表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/110

逆転に向けて

午後19時17分

星川町 上空


「……な……なに!?」

ハヤトは小型宇宙船の窓から、現在の星川町の様子を見て愕然とした。

鉄よりも硬く、ベルリンの壁並みに分厚い、星川町の隔壁。

本来それは、星川町を始めとする『異星人共存エリア』の事を時期尚早に

知ってしまった地球人から、星川町を守る為に機能するハズのモノだった。

しかし今回、そのような情報は知らされていない。


「……………お前なのか……ギン……?」

宇宙船の窓に両手をつけ、ハヤトはガックリとうなだれた。

「お前が……この事態を起こしたのか?」

この声が届かない事は分かっていた。

でもハヤトは、口にせずにはいられなかった。

「お前……いったいなにをしたいんだよ……?」

親友に裏切られた――――その事実が胸に突き刺さり、涙が出そうになる。


とその時、小型宇宙船のパイロットがある事に気が付き、ハヤトに報告した。

「ハヤトさん! 星川町への出入り抜け道付近の道路に、ワゴン車が1台停まっています!」

「!? 敵のアシか!?」

ハヤトはパイロットの視線を追った。そこには、米粒くらいの大きさに見えるワゴン車が1台。

いったいどんなヤツが乗っているのだと思ったその瞬間、パイロットが小型宇宙船のあるボタンを押す。

すると宇宙船の窓の隅に、ワゴン車と、ワゴン車の周辺を拡大した四角い映像が表示された。


「!? 和夫さん!? 亜貴さん……と……誰だ?」

映像に映ったのは、和夫と亜貴と、ハヤトが知らない男女2人。

もしや……一般人か!? いや、そんな事は今どうでもいい!!

「パイロット! ステルスかけながらワゴン車の近くに停めてくれ!」

ハヤトは鋭い眼差しをワゴン車に向けながら、パイロットに指示を出した。

するとパイロットは慌てた様子で返事をすると、

ただちに小型宇宙船にステルスをかけ、亜貴と和夫が居る地点の近くへと停船した。



「和夫さん! 亜貴さん!」

ステルスがかけられた小型宇宙船から、ハヤトは大急ぎで出てきた。

ちなみにステルスをかけた小型宇宙船は、ワゴン車からたった5mくらい離れた道路の上だ。

なので4人は、ハヤトがなにも無い空間からいきなり出現したのではとギョッとした。

しかし和夫だけは、ハヤトが出てきた場所にステルスがかけられた宇宙船がある事にすぐに気付き、

冷静さを取り戻すと、ハヤトにいち早く現状を報告した。


「……くそっ! まさかこんな事が起こるなんて!」

和夫からの報告が終わると同時、ハヤトは悔しさのあまり、奥歯を強く噛み締めた。

そして、全ては自分が無用心にも星川町を離れてしまったために起きてしまったのだと、強く感じた。

しかしそれは、亜貴と和夫も同様だ。なので2人も、ハヤトと同時に奥歯を噛み締めた。

だけど、今はそんな事をしている場合ではない。和夫はすぐに話を元に戻した。

「ハヤト君、そんな事よりも早く町の中に入る方法を考えないと!」


和夫は焦った様子でハヤトに言った。

しかしハヤトは、冷や汗をかきつつも、いたって冷静な口調で返事をした。

「……大丈夫です。星川町には()()()()()()()。ですのですぐに隔壁は下りますよ。絶対」

「んん!? カルマ君が……なんだって!?」

「カルマって……君の友達の?」

和夫と亜貴が、首を傾げながらハヤトに尋ねる。

するとハヤトは、自信たっぷりに、告げた。



「ええ。なにせカルマは……2年前――――」




午後19時29分

町立星川中学校 体育館


「あの……すみません。トイレ……行ってきてもいいですか?」

自分の近くに居る1人のテロリストに、カルマはおそるおそる右手を上げながら、尋ねた。

正直カルマは、テロリストがメチャクチャ怖かった。

でも言わなければ、とカルマは思っていた。

例え相手がどこぞの国で造られたか分からない『アサルトライフル』を持っているとしても、だ。

「んあ? トイレだぁ?」

「お……お願いします! 行かせてください!」


態度からして行かせてもらえなさそうだったので、今度はムリヤリ涙を流しながら懇願してみる。

するとそのテロリストは、やれやれと溜め息をつきながら、言った。

「しょうがねぇな。ここで漏らしたら衛生的に悪いし、行ってこい。ただし、俺が付き添うがな」

「あ……ありがとうございます」

「おい、ちょっとコイツの付き添いでトイレに行ってくるわ」

カルマが声をかけたテロリストが、同じく体育館内に居る仲間の1人に声をかけた。


「ちっ! しょうがないな。5分くらいで済ませてこいよ?」

「あ~~……すみません。『大』の方なんですけど……」

「「はぁっ!?」」

最初に声をかけたテロリストと、そのテロリストが声をかけたテロリストが、同時に唖然とした。

しかし、それも仕方ないと思ったのか、

「……まぁいい。じゃあ10分で戻ってこい!!」

「あはは……ありがとうございます……」

そしてカルマは、テロリストの1人が付き添うという条件付きで、トイレに行く事を許された。



町立星川中学校の体育館に備えられている洋式便器は、男性用トイレ、女性用トイレにそれぞれ2つずつ。

そしてその便器がある個室には、換気用の小さい窓が備えられている。

……結構小さいな。通れるかな?

カルマは個室トイレの鍵を閉めると、その窓を見つめ、ふと思う。

相手がどういう目的で、星川町の住民を人質にしたかは知らない。

だけど、このまま黙って事態を見過ごすワケにはいかない。



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



緊張した。心臓がバクバクと高い鼓動を打ち、全身から冷や汗が滝のように流れ出てくる。

個室トイレの外に居る、自分の付き添いで来ているテロリストに、

今から自分がする事がバレたら、なにをされるか分からないのだ。ムリもない。

それでもカルマは、なんとか音が出ないよう注意しながら、ゆっくりとトイレの窓を開け、窓の外を見た。

敵は……居ない? 入り口の方に集中しているのか? まぁどっちにしろ、〝脱出〟のチャンスだ!


「おいっ! まだなのか!?」

外に出ようと、まず足を外に出そうと思った瞬間、

自分の付き添いで来たテロリストに、ふいに声をかけられた。

一瞬、心臓が飛び出すのではと、カルマは思った。


だけどカルマはゆっくりと深呼吸して冷静を保ち、

テロリストに警戒心を抱かせないよう、できるだけ普通に声をかける。

「す……すみません」

「ちっ! ()()()()()()!? さっさと終わらせろ!」


……………()()()()? いつの間に8分過ぎた!?

極度の緊張のためか、時間の感覚が少々麻痺していた。

もう、通れるのかどうか疑問に思っている暇は無い! やるしかないんだ!

カルマは意を決し、便器の上に足を乗せ、窓枠を両手で掴むと、そのまま開いた窓に両脚を突っ込んだ。

その際便器を大きな音を立てて蹴ったため、トイレの外に居るテロリストは異常事態が起こったとすぐに察し、

慌ててトイレのドアの鍵をライフルで破壊。個室トイレの中に突入した。



しかしもうそこには、カルマの姿は無かった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ