合流。そして
午後21時52分
『ガリエル製薬』近辺 コンビニエンスストア
「あ~~……ちょっと焦げてるね、後ろ髪」
「う……ウソ!?」
「長髪だったら、根元まで引火して大惨事になっていたかもしれない。短髪であった事に救われたな」
敵側の謎の攻撃による被害確認のため、2人はこの場所に一時的に避難をしていた。
まさか敵も、自分達がこんな所に堂々と居るとは思わない、と考えたのだ。
「しっかし、敵が正体不明の兵器かなにかを使っているとあっては、迂闊には近付けないね」
「あっ! そういえば!」
突然麻耶が声を大きくした。その事に、秀平は一瞬ビックリしながら、
「ど……どうした?」
「敵が攻撃を放つ前、小声でだけどこんな事を言ってたの」
「な……なんて言ってたんだ?」
敵の武器か兵器の攻略法に繋がるかもしれない。そう思い、秀平は真剣な表情で麻耶を見た。
「え……っとね、確か……『フラッシュ・バスター』……だったかな?」
次の瞬間、2人の間に沈黙が訪れた。
……………なにその、厨二病全開なネーミング。
明らかにそれは、ただの技の名前。
そんな妙な技の名前だけでは、敵がどんな武器か兵器を有しているのかすら特定できない。
ちなみに言っておくが、『建物の2階に運び込める』という利便性、
そして『ドアに直径約1mの大穴を空ける』事ができる程の破壊力。
という情報だけで、敵の武器か兵器の種類を絞り込むのは難しい。というか無駄である。
今現在どこの国においても、そんな利便性と破壊力を兼ね備えたレーザー兵器又は武器を開発できていないためだ。
故に敵が使っていたのは、おそらくインターネット上にも
公開されないような、新型のレーザー兵器又は武器と思われる。
せめて麻耶がレーザーを発射する手順らしき台詞を聞いていたら、
例え敵が有しているのがインターネット上に公開されない
兵器や武器だとしても、秀平は攻略法を思いついたかもしれない。
とその時だった。
麻耶の視線の先――――コンビニエンスストアの外に、麻耶と秀平の見知った顔が見えた。
「あっ! 亜貴先輩!」
「えっ? あっ! ホントだ。すぐに外に行こう」
その言葉を合図に、2人はただちにコンビニエンスストアの外に出た。
「久しぶりだな、2人共」
コンビニエンスストアの外に居たのは、2人の上司であり、先輩である亜貴と――――
「久しぶりです! 亜貴先輩!」
麻耶が両目を輝かせながら、亜貴の前に立つ。秀平も慌てて麻耶の隣に立った。
と同時に、秀平は亜貴の後方に見覚えが無い人が居る事に気付いた。
「亜貴先輩、後ろの方はどなたですか?」
「あ……あぁ……紹介がまだだったな。なんていうか……俺の監視役?」
亜貴が後方に居る人物に声をかける。するとその人は、やれやれと思いながら、
「普通に友人とかでいいじゃないですかそこは。どうも初めまして。
私、亜貴さんの友人で、亜貴さんが今住んでいる町の町長の補佐もやっている黒井和夫と申します」
――――事実上、亜貴の監視役である和夫だった。
「和夫さん、紹介するよ。俺が〝結社〟に勤めていた頃の部下の中津秀平君と……!? 麻耶!?」
亜貴は麻耶の方を見た瞬間、驚いた顔をした。
「えっ? 亜貴先輩? いったいなんで……って、ええっ!?」
亜貴は麻耶に瞬時に近付き、麻耶の正面に立ちながら、少々焦げたその後ろ髪を撫でた。
「……いったいなにがあった、麻耶? 髪が焦げてるじゃないか」
険しい顔をしながら、亜貴は麻耶に尋ねた。
すると麻耶は、亜貴が自分のすぐそばに居る事で、思わず顔を赤らめ、
さらには緊張しながらも、なんとか今までの事を報告した。
「……すまない。2人共」
麻耶からの報告を聞き終わった瞬間、亜貴は麻耶から少し離れると、悲しい顔をしつつ謝罪した。
それを聞いた2人は、一瞬、目の前に居るのが本当に、
自分達の上司であり先輩である椎名亜貴なのかを疑ってしまった。
結社が倒産するその時まで、亜貴と一緒に様々な任務を、2人はこなしてきた。
しかし2人は、自分達に謝る亜貴を知らない。
「……いったい、なにがあったんですか亜貴先輩」
おそるおそる、麻耶は亜貴に尋ねた。自分達に謝る程の〝ナニか〟があったに違いない、と悟ったのだ。
すると亜貴は、ポツリポツリと、多貴子達になにがあったのかを話し始めた。
「……ウソでしょ?」
「まさか……そんな事って……」
亜貴からの報告に、麻耶と秀平は呆然とした。
これ以上、言葉が出ない。
どう声をかけたらいいのか分からない。
「俺はバカだ。手放したばっかりに、大切な人達を喪った」
「亜貴……先輩……」
秀平が、おそるおそる名前を呼んだ。
「そして、なんとか日常を生きているお前達に、我を忘れて依頼したばっかりに、麻耶を喪いかけた」
「亜貴先輩! 大丈夫ですよ私なら! こんなの、掠った程度ですし!」
麻耶は必死に、亜貴に元気な声をかけた。
だけど亜貴は、未だ悲しい顔をして、
「もう喪うのはたくさんだ。だから2人共」
亜貴は腰の辺りで握った拳を、さらにきつく握り締めながら、息を整え、2人に言った。
「ずっと、俺のそばに居てくれないか?」
一瞬秀平は、亜貴に『ここからは俺1人で行動する』とか、
それに近い寂しい事を言われるのでは、と思った。
だけど、その心配は無用だった。
「……なに言ってるんですか亜貴さん。っていうか、こっちが逆にそう頼みたいですよ」
やっぱりこの人は俺が憧れ、そして俺を認めてくれた亜貴先輩だ。
そう、思わずにはいられない。
「結社が倒産してから今まで退屈でした。だからこれからも付いて行きますよ、亜貴先輩」
「ああ……ありがとう。秀平」
2人は顔を見合わせ、互いにフッと笑ってみせた。
とその時、
「え……えと……亜貴先輩……ま……まさか……そそそその言葉! プ……プロ……プロ!?」
「「「んん?」」」
なにやら慌てた様子の麻耶の声が隣から聞こえてきて、何事かと思い亜貴と秀平、
そして2人のやりとりをただ見ていた和夫は、声のする方向に顔を向けた。
するとそこには、今にも蒸気が吹き上がりそうな程、顔を真っ赤にした麻耶が。
「……どうした、麻耶?」
おそるおそる、亜貴は麻耶に尋ねた。
だが麻耶はその言葉を聞いた瞬間、さらに顔を真っ赤にしてしまう。
これでは会話にならない。
どういう事なのか理解できない亜貴と、彼らとはまだ初対面である和夫は、顔を見合わせた。
すると秀平は、やれやれと思いながら麻耶の側まで近寄り、耳元で告げた。
「お~~い……麻耶、さっきのは〝お前に〟じゃなくて、〝俺達2人に〟向けられた言葉だってば」
「……………え゛?」
次の瞬間、麻耶は凍りついた。
「なるほど。正体不明のレーザー兵器又は武器ですか」
秀平と、頭が冷えた麻耶からこれまでの事を聞き、和夫はふむと考え込んだ。
なにか引っかかる事があるのだろうか?
とそんな和夫を無視して、麻耶と秀平はヒソヒソ声で亜貴に尋ねた。
「ちょ……亜貴先輩、そういえば和夫さんって……一般人ですよね?」
「一般人を巻き込んで、大丈夫なんですか?」
「あ~~……確かに和夫さんは……一応、一般人なんだけど、俺と同じくらい強いぞ」
次の瞬間、麻耶と秀平はギョッと目を丸くして、
「えっ? ウソでしょ?」
「信じられないです」
「聞こえてるよ、君達?」
会話の途中で、和夫が麻耶と秀平に声をかけた。
2人はまたしてもギョッとして、和夫を見る。
するとそこには、ニコニコと笑いながら、少々顔を引きつらせた和夫が。
「一般人だと思って甘く見ちゃいけないよ? なんなら……ここで試してみますか?」
次の瞬間、麻耶と秀平は同時に身震いがした。
和夫と、ただ対峙しているだけなのにもかかわらず。
『どう攻め込んでもすぐに叩き伏せられる』と、2人は瞬時に、本能でそう感じたのだ。
「で、これからどうします? その計画とやらは町全体で行われているかもしれないのでしょう?」
腕を組みながら、和夫は亜貴達に尋ねた。
すると亜貴は、少し考えて、
「とりあえず今から、この町の病院に行ってみようと思う。
もしかすると多貴子達のように、なんらかの組織の手から逃れて、病院に居る被害者が居るかもしれない」
「病院? 今から?」
和夫は怪訝な顔をした。
「今は夜ですよ? 行くなら人の少ない朝か診療時間の終わり頃にした方が……えっ? まさか?」
和夫の脳裏に、今から亜貴がしようとしているんじゃないかと思われる、〝ある行動〟がふと浮かんだ。
和夫の顔が険しくなる。それを見て亜貴はニヤリと笑い、
「そのまさかだ。2人共……心の準備はできてるな?」
「はい、できてます」
「はいっ! いつでも大丈夫です!」
亜貴の問いかけに対し、秀平と麻耶はニッと笑って答えた。
そして、2人の揺るぎ無い意思に呼応するかのように、亜貴は病院がある方向へと顔を向け、
「じゃあ行くか、みんな。探偵結社『ミネルヴァ』の
(元)構成員のチカラを、今回の事件の犯人達に思い知らせてやろう!!」