革命の目的
午後20時25分
星川町公民館
町内会の会合などで使われる、公民館の2階にある『会議室』。
そこはすでに、『会議室』と呼べるような部屋ではなくなっていた。
椅子や机はほとんど消え、テロ組織『セーブ・ド・アース』のメンバーによって、
カメラや照明、マイクなどの様々な機材が持ち込まれ、
例えていうなら、TV局のスタジオと化していた。
そんな小部屋の中心。1台の、電源の入っていないカメラの前に置かれた1脚の椅子に、ギンは座っていた。
国際連合へと、自分達の意思を伝えるために。
だがそんな緊迫した空気が流れる小部屋に突然、ギンの部下の1人が血相を変えて慌てて入ってきた。
「た……大変ですリーダー!! 町の『電磁バリア』が消えました!!」
「……は? いったいどういうこっちゃ?」
自分の部下からの報告に眉をひそめるギン。
それを見てギンの部下は、また慌てた様子で頭を下げ、片膝を立てて座りながら報告の続きをした。
「は……はい!! 6分前!! 町上空を覆っていた『電磁バリア』が突如消滅し、
どういう事なのかをすぐに【Searcher】へと確認を取ろうとしたのですが!!
その【Searcher】と連絡が取れず!!
おそらく『塔』でなんらかのトラブルが起こったのだと思われます!!」
「……ふぅん。で、原因の方は?」
「メンバーを2人、『塔』の確認に行かせました!! じきに分かると思います!!」
「ならええ。というか、メッセージを発信する数分間は『電磁バリア』を消す予定やったんや。
多少発信する時間は早まると思うけど……まぁ問題ナッシングや。気楽に行こっ!」
「は……はいっ!!」
ギンの部下が、頭を深々と下げて返事をした。
「よし。ほんじゃ、早速準備にとりかかろうか。とりあえず――――」
「――――まずは〝総理官邸〟へと、メッセージを伝えるための準備を始めよか」
同時刻
ハヤトが乗ってきた小型宇宙船内
「……なんだろう? なにか凄い嫌な感じがする」
占拠された星川町へと侵入するため、ハヤトが乗ってきた小型宇宙船に、
ハヤト、そして亜貴達と共に乗り込んだ和夫は困惑した。
まるで大切な者を喪ったかのように、ギュッと、胸が強く締め付けられる。
するとその時、隣の椅子に座っていたハヤトが和夫に、険しい顔をしながら話しかけてきた。
「和夫さん……俺もです。なにか……嫌な予感がしてなりません」
言うと同時、2人は同時に顔を見合わせ――――慌ててパイロットに指示を出した。
「「早く!! 急いで町の中へ!!」」
「りょ……了解!!」
2人の必死な顔を見て、ただ事ではないとパイロットはすぐに察した。
なにがなんだか分からないが、とにかく急がなければ!!
パイロットは小型宇宙船のアクセルを、さらに深く踏み込んだ。
小型宇宙船は、今までに出した事が無かった最高速度で、『隔壁』の天辺を目指して飛んだ。
同時刻
ハヤト達が居る空域 反対側
「……なんやコレ? まるで監獄やないか!?」
ハヤトとは別ルートでチャーターした、小型宇宙船の窓から外の光景を見ながら、リュンは目を丸くした。
とある組織により、星川町に送り込まれた間者であるリュンも、
星川町が非常事態の時、町の境界から分厚い『隔壁』が上がる事までは知らなかったのだ。
「ウチがちょっと居ない間に、いったいなにがあったんや!?
ちょ、パイロットはん!! はよぉ町の中に入ってぇな!!」
「は……ハイエッサー!!」
リュンの慌てた様子を見て、ただ事ではない事態が起こっている事を悟ったパイロットは、
リュンの指示通り、アクセルをさらに踏み込み、小型宇宙船のスピードを上げようとした。
だがその瞬間、突然運転席の方から声が聞こえてきた。
『下方ヨリ 人ノ生命反応ヲキャッチ』
それは、女性の声に似せた機械音声。
今乗っている小型宇宙船に搭載された人工頭脳の声だ。
「な……なんやて!? まさか町の外に取り残された星川町の住人かいな!?」
人工頭脳の報告を聞き、一瞬驚くリュン。
だがすぐに、もしかすると、今の状況を知っておる人物かもしれへん。
さっさと町に侵入したいけど、なんも情報も無しに入るのは無謀すぎる。
町でいったいなにが起こっているか、予想できへんし……一応、その人物に会っとかなアカンな。
冷静に、今分かっている事実を頭の中で整理し、今すべき事を導き出す。
そしてリュンはパイロットに、小型宇宙船をその者の近くに停船するよう、指示を出した。
午後20時27分
星川町公民館 2階 会議室
『電磁バリア』が消え、それを制御していた者と連絡が取れないという状況のせいで、
テロ組織『セーブ・ド・アース』の構成員達は、内心焦っていた。
もしかすると、今回の作戦は失敗するかもしれない、と。
しかし今回の作戦は、地球を始めとする、全ての有人惑星の未来を正しき方向へと導く為に必要な事。
それゆえ彼らは、例え失敗する可能性が少しでもあろうとも、やるしかなかった。
「カメラ!! ピントOK!!」
「ライト!! 明るさ良好!!」
「マイク!! 異常ありません!!」
小部屋に持ち込んだ様々な機材の点検が終わる。
同時にギンは、カメラの前に置いてある1脚の椅子に座り直し、指示した。
「ほんなら……本番スタートや」
そして、ソレは始まった。
午後20時24分
総理官邸 対策本部会議室
総理官邸の地階にある『対策本部会議室』に集まっている官房長官、そして閣僚達は、
すでに全国家共通のトップシークレット事項の1つである、
世界に5つある『異星人共存エリア』の内の1つ『星川町』に起きた事を耳に入れていた。
『異星人共存エリア』をよく思わない、いわゆる敵対組織である『セーブ・ド・アース』によるテロ行為。
前代未聞の事態だ、とみんな心の中で思っていた。
唯一の救いは、昔起きた〝『御上村』での事件〟を反省し、
同じ出来事が起こった時の事を考え、宇宙連邦と協力し、
『異星人共存エリア』の事が世間に知られないよう、『異星人共存エリア』がある土地の周囲に、
あらゆる音を相殺させる『サウンドキャンセラー』などの仕掛けを設置していた事か……。
しかしそれでも、『異星人共存エリア』の1つがテロリストにより占拠された事には変わりは無い。
早く次の対策を考えねば、いずれ世間に『異星人共存エリア』の存在が知られてしまう可能性がある。
いや、それだけでは終わらないかもしれない。
もし異星人の存在が今、世間に知られれば、世界中が大混乱に陥り、
『セーブ・ド・アース』以外の【異星人移住反対】を掲げる団体の行動を煽ってしまう可能性も出てくる。
もしそうなれば、良くて地球は宇宙連邦の〝仮の加盟〟を取り消し。
悪くて、地球と宇宙連邦との間で『星間大戦』が起こる。
後者の事態だけは、なんとしてでも避けねばならない。
もし『星間大戦』の火蓋が切られれば、地球は数日で死の星になるのだから。
「というか、町に2人以上居るという、〝あの団体〟はなにをしているんだ!?」
列席している閣僚の1人が、まるで野次でも飛ばす勢いで質問をした。
するとその質問には、同じく列席している1人の男性が答えた。
『異星人共存エリア』の1つ『星川町』を時折こっそりと監視し、
その様子を『異星人共存エリア』の存在を知っている1部の国政関係者に伝える役目を
月交代で担っている情報組織の1つ『内閣情報調査室』。
通称『内調』の構成員の1人である神奈英嗣だ。
「例の〝団体〟に所属する、【星川町揉め事相談所】所長である
光ハヤト氏は、数日前に私用で異星へと向かっています。
ですので今現在……と言いましても、自分があの町に最後に入ったのは、
ハヤト氏が異星へと向かう2日前。その時点では少なからず、副所長であr――――」
「ま……待て待て! 私用!? いったい彼はなんの用事で町を離れた!?」
「【相談所】の電話の電波を傍受したところ、なんでも、
何者かに連れ去られた身内の手がかりを見つけたと――――」
「ふざけるな!!」
最初に質問した閣僚ではない、別の閣僚が、怒鳴り声を上げた。
「そんな事!! 宇宙警察にでも任せておけばいいだろう!!? なぜ彼が行く必要が――――」
とその時だった。
「官房長官!!」
1人の男が、大声を上げながら対策室のドアを乱暴に開けた。
この会議に列席している官房長官の部下である官房副長官だ。
官房長官以外全員が、彼をギロリと睨みつける。
そんな中で、官房長官は溜め息をついてから、自分の部下に話を促した。
すると部下は、目を丸くしながら話を切り出す。
「たった今!! 占拠された星川町から通信が届きました!!」
次の瞬間、その場の空気が変わった。
通信の映像は、会議室に設置されている大型モニターへとただちに転送された。
そして、全員が固唾を呑んで見守る中、その通信の映像は、始まった。
映像には、1人の少年が1台の椅子に座っている内容だった。
全員、いったいどういう状況なのか、一瞬分かりかねた。
しかし少年の口から発せられた言葉を聞いた瞬間、みんな全てを悟った。
『はじめまして……かな? ワイは【星川町揉め事相談所】副所長であり、
その敵対組織「セーブ・ド・アース」の第12支部支部長でもある、白鳥銀一や』
「……………まさか、あの〝団体〟の中に裏切り者が……?」
「そんなハズは無い!! あの〝団体〟は厳正な審査のもと結成されるハズだ!!」
「だったらなぜその団体の1人が敵側に居るんだ!?」
意味の無い口論だ。
様々な意見が飛び交う中、官房長官はなんとか冷静を保ちながらそう思った。
今はあの〝団体〟がどうとか言っている時ではない。
今起きている事態をどうするかを即急に考え、すぐさまそれを実行に移す時だ。
『ホントは国連にダイレクトに発信したかったんやけど、
現在国連本部があるニューヨークは午前6時過ぎ。んな早い時間に発信しても、
出るヤツいてへんと思うたから、こっちに発信させてもらったで。
さてさて、んな裏事情は置いといて、そろそろ本題に入ろか?』
次の瞬間、官房長官以外の者も、ギンの言葉に耳を傾けた。
口論していて、重要な事を聞き逃したら大変だ、とようやく気付いたのだろう。
『星川町は、ワイらが散布した特殊なウィルスによって……町としての機能は完全に停止した。
異星人だけを苦しめるウィルスや。このままじゃ衰弱死する者が出てくるかもなぁ。
でも安心しなはれ。ちゃんとワクチンも作ってある。
っちゅーかワクチン作らんテロリストはおらんな。
でもってワクチンを町中の異星人に摂取させるにあたり、ワイらから2つ、条件がある』
会議室に列席している全員が、唾を飲み込んだ。
『1つは、宇宙連邦との関係を完全に断ち、異星人全員を地球上から自分の故郷の星へと帰還させる事。
そしてもう1つは、宇宙連邦にも、同じ事を行わせる事。
つまり、アルガーノ星人は『惑星アルガーノ』へ、リリ=リカ星人は『惑星リリ=リカ』へと、
強制的に帰還させ、星々の繋がりを完全に断たせる事。
ちなみに異星人とのハーフの場合は、両親と共にその父か母、どちらかの故郷の星へと行ってもらう』




