中
作業を開始してどれぐらいが経っただろうか。
それが分からないくらいに没頭していた。
集中しながら作業をしていると、肩をツンツンと突いて来る。しかし、集中して作業を行いたいので無視をしていると、気付かなかったと思われたのか、更に強くツンツンと突かれていた。
「いい加減にしてくれ、暁」
てっきり、暁が突いていたのだとばかり思っていたが、そこにいたのは見知らぬ女性だった。あまりに突然のことに、思わず間の抜けた声を出し、腰を抜かしながら驚いてしまった。
「う、うわあっ!」
「……」
その女性は、口をパクパクとさせながら何度も謝る仕草を見せる。
「いや、そこまで謝らなくても良いよ。僕は、大丈夫だから」
「先生、どうしたんですか!」
どうやら、僕の悲鳴を聞き付け暁が飛んで来たようだった。
「だ、誰ですかこの女は!」
「いや、僕にも分からない」
今の今まで気配すら感じなかった。
「……」
女性は何かを必死に伝えているようだったが、言葉を話せないのか口をパクパクとさせ続けていた。
「困ったなあ」
どうしたものかと考えていると、御堂は良いことを思い付いた。
「これから、いくつか質問をするからはいなら首を縦に、いいえなら首を横にに振ってくれるかい?」
「……」
女性は、首を縦に何度も振っていた。
どうやら、理解して頂けたようだ。
「じゃあ、君は付喪神かい?」
「……」
女性は、無言で首を縦に振る。
どうやら、付喪神らしい。
「じゃあ、君はこのラジカセの付喪神なのかい?」
再び女性は、首を縦に振る。
大方、ここまでは予想をしていた通りだった。
音が出ないラジカセ。
声を出せない女性。
なるほどと、御堂はそれに気が付いた。
「君はもしかして、このラジオのスピーカーが壊れていて声が出せないのかい?」
「……っ」
女性は、激しく首を縦に振っていた。
「そうか、分かった。それなら、急いで直そう。その辺でゆっくりしていてくれるかい」
「……」
女性は、御堂の手を取り感謝の意を両手で握手することで表していた。唯一、幸いだったことは、在り合せの部品でどうにか修理が事足りそうであったことだった。それらの部品を全て取り替えることで終わる作業なのだがたが、それだけでも非常に時間が掛かる事実は変わらなかった。
そして、数時間後。
「……出来た」
御堂は、達成感を全身で感じていた。
ちゃんと音が出るかどうか、カセットテープを入れ、再生ボタンへと指を伸ばし確認をする。しかし、キュルキュルと甲高い音が響くだけで、そのカセットテープは再生されてはいなかった。
「あれ、可笑しいな。どこか、間違えたか?」
「いえ、大丈夫です」
御堂の耳に、聞き覚えのない声が聞こえて来る。
その声は、ラジカセの付喪神のものだった。
「まずは、私を修理して下さいましてありがとうございます。私の名は、〝琴〟と言います。私を直して頂いて、こんなことをお願いするのは申し訳ないのですけれど、私と共に来てはいただけないでしょうか?」
話せるようになると、琴は早々に御堂へ頼み事をしてきた。






