ、誰ですかこの女は!」

「いや、僕にも分からない」


 今の今まで気配すら感じなかった。


「……」


 女性は何かを必死に伝えているようだったが、言葉を話せないのか口をパクパクとさせ続けていた。


「困ったなあ」


 どうしたものかと考えていると、御堂は良いことを思い付いた。


「これから、いくつか質問をするからはいなら首を縦に、いいえなら首を横にに振ってくれるかい?」

「……」


 女性は、首を縦に何度も振っていた。

 どうやら、理解して頂けたようだ。


「じゃあ、君は付喪神かい?」

「……」


 女性は、無言で首を縦に振る。

 どうやら、付喪神らしい。


「じゃあ、君はこのラジカセの付喪神なのかい?」


 再び女性は、首を縦に振る。

 大方、ここまでは予想をしていた通りだった。


 音が出ないラジカセ。

 声を出せない女性。


 なるほどと、御堂はそれに気が付いた。


「君はもしかして、このラジオのスピーカーが壊れていて声が出せないのかい?」

「……っ」


 女性は、激しく首を縦に振っていた。


「そうか、分かった。それなら、急いで直そう。その辺でゆっくりしていてくれるかい」

「……」


 女性は、御堂の手を取り感謝の意を両手で握手することで表していた。唯一、幸いだったことは、在り合せの部品でどうにか修理が事足りそうであったことだった。それらの部品を全て取り替えることで終わる作業なのだがたが、それだけでも非常に時間が掛かる事実は変わらなかった。


 そして、数時間後。


「……出来た」


 御堂は、達成感を全身で感じていた。

 ちゃんと音が出るかどうか、カセットテープを入れ、再生ボタンへと指を伸ばし確認をする。しかし、キュルキュルと甲高い音が響くだけで、そのカセットテープは再生されてはいなかった。


「あれ、可笑しいな。どこか、間違えたか?」

「いえ、大丈夫です」


 御堂の耳に、聞き覚えのない声が聞こえて来る。

 その声は、ラジカセの付喪神のものだった。


「まずは、私を修理して下さいましてありがとうございます。私の名は、〝こと〟と言います。私を直して頂いて、こんなことをお願いするのは申し訳ないのですけれど、私と共に来てはいただけないでしょうか?」


 話せるようになると、琴は早々に御堂へ頼み事をしてきた。



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