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覚醒の予兆

午後21時45分

星川町 某道路


天宮かなえは傘も差さず、テロリストと遭遇しないように気をつけながら町の中を駆け回り、

自身が使える異能力『感知(センス)』をリミッター解除状態で発動し、ある少女の気配を追っていた。

町立星川中学校に転校して、初めてできた親友の1人、リュン=リリック=シェパードの気配を。

自身と同じく関西弁を喋るギンと共にお笑いコンビを組み、そして彼の事を心からお慕いしているリュン。

彼女は3日前に、地球から異星の他の学校へと転校して行ったハズ。

なのになぜ、今、星川町に居るのか?

かなえはその理由を知るために、雨の中を駆けていた。


だが先程から、妙に体が重い。少し走っただけで息切れを起こしてしまう。

いや、それだけじゃない。徐々にだが()()()()()()()()()

……………アイツに飲まされた薬の効果……切れ始めたのかな?

かなえはとある家の門に腰掛けながら、ふと思う。


異能力を久しぶりに発動させたから、という理由も考えられるが、

星川町民の皆は今、星川町に数箇所ある、広い屋根付きの施設に軟禁されている状態。

よって町中に気配があるワケではないため、頭痛や吐き気が起こる事はありえない。

ちなみにリュンの気配は、()()()()ちゃんと感じ取っている。



少し休み、自分の体力が、なんとか自力で歩けるくらいまでに回復すると、かなえはすぐに立ち上がった。

そしてリュンの気配を頼りに、かなえはその方向へと、再び駆け出した。

もう随分……星川町公民館の体育館から移動したわね。

体育館の皆に黙って抜け出して……何分……いや、何十分経っただろ?

だけど……もうすぐリュンちゃんに会える……気配は弱いけど……近くに居る……。



気配は……近い。



かなえは、いったい自分の知らない所でなにが起きているのかは知らない。

でも、それでも……親友がこの町に戻って来てくれた事に、感謝した。

無事に会えたら……笑顔で『おかえり』って言おう。

それで……なんらかの理由で私との接触を拒絶されたら、『また会おうね』って言おう。

そう強く心の中で誓いながら。かなえは1歩1歩、確実にリュンが居る方向へと歩みを進め――――



――――リュンと、リュンをおんぶするテロリストと、そのテロリストの護衛らしきテロリストと鉢合わせした。



「なっ!? なんでこんな所に町民が!?」

「し……知るかよ!! とりあえず捕まえとけ!!」

人質の1人で、軟禁されているハズのかなえと鉢合わせし、慌てながら会話を交わす2人のテロリスト。

一方かなえは、目を見開いてはいるものの、慌てていなかった。

いや。それどころかかなえの視線の先は、()()()()()()()()()()()()


「ちっ! そうするしかねぇよな。んじゃあおとなしくしろよ……お譲ちゃん」

リュンをおんぶしているテロリストの、護衛のテロリストが、

懐から拳銃を右手で取り出し、かなえの前に突き出し、かなえを脅す。

しかしかなえは、ピクリとも反応しない。拳銃を前にして、恐怖で動けなくなってしまったのか?

「はっ! そうそう……動くなよ?」

拳銃を右手に持ちながら、左手に、同じく懐から取り出した縄を持ち、

それでかなえを縛ろうとかなえに近付く……だが、



ガンッ



「「!!!!?」」

なにか硬い物が、なにかに当たる音がすると同時に、2人のテロリストは驚愕した。

目の前に居るかなえが、自分に近付いてきた方のテロリストが

右手に持っていた銃を、()()()()()()()()()()()()()()()

かなえのその雰囲気が、そして文字通り()()()()変化した、その光景に。



「…………………………せ……………」



ゆっくりと脚を下ろしながら、かなえは低く、重みがある声でなにかを呟いた。

その声は小さかったため、そしてかなえの雰囲気が急に変わった事に驚愕していたせいで、

テロリスト達はかなえがなにを言ったのか分からない。

それを知ってか知らずか、かなえはそんな2人に対し、再び言う。

だが今度の声は、かなえの中で爆発的に湧き上がる怒気がのこもった、怒声だった。



「……………の……私の親友を……返せえええええええぇぇぇぇぇええええええぇぇぇぇぇえええええっっっっっっ!!!!!!!!!」



かなえは先程リュンの右腕を見ていた。リュンの、()()()()()()()()()()()()()

そしてその瞬間、〝かなえの中に在るナニか〟が爆発した。

一瞬で頭に血が上り、理性という名のリミッターが外れ、

怒りに身を任せ、どうなるか知ったこっちゃないと言わんばかりに、

まずは相手のテロリストが、右手に持っていた拳銃を蹴り飛ばした。


占拠、そして閉鎖された星川町とはいえ、電気が点けっぱなしである家があるため明るく、

そのために拳銃を左足で蹴り飛ばした時に、テロリストの2人に

下着を見られたかもしれないが、そんな事はお構い無しに。

そしてかなえは次に、その心の奥底から湧き上がる衝動に身を任せ、テロリストの2人に――――



午後21時57分

星川町公民館付近 某道路


「……………も……う少し……だよ……リュン……ちゃ……ん……」

かなえは目を覚まさないリュンをおんぶしながら、星川町公民館の体育館を目指していた。

先程から感じている吐き気をムリヤリ我慢し、息も切れ切れの状態で、疲れてフラフラの体に鞭を打ちながらも。

返り血で、そして雨で濡れたその浴衣の事など、眼中に入っていないとでも言いたげに。

ただただ、皆の待つ星川町公民館の体育館を目指した。



同時刻

某家屋内


「……信じられない」

レイア=ホドウィック博士は、目の前で起きている異常に、ただただ困惑していた。

一応博士でもあるので、この宇宙にはどれだけ不可思議な現象があるかを、ある程度知っている。

しかし、今目の前にある現象だけは、今まで見てきた中でも特に異常だった。



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



ハヤトは異能力『再生(リバース)』を使える異能力者じゃない。

ただ異常に足が速いけど……それだけのハズ。なのになんで!?

まるで……()()()()()()()()()、異能力『再生(リバース)』よりは劣るものの、

他の異星人と比べると、回復スピードが異常に早い異星人みたいじゃない!!



()()()……()()()……()()()()()()()()()()()()()()()



「……じゃあ……レイア博士。いってきます」

レイア博士の中に浮かんだ、〝無視できない程大きな疑問〟の事などつゆ知らず、

ハヤトは自分の上半身に巻かれた包帯の上に、その家屋のタンスの中にあったTシャツを着ると、

まるで母親を前にしているかのように、レイア博士に微笑みを見せ、

鞘に入った状態の代刀を両手に持ち、明るい声でそう言った。

そしてそのまま、玄関のドアを開け、次こそはギンを止めようと、駆け出そうとした……その時、


「ま……待ちなさいハヤト!!」

レイア博士は慌ててハヤトを引き止める。

「ん? なんですか、レイア博s――――」

急に止めたレイア博士に対し、怪訝な顔などせず、ただ頭の上に

クエスチョンマークを浮かべて、ハヤトは後ろを振り向いた。

するとハヤトはその瞬間、一瞬言葉を失う程驚いた。

「――――そ……それは!?」



果たしてそこには――――鍛え直し、鞘に収めた『双月』を持った、レイア博士が居た。



「ふぅ。()()この町に来た目的を忘れるところだったわ」

レイア博士は溜め息を1つ吐いてそう呟くと、とりあえず先程浮かんだ疑問を脇に置き、さらに続けた。

「君に『双月』を届けようとしたけど、町は隔離されてるわ、町中には怪しい連中が跋扈してるわ、

ギンイチが敵側に居るわで……ビックリし過ぎて来た瞬間、一瞬だけ目的を忘れたわよ」

半分呆れながら、レイア博士はまた溜め息を吐いた。


それを見たハヤトは、自分の知り合いであり、武器関係での協力者であるレイア博士に、

そんな不快な思いをさせた事に少し罪悪感を感じ、表情を暗くした。

しかしすぐにレイアは気持ちを切り替え、まるで子供を見送る母親のように、

優しい眼差しをハヤトに向けながら、



「この町の事……頼んだわよっ!」



星川町の存続を心から願いながら、そう告げる。

そしてハヤトも、すぐに気持ちを切り替え、

「はいっ!」

と、元気の良い返事をした。




同時刻

『塔』 2階


『カルマ君、あと10分程で援軍……と言っても少数精鋭だが、到着する。それまで持たせてくれ』

「了解。ありがとうございます」

カルマは小型ノートパソコン越しに、他の『異星人共存エリア』の所長達と通信をしていた。

さすがにテロという大きな事件を、たった数人の戦力で解決できるハズがない。

なのでカルマは、他の『異星人共存エリア』に連絡し、援軍を要請したのだ。


小型ノートパソコンの画面は4つに区切られ、ハヤトを除く4人の所長達の顔が映し出されている。

ちなみに、最初の台詞を言ったアメリカの所長の声は、小型ノートパソコンのスピーカーから出た。

みんなの想像通り、小型ノートパソコンに取り付けたカメラを通じてでの通信である。

科学が少々発達しているにもかかわらず、どちらかというと現代風な通信方法であるが、

あいにく『塔』の中には立体映像とスピーカーによる通信システムが無いため、このような通信手段しか使えない。


『でも~~……まさか〝団体〟に裏切り者が居たなんて~~……』

ロシアの所長が、両腕を組みながら言う。

『理由はどうであれ……許される事ではありません!』

イギリスの所長は、いつものおとなしい態度からは想像できない、怒気を含んだ声で言った。

『ウム。事件が終息し、ギンイチを逮捕したら即裁判だな』

エジプトの所長も、目を鋭くしながら告げた。


「……………裁判……か」

『む? なんだカルマ? なにか意見でもあるのか?』

『裁判』という単語が、自分よりも年下の少女であろう、

エジプトの『異星人共存エリア』の所長の口から出た瞬間、カルマは改めて事態の重大さを思い知った。

ギンはこれからの『異星人共存エリア』の運命を左右しかねない、とんでもない事件を起こした。

それは裁判で取り上げられなければいけない程、重大な事件だと。



それを思い知らせた人物が、まさか俺より年下の女の子とは……なんだか少し、自分が情けなくなるな。



「いえ。なんでもありません」

しかしそんな意見を言うワケにはいかないと思い、カルマはわざとウソをついた。

もし言えば、大人な性格であるエジプトの所長は、長ったらしい説教を始めるかもしれない。

ふと……なぜかそのような予感が、カルマの頭をよぎったのだ。

『……ふむ。まぁいい』

エジプトの所長はそんなカルマに対し、かわいらしく小首を傾げつつ、そう返した。

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