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隔絶の星川町

午後19時

星川町出入り抜け道前の道路 ワゴン車内


「……ん……んん? お……俺はいったい……?」

脳が半分覚醒した状態で、亜貴は呟いた。

体中が、激しい運動をした後であるかのようにダルい。

しかも、目の焦点がなかなか合わない。

「!!? 亜貴先輩!!?」

故に亜貴は、誰に話しかけられたのか、最初分からなかったが、

数拍遅れて、声をかけたのが麻耶であると分かった。


「……麻耶……俺……いったいどれだけ……眠って……?」

「もう1時間近く眠ってました。し……心配したんですよ?」

嗚咽を吐きながら、麻耶は亜貴に言った。と同時に亜貴の頬に、温かい液体がポタリと落ちた。

すぐに亜貴は、それが麻耶の流した涙だと悟った。

と同時に、なぜその涙が正面から降ってくるのか……いや、それだけじゃない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()、亜貴は疑問に思った。


目の焦点が、徐々に合ってきた。

そして、完全に焦点が合った時、亜貴は驚愕した。

なんと麻耶の顔が、まるで亜貴を覗き込むように正面にあったのだ。

いったいどういう状況なのかというと、答えは簡単。

麻耶が亜貴を()()()()()()()()()。だたそれだけだ。

「もうこのまま……目が覚めないんじゃないかって……思いましたよ……」

涙をまた、亜貴の頬に落としながら、麻耶は言った。


「亜貴先輩の体温がだんだん低くなって……顔も青白くなって……それで……それで……」

「……心配かけてすまなかったな、麻耶」

亜貴は麻耶達に申し訳無いと心の底から思いつつ、右手をゆっくりとまっすぐ伸ばし、

麻耶の両目に溜まっている涙を、人差し指で優しく拭うと、微笑みながら言った。

「っていうか俺、この頃お前達に心配かけてばっかりだな」

「バカ」

麻耶は笑いながら、また涙を流した。



同時刻


「……くそっ! おそらくもうテロが始まってる。だけど、どうやって町の中に入れば……」

和夫はワゴン車の外で、星川町の境界線上から突出した隔壁を見上げながら言った。

和夫は星川町に設けられた、今突出している隔壁の本当の利用方法を知っている。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

しかし今回隔壁は、何者かが、テロ行為の途中で外部の人間が町に侵入しないよう突出させた。


歯痒かった。今の自分では、どうする事もできない。

もうこうなってしまっては、テロが完了するまで何人たりとも町に侵入できない。

状況は、ハッキリ言って絶望的だ。

「……高いですね。あの壁の向こうに目的の町があるんですか?」

「ええ、そうです」

星川町の隔壁を見て目を丸くしている秀平に、和夫は町へと侵入する方法を必死に考えながら答えた。

「だったら、メチャクチャ疲れるでしょうけど、登山の要領で壁を登って侵入しましょう。それしか――――」


「それはムリです」

和夫はキッパリと、秀平に言った。

「隔壁は〝宇宙で5番目に硬い物質〟でできています。

病院で翔也が使っていたアトラスツールなどを使えば斬り裂く事はできるかもしれませんが、

あの隔壁はアトラスツールのギミックを機能停止させる特殊なフィールドで覆われています。

仮になんらかの方法で壁に穴を開け、登山の要領で登ったとしても、

壁の上から町の上空にかけて、半球状の『電磁バリア』が張られています。攻略は不可能です」


秀平は驚愕した。先程和夫から、星川町という町は地球人と異星人が共存している町だという事を

聞かされた時も驚いたが、まさかまた驚く事になるとは思わなかった。

「ば……バリア? まさかそんな特撮モノやSFアニメの中にしか出ないモノが実際に!?」

「ええ。ついでに言いますと、『空間歪曲型のワープ航行』なんていう技術も存在します。

今や宇宙の科学技術のレヴェルは、特撮モノやSFアニメの中とほどんど変わりませんよ」


「そ……そこまで!? ……って、それよりも和夫さん! 中に侵入する方法は無いんですか!?」

「今考えています」

慌てて話の軌道修正をした秀平に、和夫は冷静な口調で返事をした。

「あの隔壁のコントロールは、町の中心部にある『塔』によってされています。

何者かがあの『塔』のシステムを乗っ取ってコントロールしているのだとすれば、

そのコントロールをまた奪い返す事ができさえすれば……」


「!? ハッキング! なら俺の十八番(おはこ)だ! 急いで準備を――――」

秀平は慌ててワゴン車に駆けた。ハッキング行為を開始するために。

だが秀平がワゴン車に入る直前、和夫は険しい顔をしながら告げた。

「だけどそれも無駄でしょう。先程も言いましたが、町には『電磁バリア』が張られていますし、

それに、いかなる妨害工作をも想定し、隔壁を出す程の連中です。

おそらくハッキングされないよう、町のシステムを利用して強力な妨害電波を発生させたり、

頑丈なファイアーウォールを構築したりしているでしょう」

「な!? ウソだろ……?」

もはや和夫達が、星川町へと侵入する事は不可能だった。



奇跡でも、起きない限り。




午後19時21分


……………マズイぞこりゃあ……いったいどうすればいい?

カルマはギンをリーダーとする反異星人団体『セーブ・ド・アース』によって、

町にいくつかある、大人数を収容できる施設の内の、町立星川中学校の体育館へと、

祭りの会場である『美原神社』から、数十人もの町民達と共に強制的に収容された。

祭りに来ていた町民達を監視しやすくするため、という理由もあるだろう。


しかし、カルマが移動中に団員達から盗み聞いた会話によると、

今日の夜、この地域一帯に雨が降る可能性があるらしく、

人質である町民達に風邪をひいてほしくないと思った故の配慮でもあるらしい。

……………ずいぶん優しいテロリストだな。だけど、移動の途中で逃げ出すヤツも居るだろう?

わざわざ祭りに来ていた町民全員を移動させるだなんて……どうやったら……?


ふと疑問に思い、カルマは町民達と同じように床に座りながら、周りを見渡した。

体育館であるため、床は冷たかった。もしも、なにも下に敷かずに座り続けたら、

間違いなく足が、感覚が無くなるくらい痺れるだろう。

だけどその心配は無かった。テロリスト達が事前に用意しておいたのか、

体育館の床にはマットや災害時用の毛布など、いろいろと敷かれていた。


……………どこまで優しいテロリストなんだか。

まぁ、強制的に収容されている時点で優しくはないと思うが、

それでも一般的に知られているテロリストよりは優しい部類に入るかもしれない。

「ん? なんだよこれ?」

周りを見渡している時、ギンはふとある事に気付いた。

「……()()()()()()()()()……()()()()()()()()?」



同時刻

星川町公民館 体育館


「な……なんですって?」

かなえは、自分と同じように、星川町公民館の体育館に強制的に収容された町民達と共に、

毛布が敷かれた床に座りながら、自分の隣に立っている

()()()()()()()()()()()()()()()()()から、とんでもない真実を聞いた。

体が震える。だが寒いというワケではない。

ギンが告げた真実を前に、これまでにない〝死の恐怖〟を感じているのだ。

「そんなに気にせんと。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「ふざけないで!!」

かなえはギンを睨みつけながら、叫んだ。

「アンタ、自分がなにをしたか分かってるの!?

()()()()()()()()()()()()()()だなんて……

アンタ、ハヤトと同じ団体に所属している、仲間じゃなかったの!?

なのになんで、この町の人達に、こんな酷い事をするの!!?」


「そんなにカッカせんでもええやろ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

それにな、〝計画〟が順調に進んだらちゃんと町の人達にワクチン接種させるで?

っていうかかなえちゃん、そんな大声出すと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

ギンは無表情のまま、右手の人差し指で真下を指差した。

かなえはハッとした。そして慌てて下を見た。


青白い顔をして、大量の汗をかいているランスとエイミーが、かなえのすぐそばで横たわっている。

ギンの言う、異星人には有害なウィルスのせいだ。

「エイミーちゃん……ランス君……」

かなえは2人の手を、両手でそれぞれ掴んだ。

今はただ、2人のそばに居てやりたかった。

亜貴さんが居ない今、私が2人を元気づけるしか……ないじゃないか。

私が……私がしっかりしなきゃダメなんだ。だから落ち着け……落ち着け、わたs――――



――――次の瞬間、かなえは吐き気を覚えた。




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