中
「また、こんなゴミを買ったんですか、先生」
「何を言うんだ、暁。いつも言っているだろう。この世には、ゴミなんて何一つとしてありはしないんだ。捨てる神あれば、拾う神あり――だ」
御堂に〝暁〟と呼ばれる付喪神の少女は、店内をせっせとはたきを使って掃除している途中だった。
「出ておいで」
御堂は、薪ストーブにそう言うとぽうっと薄ら輝き――その輝きは、美しい女性へと変貌した。
「……ここは?」
薪ストーブの付喪神は、ここが何処なのか分からないようであった。
「ここは、御堂骨董店だ」
薪ストーブの付喪神は、驚く表情を見せた。
「私が……見えるのか?」
「まあね。僕は、そう言った商売も営んでいる者でね」
普通の人には、付喪神を見ることは出来ない。
見ることが出来るのは、付喪神自体に強力な力がある場合や、霊感の強い人――もしくは、死期の近くなった者だ。
「なぜ、君がここに居るのかと言うと、ここへ売られてやって来たと言うわけだ」
「そうか……私は、売られたのか」
女性は、どこか悲しげな表情を浮かべていた。
「なら、さっさと壊せ。私がここに居る理由も無くなった」
その女性は、薪ストーブを壊すよう言う。
付喪神は、依り代に一度憑いてしまうと、その依り代が壊れない限りその依り代から出ることが出来ない。しかし、依り代とされた物が持ち主の手から離れれば、出るのは比較的容易であった。
なぜなら、持ち主の手を一度でも離れると言うことは、多くの場合が廃棄されると言うことであるからだ。
付喪神によっては、廃棄されたことを恨み、妖怪と化すこともある。最悪の場合、妖怪と化した付喪神が持ち主を祟ることもある。けれど、物をあまり大切にしなくなってしまった現代では、憑り付く島も無いと言ったのが現状であった。
「残念だが、無理なお願いだな」
「なぜだ?」
「それは、ここが古い物を直して、それを売るお店だからだ」
笑顔を見せる御堂とは対照的に、薪ストーブの付喪神は不満そうであった。
「ところで、君の名前は?」
「人間に名乗る名など無い」
「先生にそんな態度を取るとは、このババアめ!」
暁は、手にしていたはたきで攻め立てる。
「な、なんなんだ、このちんちくりんな奴は」
「止めろ、暁」
御堂は、暁にゲンコツを落とし、強引に止めさせた。
「悪いな、うちのが迷惑を掛けて。僕はここの店主の御堂だ。こっちのは、暁」
暁は、ぷいっと視線を逸らす。
「そして、暁は君と同じ付喪神だ」
女性は、暁を疑惑の目で見ていた。
「こんな、ちんちくりんながきんちょと私が同じ崇高な存在であるわけないだろ」
「誰がちんちくりんながきんちょだ!」
「だから、止めろ」
再び、暁の頭にはゲンコツが落とされ瘤が一つ増えることとなった。
「さて、じゃあ君が――」
「灯だ」
御堂の声を遮る様に名乗った。
「そうか。じゃあ、灯が前に居た家は、どんな所だったんだ?」
「なぜ、私がそんなことを言う必要がある?」
「嫌なら別に構わないさ。これは、ただの興味本位だからね」
そう言い、御堂は椅子に腰を掛け、頬杖を付いた。
いかにも話を長々でも聞いてやると言わんばかりな御堂のその姿勢に、灯は何を言っても無駄だと悟ったのか、話をぽつぽつと始めた。