星川町電脳戦2
現在 午後20時13分
『塔』 2階
「へぇ~~……まさかここまでしぶといとはねぇ~~……ビックリだよ」
【Searcher】は正直に、カルマのハッキングスキルを、彼女なりに認めた。
しかし心の中では、焦りや不安などの感情でいっぱいだった。
まさか私が作ったファイアーウォールやウィルス排除プログラムをたった数秒で攻略するなんて……
ありえない! 私はあのペンタゴンのシステムを2番目に攻略した電脳世界の覇者よ!
そして【Searcher】は、口の中で転がしていた飴玉を噛み砕き……言った。
「……このまま……終わるものですか」
『塔』 電脳世界
『ミコガミ』の前に、1体の、ウィルス排除プログラムである甲冑兵士が現れた。
しかしその甲冑兵士は、今までの甲冑兵士とは一味違っていた。
今までの甲冑兵士は、『塔』のシステムの力を数百個に分け、作りあげたザコ甲冑兵士。
しかし今、『ミコガミ』の前に立ちはだかっているのは、
システムの力を100%使って生み出された、〝最強の排除プログラム〟。
〝『塔』のシステムそのもの〟とも言い換える事ができる、存在。
しかしそれでも、『ミコガミ』は退かなかった。
創造主であるカルマが守りたいと思うこの町を、守るために。
『ミコガミ』の姿が、その場から消える。
同時に、排除プログラムの後方に、その姿が現れた。
『ミコガミ』は躊躇なく、排除プログラムの首をめがけて、横一閃した。
しかしその瞬間、排除プログラムの姿が忽然と消える。
「!!?」
死角からの攻撃をかわされ、一瞬戸惑う『ミコガミ』。
だが戸惑っている余裕は、無かった。
『ミコガミ』の視界の右半分が、銀色一色になる。
いったいなにが起こったのか、と考えた時には、
『ミコガミ』は電脳世界を構成する電子の床に叩きつけられていた。
排除プログラムによる拳の一撃を、顔に受けたのだ。
排除プログラムである甲冑兵士が、『ミコガミ』を追撃しようと、高く飛び上がる。
このままではやられる。
『ミコガミ』は、頭の中で冷静にそう思った。
そしてすぐに、『ミコガミ』は右側へと転がり、追撃を避ける。
しかし、排除プログラムの攻撃は止まらない。
右腕を剣へと変形させ、『ミコガミ』に『突き』をする排除プログラム。
『ミコガミ』は自分の剣の腹で、それを受ける。
しかし排除プログラムの剣は、『ミコガミ』の剣の腹にヒビを入れ――――
「!!!?」
――――次の瞬間、『ミコガミ』の体は、排除プログラムの剣によって貫かれた。
『塔』 2階
「あははっ!! 調子に乗るからこんな目に遭うのよ!! ざまぁ!!」
自分の勝利を確信した【Searcher】は、口角を吊り上げ、いやらしく嗤った。
一瞬、どうなるかと思ったわ。でもこの『塔』のシステムの総力を結集して作った、
この新たな排除プログラムは、絶対に敗れる事は無い!! 絶対に!!
私こそ電脳世界の覇者!! 【Searcher】なんだから!!
「さぁてと、そんじゃあ2度と私に刃向かおうと思わないように、
相手の作ったプログラムから個人情報を……ってあれ?」
ふとここで、【Searcher】はなにか違和感を覚えた。
今まで【Searcher】は、カルマのように自分に刃向かったハッカーが作ったプログラムを通じ、
相手の個人情報を戦利品、もしくは訴えられた時に備えての切り札として入手していた。
しかし今回はなぜか、擬似人格プログラム『ミコガミ』を通じて、
相手(=カルマ)の個人情報を手に入れる事ができない。
「えっ!? ちょ……これいったいどういう――――」
【Searcher】はすぐに原因を究明するべく、小型ノートパソコンを通じて、
排除プログラムにもう1度、情報を手に入れるよう指令を出した。
だがその時、『ミコガミ』の姿が、まるで霧のように霧散し、忽然と消えた。
「!!? な……なに!!?」
【Searcher】は、まるでキツネに化かされたかのような感覚を覚え、背筋が凍った。
バカな!!? 確かに排除プログラムが相手のプログラムを捕らえたハズ。だから逃げられるワケ――――
――――次の瞬間、排除プログラムが突然崩壊を始めた。
「な!!? い……いったいなにが起こって!!?」
自分の頭では理解不能な事態が連続して起こり、さらに頭が混乱する【Searcher】。
とりあえず小型ノートパソコンに、原因を究明するよう指令を出す……が、
「!!? あれっ!!? なんで!!? なんで画面が変わらないの!!?」
今度は、【Searcher】の小型ノートパソコンがフリーズしてしまった。
同時刻
『塔』の外
「俺がこの『塔』のシステムと、ガチでやり合うとでも思ってたのかよ、ハッカーさん?」
カルマは深々と溜め息をつきながら、見た。
両腕で抱えている、小型ノートパソコンの画面に書かれた、
忽然と消えてしまったハズの『ミコガミ』からのメッセージを。
『主様。指示通り、相手のパソコンと『塔』のシステムの分断。
及び相手のパソコンのコントロールの掌握を完了しました。次のご指示を』
そう。排除プログラムを崩壊させたり、ソレを操る少女の小型ノートパソコンをフリーズさせたのは、
カルマが創った『ミコガミ』の分身である『ダミープログラム』が、
『塔』のシステム内を〝囮〟として駆け回っている内に、別ルートから『塔』のシステム、
そして『塔』を乗っ取っている少女の小型ノートパソコンへと侵入した本物の『ミコガミ』だった。
ちなみに排除プログラムが突然崩壊を始めたのは、そもそも排除プログラムは、
『塔』のシステムの演算能力を借り、『塔』を乗っ取っている少女が、
小型ノートパソコンを使って作り上げた存在である為。
故に『塔』のシステムと、少女の小型ノートパソコンを分断すれば、
少女の小型ノートパソコンの、演算に使うエネルギーが一気に減少。
そして排除プログラムは、もはや少女の小型ノートパソコンの演算能力だけでは制御しきれない程、
データが複雑かつ〝重く〟なっていたため、自重によって自壊を起こしたのだ。
「んん~~……そうだな。とりあえず相手の本名と性別と身長を知りたいし、
『塔』の出入り口を普段通りに開くようにしたいから、
そのまま相手のパソコンの中枢に触れててくれる?」
カルマが小型ノートパソコンのキーボードをカタカタと鳴らし、『ミコガミ』にそんな指令を送る。
すると一瞬で、相手のデータと共に、『ミコガミ』から返事が戻ってきた。
『これだけでよろしいのですか、主様?』
「ああ、それだけでいい。別に俺はこのハッカーに対して、
さらに詳しい個人情報を知るだとか、そこまで酷い事をする程鬼じゃない」
2年前。たった1人の少年の安否を確認するためだけに、
無謀にも、ただ行き着いた、というだけでアメリカのペンタゴンに侵入し、
特定の情報を盗み見ただけで、そのままなにもせずに、
自身の脱出ルートを特定されないよう、自身の使うプログラムをアメリカのネットワークの分だけ分裂、
及びランダムにネットワークを逃げ回らせ、まんまと逃げたモノが居た。
【捜索者】
謎のハッカー(=不動カルマ)に、世界中の人が勝手に付けた二つ名。
そして2番目にペンタゴンへと侵入した少女が騙っている二つ名。
まぁ、世界中の人が勝手に付けた二つ名だから、別に愛着は無いけど……さ。
『ミコガミ』が今送ってくれたお前のデータによると、
お前【捜索者】という二つ名を使っているらしいな。
ならちゃんと【捜索者】らしく、ただ見て、捜して、
それでダミープログラムを大量に創ってソレらを囮にして逃げて……
それで終わればいいのに、なんでこんな……テロだなんて酷い事をしてやがる?
思わずまた、溜め息をついた。
「お前みたいなヤツが、【捜索者】なんて二つ名を名乗る資格なんて無い。
その二つ名に愛着を持っていない俺が言うのもなんだけど……な。
どっちにしろ、お前は偽者。それも俺と違い、テロだなんて酷い事を平気でやり、
しかもこの『塔』のシステムを借りて強くなった気でいるバカな偽者だ。
そんな偽者のお前が、本物の、この町を本気で守りたいと思う
この俺に電脳戦で勝つなんて……100万〝光〟年早いんだよ」
午後19時26分
星川町出入り抜け道付近 ワゴン車外
「「……カルマ君が、なんだって?」」
ハヤトが途中で口をつぐんだため、亜貴と和夫は同時に首を傾げた。
するとハヤトは苦笑いをしながら、2人に向かって、とりあえず誰もが納得するであろう説明をした。
「あ~~……まぁとにかくカルマは、ソッチ方面にメチャクチャ強いんです!
だから絶対、この町の中心にある『塔』の制御を取り返してくれますよ!」
カルマがアメリカのペンタゴンを攻略したハッカーだなんて……
死んでも言っちゃいけないよな? カルマが捕まるかもしれないし?
そう、心の中で思いながら……。




