想い、伝えて
その後すぐやったか……ウチの中に在ったのが……〝恋〟という……
心が痛く……同時に温かくなるモノやって……気付いたのは。
と言っても、優ちゃんとユンファちゃんに『ソレは恋じゃないの?』って言われたからってのも……あるけど。
まぁでも……何度も……何度も……ウチに温かい笑顔を向けて……ウチも笑っていいんだよって……伝えて。
故郷の内戦のせいで、自分から心を閉ざしたウチに……光を灯して……もう、反則や。
そしてその反則は、ウチの心までも……変えた。
そしてウチは上司の……恩人達の命令に初めて逆らった。
何度も何度も……報告には『探している』とだけ伝え、
ウチはハヤトと……そしてギンと共に、星川町で生きる道を選んだ。
理由は、2人が所属する〝団体〟に秘密は無いって……事だけやない。
それに加え、町の人達が……みんな優しいからや。
スパイである自分に……こちらが申し訳なくなるくらいに……
せやから恩人達には悪いけど……ウチはこの町……いや、
『異星人共存エリア』に〝未来〟を懸けようと思います。
現在
某家の庭
「いい加減にしろや、リュン」
ギンが眉をひそめ、鋭い眼差しを向けながらリュンに呼びかける。
しかしリュンも、1歩も引かない。
それどころか、自分の喉に向けていたナイフの切っ先を、さらに喉に近付け、
「嫌や。アンタがさっさと投降せぇへん限り、ウチは命を懸けてでもアンタを止める覚悟や」
ギンに決意の眼差しを向け、言い返す。
「ウチが死んだら、間違いなくアンタとそのお仲間さんが恐れている『星間大戦』は勃発する。
ジ=アースを含めて……この宇宙に存在する星々が死の星になるんは……ソッチの望みやないやろ?
せやったらさっさと投降しぃ。ウチは、アンタを止めるためなら……もしもの時は命を張る覚悟やで?」
「……なんでや?」
リュンの狙いは、なんとなく……という程度であったが、ギンには分かっていた。
しかし直接本人からその狙いを聞いた途端、ギンは心に穴が開いたかのような、とめどない喪失感を覚えた。
コイツなら分かってくれるかもしれない。
一方的にそう思っていたからこその、喪失感だ。
「なんでそうまでしてワイを止めようとするんや?」
声を荒げ、ギンはリュンに問うた。
「ワイはみんなのこれからの幸せを願って、この事件を起こしたんや!!
なのになぜ分かってくれへん!!? 全てを元の鞘に収めればこの宇宙から……
ほんの少しだけかもしれへんけど、悲劇が消えるんやで!!?」
「ならアンタは!!」
ギンの意見は間違ってはいない。
地球でも、未だに人種問題などの様々な問題が山積みだ。
それなのに、別の星の民との交流なんぞしようものなら、さらに問題が増えるというもの。
でも……それでも、リュンはギンの意見に納得できなかった。
確かに世界には、様々な悲しみや憎しみ、悪意が在るのかもしれない。
でも、そんな世界だけど――――
「アンタは……ウチと永遠に会えなくなっても……ええんか?」
――――運命的……とまではいかないが、星々の交流によって、こうして出会えたではないか?
「ウチは嫌や!! なんでそんな事のために離れ離れにならなあかんのや!!?」
目尻に涙を溜めながら、リュンは震える声でギンに問うた。
しかしギンは、何も答えな……否、返答の言葉が見つからず、答えられない。
なぜなら……ギン自身、心の奥底ではこの事件の果てにある展開を望んでいないのだから。
それでも計画を実行したのは、自分を含めた多くの異星人関連の事件の被害者達の切なる願い――――
――――これ以上自分達と同じ悲しみを、後世の者達に味わわせたくない――――
――――を叶えるため。
そしてその願いを成就させるために、ギンは心を鬼にした……ハズだった。
……………なんでや? なんで今さら……こんなにも胸が苦しく?
リュンに改めて尋ねられた時から、自分の中にまた戸惑いが生まれたのを、ギンは感じていた。
そしてそんなギンに対し、リュンは1つ深呼吸をした後、
まっすぐな眼差しで、恥じらいを捨てて、告げた。
「ウチはギンが好きや。異性として」
ギンの心を大きく揺さぶる言葉を。
「!!!?」
いきなりの告白で目を丸くし、ギンは言葉が出なくなる。
自身の特技『読心術』が、その言葉が真実であると……
けっして、自分に揺さぶりをかけるために発した台詞ではなく、心からの言葉であると悟らせたからだ。
でも……なんで今さら……そないな事を!? いやそもそも……
なんでワイはそないな事に気付かへんかったんや!!?
自分でもワケが分からない事が起き、頭の中がグチャグチャになりながらも、必死に答えを探した。
しかしギンが結論に達する前に、リュンは顔を赤くし、さらに告げる。
「せやからウチは……アンタと2度と離れとぉない!!」
目から溢れ出る涙が、雨に混じりながらも、
「『星間大戦』なんか知った事かいな!!?」
死ぬのは正直怖い。体が震えるくらい。だけど、
「離れるくらいなら……ウチはここで命を絶つ!!」
それでも、大好きな人を止めたいから。
「……………っ!!」
紡ぐ言葉が……見つからない。いや。それどころか、
『ウチはギンが好きや』
その言葉が、頭の中で反芻する。
同時に、一切の思考が途切れた。
言った……言ってもうた。
一方その時、リュンは状況が状況なため、ギンの計画を止めようとして、
思わず口走ってしまった愛の告白を、今さらながら恥ずかしく思った。
とはいえ、他にギンを動揺させる言葉など彼女の中には無かった。
だから実のところ、無意識の内に思わず言ってしまったものの、彼女に後悔は無い。
その言葉は〝本当の想い〟なのだから。
リュンは顔を赤らめながらも、ギンの顔を見据え、思う。
こないな状況で告白なんて……ちょっと卑怯クサイかな?
でもこうでも言わんと、基本飄々としてるギンを動揺させる事は不可能。
今の内に……ギンが動揺しとる今の内に……早く次の手を!!
とりあえず、自分の視界内に使えそうな物がないかと、両目だけを動かし、探した。
真っ暗な上、雨が降っているため視界は悪いが、それでも探す。
だがその瞬間
トスッ
という鈍い音が、自分の右腕から聞こえた。同時に、右腕に激痛が走る。
思わず、右手に持っていたナイフを下に落とした。
とっさにリュンは、痛みに顔を歪めながらも、右腕の方に目を向けた。
するとそこには、自分の右腕に、自分が持っていたのと
同じくらいの刃渡りのナイフを突き刺している、1人の、自分と同い年くらいの少女が居た。
「ギンイチの心を乱さないで」
無表情のまま、少女は言った。
「私達の計画の完遂には、ギンイチが必要なの」
そして少女は、ゆっくりとナイフを引き抜いた。
リュンの右腕の、ナイフという名の栓が抜かれた傷口から、
ドバドバと、ナイフが刺さっていた時よりも大量の、緑色の血液が流れ出た。
「くっ!」
リュンはすかさず、地を蹴って少女と距離をとる。
と同時にリュンは驚いていた。
かなえの異能力『感知』ほど鋭くはないが、相手の気配を察知する事ができる自分が、
目の前の少女の気配を、刺される直前まで気付く事ができなかったからだ。
な……なんやこの子!? ギンの仲m……………!!?
少女と向き合うように移動し、もしもの場合に備え、片手だけとはいえ、とりあえず臨戦態勢に入るリュン。
だがその瞬間。
グラリ
「こ……れは……?」
ドシャッ
突然視界が揺らぎ、リュンはその場にうつ伏せに倒れた。




