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とある傭兵の話

数年前

某国


1人の傭兵が居た。

戦いだけが、自分が生きていると唯一実感できる手段だと思っていた、1人の傭兵が。

そんな傭兵がある戦地で、銃で撃たれケガを負った。

幸い、命にかかわる程のケガではなかった。だがケガを負った直後、運悪く敵に見つかり、傭兵は逃げた。

とにかく逃げて……治療をしなければ。

万全の状態であったならば、絶対に負けない数の敵に背を向け、傭兵はひたすら逃げた。


そして、敵の追跡をやり過ごそうとして逃げ込んだとある洞窟で、傭兵は1人の少年に出会った。

「オジさん、もしかしてあの政府軍と戦ってる兵隊さん?

だったらオジさんは僕の味方だし、僕はオジさんの味方だよ!」

笑顔でそう言うと少年は、洞窟の、戦地から少し離れた

〝とある場所〟に繋がった道へと、傭兵に行くよう促した。



不思議なガキだな。



それが、傭兵が少年に抱いた、第一印象だった。

だけど、いつまでも洞窟に留まっていたら、いつかは敵に見つかるな。

そう思い、とりあえず少年に付いて行き、辿り着いた洞窟の先には、

戦地から逃れた人達が避難している避難地である、元々教会であったであろう建物があった。

建物の天辺に付いている、色あせ、ボロボロになった十字架だけが、その事を(もの)(がた)っていた。


こんな所に俺を連れてきて大丈夫なのか、と傭兵は疑問に思った。

試しにその事を少年に尋ねてみると、少年は、自分と出会った時と変わらない笑顔で答えた。

「大丈夫だよ! みんなこの国の政府にはウンザリしてるんだ!

で、オジさんはその政府と戦ってるんでしょ? だったらオジさんは僕らの英雄だよ!」


そういえば、さっきも似たような事を言ってたな。

ふと傭兵は思う。

だけどそれだけの理由で、他の避難民も、少年と同じように俺を受け入れてくれるのか?

いくら考えても、そんな光景は傭兵の頭の中で思い浮かばない。

当たり前だ、と傭兵は自分自身に言い聞かせる。



なぜなら自分は、



例えこの国を変えるために戦っていたとしても、



結局は〝ヒトゴロシ〟なのだから。



「みんな! 僕達の英雄さんがケガしてるんだ! 誰か救急箱持ってきて!」

だがそんな自分の思いなど知った事じゃないとでも言いたげに、少年は避難民のみんなに呼びかけた。

このままじゃなにを言われるか分からんな。

傭兵は少年の気持ちだけを受け取って、すぐにその場から退散しようとした……のだが、


「おいおいアンタ、大丈夫かぇ?」

「早く救急箱を用意しろ! 早く!」

「大変! 早く治療しないと!」

「オジちゃん大丈夫なの?」

「大丈夫よ。絶対治るから」



避難民のみんなの、自分に対する言葉に唖然とした。



なぜみんな、ヒトゴロシである俺に、そこまで構う?



傭兵は、ワケが分からなくなった。



「そりゃあ……あなたがなんのために戦っていたとしても、

あなたは私達の国を変えようとしてくれている。その事実は変わらないもの」

自分を避難民達が集まる元・教会へと案内してくれた少年の姉だという女性が、

傭兵のケガの治療をしながら、傭兵にそう返答した。

「怖くないのか? 俺はヒトゴロシなんだぞ?」


試しに傭兵は、女性にそう尋ねてみた。

すると女性は、急に黙り込んだ。

仕方ないよな。それが普通の反応だ。

戦場に居るのは、〝自分が正義だと思い込んでいる悪〟か、

俺のように戦場でしか己の価値観を見出せない者、戦いを欲する者……そんなヤツだけだし。


「確かに……怖いよ」

やっぱ、そう返答するわな。

自分から視線を逸らしながら呟く女性に対し、傭兵は思った。

だったらもうここには用は無い。礼でも言って、とっとと退散するか。

俺が居る事で、この避難地にも戦火が降りかかる可能性はゼロじゃな――――



「――――でも、期待はしてる」



……………は?

「誰がどんな理由で戦っていようとも、変えようとしている人が居る限り、

きっと……ううん。絶対未来は変わる。私はそう信じてる」

……………は? なんだよ。期待……だって?

その言葉を聞いた瞬間、なぜだか傭兵は今までに感じた事の無い、妙な気持ちを覚えた。

悪い感じはしない。むしろ心地良いような……心の奥底がこそばゆくなるような……そんな気持ちを。



数日後


傷が癒えてすぐ、傭兵は再び戦地へと赴いた。

ただし、自分の価値観を見出すために行くのではない。

自分に期待を寄せている人達に応えるために、戦場に赴くのだ。

内戦が終わったら、またあの教会にでも顔を出そうかな?

ふとそんな、今までの自分らしからぬ事を思いつつ。



だが、せっかく変わる事ができた傭兵のその思いは、そのさらに数日後に()()()()()




……………なんだ……アレ?

傭兵は空を見上げていた。周りには、傭兵と同じ方向を時々見上げながら、逃げ惑う兵隊達。

視線の先には、この場に居る誰もが、今まで見た事が無い()()()()()()()()()()()()()()

そしてその物体の下部からは、幾多もの〝砲身〟が突き出ていた。

……………ヤバイ……ヤバイぞ……なんでか分からんが……絶対ヤバイ!!

すぐさま傭兵も、周りの兵士達と同様、その場から逃げようと走り出した。


だがその直後、謎の飛行物体の砲身から、まるで旧約聖書において、

堕落都市ゴモラを焼き尽くした炎の矢を連想させる、幾多もの光の雨が発射された。

地獄だった。逃げ惑う兵士達はなにもできないまま光の雨に打たれ、倒れた。

かろうじて原形を留めていた建物も、運良く残っていた自然も、光の雨によって焼き尽くされて――――



――――たった数分で、周囲一帯が火の海と化した。



そんな中で、奇跡的にも光の雨の余波を浴びただけで、

ほとんど無傷だった傭兵は、慌てて教会のある場所へと急いだ。

あそこだけは無事であってほしい。

ただ、それだけを思いながら……だが、



…………………………ウソ……………だろ……………?



彼の思いもむなしく、教会も光の雨によって、焼き尽くされていた。



自分が始めて、『誰かのために戦おう』と思えるようになった〝キッカケ〟をくれた人達が――――



――――みな、死んでしまった。




数年後


傭兵は戦場に現れた、謎の飛行物体の正体を追っていた。

なんとしてでもその正体を突き止め、自分を変えてくれた者達を殺した、操縦してた者達を殺すために。

そしてある日。傭兵は『セーブ・ド・アース』という名の組織にスカウトされた。

いや、正確にはスカウトだけじゃない。

『セーブ・ド・アース』は、傭兵がずっと知りたかった〝真実〟を伝えた。


『セーブ・ド・アース』の情報によると、周りの兵隊だけでなく、避難民まで殺したのは、

『戦争を止めるには、戦争をする者達全員を殺すしかない』

という信念のもと、宇宙中のあらゆる戦地へと赴き、

戦地と、その周辺を焼き尽くしている、とある異星人達の組織だそうだ。


「アンタとワイらは似たような境遇さかい。せやからワイはアンタに尋ねる。

ワイらと一緒に、この地球から異星人達を追い出さへんか?」

そう言いながら、『セーブ・ド・アース』の幹部の1人であるギンは、傭兵にそっと手を差し伸べた。

傭兵は、なにも言わずに、差し出された手を握り返した。



現在


『誰がどんな理由で戦っていようとも、変えようとしている人が居る限り、

きっと……ううん。絶対未来は変わる。私はそう信じてる』

自分を変えるキッカケとなった、あの戦場で出会った少年の姉である女性の言葉が、

()()()()()()()()()()()()()()()()男性の頭の中で、繰り返し再生される。


……………あぁ、そうだよな。未来は……絶対変わるよな。理不尽な〝今〟に反抗するヤツが居る限り。

一瞬、口元が緩むものの、すぐにキッと歯を食いしばり、

目の前に居る成年の連続攻撃の合間を縫い、成年に連続攻撃を放つ副リーダー。

待ってろ。この事件が終われば、絶対……アンタや、アンタの弟……いや、違うな。

世界中のみんなが望んだ――――輝ける未来がやってくるから。

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