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体育館奪還作戦

作戦はこうだった。

まず麻耶が、麻耶が気絶させて拘束した、

小柄な女性テロリストに成りすまし、かなえを連れて体育館の中に入る。

次にかなえを元の場所へと戻し、体育館の電気のブレーカーがある所へと向かい、

体育館のブレーカーを下げ、体育館を真っ暗闇にする。

そしてその瞬間、亜貴と麻耶の2人が、星川町に入る前に用意した、

前の職場で使っていた『暗視ゴーグル』を付け、暗闇に乗じてテロリスト達を撃退する。


正直、この作戦はうまくいくと、かなえは思っていなかった。

なぜなら麻耶と、麻耶が服を拝借した小柄な女性テロリストは、

背丈や体型、髪の長さが微妙に似ているものの、顔や髪型が全く違う。

髪型の方はなんとかなるにしても、もし侵入したらすぐにバレるのではないか、と不安になるからだ。

なのになぜ麻耶は、そんなに自信を持って『大丈夫』だなんて、言えるのだろうか?

かなえは最初、どうしてなのか分からなかったが、すぐにその理由が明らかになった。


麻耶は星川町に入る前に用意した、前の職場で使っていた『変装アイテム』を使って、

自分の顔や髪型を、自分が気絶させ、服を拝借した小柄な女性テロリストに()()()()()()()()

……………凄い……さすがは、探偵結社の諜報員って感じ。

かなえは、見る見るうちに麻耶の顔が、麻耶が気絶させた

小柄な女性テロリストに似てくるのを見て、驚愕しながら思った。


先程亜貴から前の職場の事を、簡単に聞いた。

しかしかなえは、正直その時は、亜貴の話を信じる事ができなかった。

いや。そもそも星川町を始めとする『異星人』絡みの真実以外にも、

『探偵結社』絡みの真実も信じる、というのがムチャかもしれない。

だけど、かなえは麻耶の変装の過程を見て、なんとか納得した。


そして麻耶の顔と髪型が、ほとんど、麻耶が気絶させ、

服を拝借した小柄な女性テロリストと似たところで、かなえと麻耶は体育館の扉を開けた。

ちなみにかなえは、麻耶が星川町に入る前に用意した

ロープによって、両手を後ろ手に縛られた状態で、だ。

かなえを、自由が利く状態で連れてくるとバレる可能性が出てくるからだ。



星川町公民館の体育館内は、ほとんど静寂に満ちていた。

テロリスト達は、緊張のあまりピリピリし、町民の皆は不安げな顔をしていた。

先程の、どこからか聞こえてきた爆発音のせいもあるだろう。

敵か味方か、もしくはどちらでもない他勢力による爆撃だと、みんな思っているのだ。

そんな中を、かなえと麻耶は歩いた。

ごくごく自然に、そしてテロリストのメンバーと目が合わないように注意しながら。


数分して、かなえはランスとエイミーが居る場所へと辿り着いた。

衰弱しきって、目の焦点が合っていないどころか、意識が朦朧としている、ランスとエイミーのもとへ。

「!!? エイミーちゃん!!? ランス君!!?」

かなえは両手を後ろ手に縛られた状態のまま、慌てて2人に駆け寄る。

そして必死に2人に呼びかけるが、2人は無反応だ。

それだけ、星川町に散布されたウィルスによる症状が進行しているのだ。


「ど……どうしよう……このままじゃ、2人共……ううん。それだけじゃない。この町のみんなが……」

ランス、エイミーだけでなく、星川町公民館の体育館内に居る異星人達を見回しながら、

かなえは最悪の結末の1つを、思わず想像してしまった。

ギンを筆頭とするテロリスト達の計画が、思うように進まない事が原因で、



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



エイミーが――――



ランスが――――



ユンファが――――






――――――――――――死ヌ――――――――――――






……………嫌だ……嫌だ……そんな結末は絶対に嫌だ!!!!



かなえは心の奥底から思った。



だけど同時に






私は…………………………無力だ。






行動を起こしたいけど、その行動を取れない自分が居る事に――――






――――気付いた。






エイミーちゃんやランス君、たぶん別の場所で軟禁されている

ユンファちゃんの苦しみを和らげてあげられない。

そのユンファちゃんと共に居るかもしれない、優ちゃんを助けに行く事もできない。

私が弱いから……異能力『感知』以外に、チカラが無いから……いや違う。



――――そしてかなえは



チカラが無いから動けないんじゃない。



――――自身の



()()()()()()()()()()()……()()()()()()()()()



――――〝中身〟を悟った。



わ……たしは……私は……



最低だ。



最低の……人間だ。



自分で



自分を



呪いたくなった。






ついにかなえは、自分だけがそんな思いをしているワケではない事に気付かない程、

自分の親友や知人の容態に動揺し、マトモな思考が働かなくなった。

今までは事件を起こしたギンに対する怒り、そしてランスとエイミーを

置いて行った亜貴への怒りのおかげで、少しはマトモな思考を保てた。

でも今は、星川町の現状を知ったせいで、一気に頭が冷えている。


こうなる事は、おそらく誰もが予想できた。

異星人と共存するという〝非日常〟が、時が経つにつれ〝日常〟と化し、

そんな〝日常〟の生活が一瞬で、〝戦場〟という名の〝悪夢〟へと変わってしまえば、

どこへ行くべきか、誰を助けるべきか、そんな思考など一瞬で吹き飛び、



狂ってしまう。



それが〝戦場〟。



それが〝人間〟なのだ。






しかしここに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()






「……この子達がこの町の……亜貴先輩の家族の子達?」

その者――――麻耶の言葉が、かなえの自虐的な思考を止めた。

不意に離しかけられた事で、一瞬どう応えたらいいのか分からなくなるかなえ。

だがすぐにかなえは、ただ、無言で頷いた。

なにかを言う前に、身体が先に動いたのだ。

すると麻耶は、キリッと表情筋を引き締め、

「分かったわ。あとは任せて」

それだけ言って、星川町公民館の体育館の、ブレーカーのある部屋へと向かった。


麻耶がブレーカーのある部屋へと向かうのを見届けながら、かなえは思う。

麻耶さんは、強い人だ。自分よりも……ずっと……ずっと……………

いったい、どんな修羅場を、どれだけの場数を乗り越えたら、あそこまで強くなれるのだろう?

自分が今変装している、小柄な女性テロリストをいつの間にかオトし、

まるで地獄のようなこの町の現状にも動じないくらい、強く……強く……………。




麻耶が、星川町公民館の体育館のブレーカーがある部屋へと、こっそりと侵入した。



次の瞬間。星川町公民館の体育館が、一気に暗闇へと変貌する。



星川町公民館の、体育館に軟禁されている町民達を救出するための作戦が、開始された。




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