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援軍の到着

午後22時11分

星川町公民館 体育館前


そこにはすでに、ハヤトとギンの2人は居なかった。

例の如く、2人は常人の域を超えた戦闘を繰り広げ、瞬く間にその場から高速で移動したのだ。

残されたテロリスト達は、先程のギンの提案で、体育館の周りに数人の人員を配備し、

残りを他の軟禁場所の見張りや、町の巡回にまわしている。

ハタから見れば、それは皮肉にも、刑務所の巡回をする看守のようであった。


ピリッとした緊張感に包まれ、雨以外の音が一切聞こえない状況の中。

テロリスト達はなにが起こってもいいように、精神を集中し、周りの気配を探っていた。

一方体育館内の町民達は、もはや抵抗する気力を失ってしまっていた。

もはや、誰1人として声を出す者は居なかった。



――――突然その場に現れた……〝1人〟を除いて。



「こんばんわ。テロリストさん達」

女性の声が、突如雨が降る闇の中から聞こえてきた。

テロリスト達の、誰もが聞いた事が無い声だ。

バッと、テロリスト達が声がする方向へと銃口を向ける。

すると同時に。チャプチャプと、水溜まりの水が跳ねる音と共に。

雨で濡れないよう、白い合羽を着用した女性が闇の中から現れた。



テロリストも知らない、謎の女性。



明らかに町の外から、なんらかの方法で侵入した女性。



女性は武器を持っていた。いや正確には、2つの武器の取っ手を、両手それぞれで持っていた。

肩から手の先までが隠れてしまう程の大きさの、〝2つの盾〟の取っ手を。

ちなみに2つの盾の形状は六角形で、左手で持っているのは金色の線が縁取られた白銀色。

右手で持っているのは白銀色の線が縁取られた金色、という感じのカラーリング。

そして2つの盾の中心には、18世紀以降に図案化されたデザインの、黒いケルト十字が描かれている。


相手の武器は盾。これだけ聞けば、油断してしまう人も居るだろう。

しかし、本来は防御の目的で使用する盾も、相手を殴るための武器にもなりうる。

油断してはいけない。テロリスト達は息を呑みつつ、心の中で自分自身に言い聞かせた。

しかし次の瞬間、テロリスト達の予想を超えた攻撃を、女性は繰り出してきた。



()()()()()



そう言うと同時。女性は左手で持っている盾の取っ手から手を離した。

盾が重力にひかれ、地面へと真っ逆さまに落ちていく。

だが、白銀色のカラーリングの方の盾は、()()()()()()()()()()()()()()()

ギョッと、目を丸くするテロリスト達。

だがすぐに冷静になり、女性に向けて発砲をしようとした……だが、


女性の左手から離れた白銀色の盾が、超高速で、まるでブーメランのように、

回転しながら空中を飛び回り、テロリスト達の腹部や後頭部に激突。

時間にして、ほんの5秒。

たったそれだけの時間で、女性はその場に居る全てのテロリストを気絶させた。


「ふぅ。戦闘経験があまり無い人達で助かった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

女性は戦闘終了と共に、左手を前方に突き出しながら呟いた。

すると白銀色の盾がビタッと回転を止め、フリスビーと同じ速度で女性の手元へと戻ってきた。

そして白銀色の盾の取っ手を左手で掴むと、女性は無言のまま、

早足で、星川町公民館の体育館の出入り口へと移動した。



同時刻

町立星川小学校 体育館前


「姐さんの指示により! 僕、かっこよく登場!」

「同じく姐御の指示により! 私、かわいく登場!」

ハヤト達とほとんど歳が変わらないであろう、銀色の短髪と蒼い瞳が特徴の、白人の双子の美少年と美少女が、

『シャシュカ』という名称のサーベルをそれぞれ片手に、体育館前に、()()()()()()()登場した。

どこかで見たようなポーズをとりながら。

テロリスト達は一瞬、呆然としてしまったが、ハッとすぐに我に返り、2人に銃口を向ける。


「おいおいどうする妹よ。(やっこ)さん達話聞いてくれなさそうだよ?」

(あん)ちゃん。さすがに全ての人が私達の話を聞いてくれるワケ無いよ」

「やっぱり? じゃあ、いつも通り『王道』で話を聞いてもらうしか方法無いのかぁー!?」

「無いと思うよ~? だから今回もいきまっしょい!」


テロリスト達に銃口を向けられても、2人は怖気づくどころか、逆に頭上にクエスチョンマークを浮かべ、

作戦会議とばかりに途中までヒソヒソ声で話をしていた。

しかし徐々にテンションと声を高くし、

またしてもどこかで見たようなポーズをとりながら、テロリスト達に言い放った。



「「お前ら! 全員! ぶっ飛ばす!」」




同時刻

町立星川中学校 体育館前


「ったく。まさか町規模のテロを起こしてくれるとはな」

体育館前に、突然黒い合羽を着た、謎の男性が現れた。

テロリスト達は慌てて銃口を男性に向けるが、男性はそれを無視し、

チャプチャプと水溜まりの水を跳ねさせながら、テロリスト達の方へと歩き出す。

「別に、君達を怒るつもりはないよ? 君達にだって言い分はあるだろうから。ただね」

男性は、いったん深呼吸をして、



「イベント中に襲撃するのは、どうなんだよ?」



『ハルバード』という名称の、槍と斧とカギ爪が合体したようなデザインの武器を構え、戦闘を開始した。




同時刻

星川総合病院付近 某家屋内


亜貴の吐き気はいっこうに治まらず、亜貴と麻耶は、今居る家から離れる事ができなくなっていた。

しかしこのままでは、いっこうに状況が変わらない。

そう判断した亜貴は、麻耶に先に行くよう指示しようとした。

だがムリに声を出せば、吐き気が強くなる。なので指示を出そうにも出せない。

とその時だった。その場から動こうにも動けない2人の居る家のインターホンが、鳴った。


だ……誰っ!?

麻耶は緊張で身体を硬直させた。

しかしすぐに冷静を努めようと、数回深呼吸をする。

するとその直後、玄関の方から、しがわれた男性の声が聞こえてきた。

「大丈夫ですかな、お嬢さん達?」

麻耶はその声を聞いた途端、一瞬安心感を覚えたが、もしかすると敵かもしれないと思い、

ゴム弾が装填された拳銃を片手に、玄関へと赴き、勢いよくドアを開け放った。


そこには白い髪と口髭を生やした、50代後半くらいの年齢であろう男性が立っていた。

肌は褐色で、優しそうな顔つきの男性だ。ちなみに青い合羽を着ている。

しかし、いくら優しそうな顔でも、正体が分からないのは変わらないので、麻耶は銃を下ろさない。

そんな麻耶を見るや、男性は慌てて両手を上に上げた。

「ま……待ってくれ! ワシは味方じゃ! ハヤト君の所属する〝団体〟の者じゃ!」

「……団体?」


「そうじゃよ! とりあえず銃を下ろしてくれお嬢さん!

君達を助けるための援軍として来たんじゃよ! というか()()()()()()()()()()()()!」

男性は凄く慌てながら、まるで神に許しを請うような顔をして、麻耶に言った。

麻耶は男性の台詞の意味を分かりかねたが、『読心術(リーディング)』で表情などを分析したところ、

ウソは言っていないようなので、とりあえず銃を下ろした。



午後22時9分

星川町公民館 体育館


かなえはケガをしたリュンを館内に運び込んだ後、急に倒れ、夢と現実の狭間に居た。

ギンにムリヤリ飲まされた錠剤の効果が薄れ、再び気が遠くなる程の、強烈な吐き気が襲ってきたのだ。

しかし気絶しようにも、その苦しみによりかなえの意識は、現実へとムリヤリ引き戻される。

だがそんな生き地獄と言ってもいい苦しみを味わうのと同時、かなえは奇妙な体験をしていた。




最初は、まるで幽体離脱でもしたかのような浮遊感を感じた。



次に、自分の両目に見知らぬ光景が映り、自分の意思と反して、その身体が勝手に動いた。



まるで誰かの身体に憑依し、その者の人生を、その者の視点で見ているような、そんな体験だ。




かなえは本棚がたくさん並んだ、書庫の中のような場所に居た。

まるで映画にでも出てくる、金持ちの屋敷の書庫のような場所。

いや。実際そうかもしれない。周りの本のタイトルが、かなえには読めない文字なのだから。

そんな屋敷の書庫のような場所には、自分と、自分の正面にて、

ロッキングチェアに腰掛けた、60代前半くらいの年齢の老婆だけが居る。


『よいか? この■■だけは、決して唱えてはならぬ』

老婆が自分に対し、言葉を発する。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

『どうしてとなえちゃいけないの?』

自分の口が勝手に言葉を発した。自分の声とは違う声だ。

おそらく、憑依している相手の声だろう。



『もし唱えれば、お前は全てを■■■』



えっ?



肝心な所が、聞き取れない。

かなえはもう1度言ってほしいと思うが、

『■■■? どういう事?』

かなえが憑依している少女が老婆に尋ねる。



だが次の瞬間、かなえは急に現実へと引き戻された。




午後22時18分


「起きましたか?」

穏やかな揺れ、そして右手から、身体全体に染み渡る温かさを感じると同時に、

かなえは聞いた事の無い女性の声を聞いた。

現実には戻ってきたが、未だ吐き気は治まらず、視界がボヤけ、うまく状況を把握できない。

とそんな自分を見かねてか、女性がもう1度、自分に話しかけてきた。


「ミス・カナエ。この町で起きたテロ事件は終結に向かっています。

そして今、私と貴女、そして公民館の体育館で軟禁されていた町民の皆様は、

つい先程開放された『星川総合病院』へと搬送中です」

「……………は……ん……送?」

「ええ。ウチの小隊の翁が、病院を開放しましたので」

かなえの途切れ途切れの質問に、女性は淡々とした調子で返した。


吐き気のせいで、未だに物事を考えるための集中力が回復しきっていないかなえは、

『終息』『開放』という2つの単語から、このテロ事件が終わるんだと、数分の時間を要して理解した。

そしてその直後、かなえの緊張の糸が一気にほどけ、その両目から大粒の涙が流れ出てきた。

かなえに話しかけた女性はギョッとしたが、状況が状況なので仕方ないと、すぐに思い直す。


かなえも本当は、テロ事件の中で恐怖を感じていた。

正体不明のテロリスト達への恐怖。

これから町がどうなるのか分からない恐怖。

自分が知っている皆がどうなるか分からない恐怖。

そんな……当たり前の恐怖を。


事件の中で何回か感情が爆発したり、なにもできない事に後悔し、自己嫌悪に陥ったりもしたが、

今考えるとそれらの感情の揺れは、心の奥底にあった恐怖心を隠すためのモノであったかもしれない。

本当は、誰かに護ってもらいたかった。

今回この町で起きた、全ての事柄から。

だけど、それでも弱音を吐かなかったのは――――



……………そっか。



涙を流しながら、ここでようやくかなえは自覚した。

……………私……いつの間にか……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

自分の中の、正直な気持ちを。

同時にかなえの頭に、【星川町揉め事相談所】の所員になってから、

つい最近辞めるまでに見た、たくさんの町民の笑顔が浮かぶ。

まるで太陽のような、温かい笑顔だった。



あの胸のモヤモヤの正体も……やっと分かった。



私は、私が大好きな星川町を……そして町民のみんなの笑顔を――――






――――()()()()()()()()







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