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亜貴の部下達

午後21時31分

天宮宅 かなえの部屋


「ねぇかなえお姉ちゃん……亜貴さん、どこ行っちゃったのかな?」

暗い部屋の中。

かなえのベッドで、かなえの左隣で寝ているエイミーが、哀しげな目をしながらかなえに尋ねてきた。

かなえはそれを聞いて、ちょっと返答に困ったが、すぐに確信をもって言った。

「う~~ん……どこだろ? でも亜貴さんは、きっとすぐに帰ってくるよ。

だって、エイミーちゃんとランス君という、かけがえのない家族が待ってるんだもの」

かなえが、エイミーのキレイな緑色の髪をクシャリと撫でる。


するとエイミーは、暗くてかなえは気付かなかったが、

恥ずかしそうに、顔を少し赤くしながら、かなえに告げた。

「……あのね、かなえお姉ちゃん」

「なぁに?」

「私と……お兄ぃ、亜貴さんが帰ってきたら、言うんだ」


「なんて?」

「うん。あのね――――」

そしてエイミーは告げた。

亜貴が今、この町に居る事を知らずに。



午後22時12分


「……アレ……なの?」

「うん。アレみたい」

多貴子が先程まで住んでいた家を囲む、高い塀のすぐそばに、とある2人組が乗ったワゴン車が駐車していた。

ワゴン車の運転席に座るのは、半袖Tシャツ、そして半ズボンという身なりの、

二枚目とは言いがたいが、ブサイクとも言えない中途半端な顔立ちの男性だ。

彼の名前は中津秀平。亜貴より5歳年下の成年だ。


そして助手席に座るのは、クセっ毛がある短髪を生やした、

美人というよりはかわいいという表現が似合う顔立ちの小柄な女性、今井麻耶。

ちなみに服装は白のロングワンピース。そのせいもあり、はたから見れば彼女は、

まるで中高生であるかのような錯覚を受けるが、彼女はれっきとした23歳の女性である。

「あそこが亜貴()()の……元・奥さんの……」

秀平がチラッと、多貴子が住んでいた家を眺めがら呟く。


だが麻耶はその家から視線を逸らし、複雑な顔をしながら、ボヤいた。

「……なんで私が〝あの女〟の為に動かなきゃいけないんだろ?」

「ん? 麻耶、お前亜貴先輩の奥さんだった人の事を知っているのか?」

気になった秀平は、すぐに麻耶に尋ねた。


すると麻耶は、顔をしかめながら話し始めた。

「数年前、亜貴先輩と恋人同士を装って、ある非合法組織の罠にわざと嵌まって、

その組織から組織の全貌の情報を逆に引き出すという任務を遂行したんだけど……」

「……なにかあったのか?」

突然言葉を切った麻耶に対し、秀平はおそるおそる尋ねた。


すると麻耶は突然、ギンッと秀平を睨み付け、

「偶然任務中の所をその女に見られて、その場で亜貴先輩と私に問い詰めたのよ? 浮気なんじゃないかって!

でもそこまではいいのよ。そこまでは! 前の上司の時も同じような事あったし!

だけどさ……あの女、私にナイフを突きつけたのよ!?

亜貴先輩から見えない角度から! あの女イカれてるわ!」


「……確かに、ナイフはないな」

「でしょ!? まったく、ちょっと亜貴先輩の()()()()()()()()くらいで大げさよ」

「……は? お前、亜貴さんにキスしたの?」

麻耶の爆弾発言に、秀平は唖然とした。

すると麻耶は、勢いで自分がなにを言ったのかを自覚したのか、顔をトマトみたいに真っ赤にしながら、

「え……あっ! い……いいいい今のは忘れてお願いだから!」


……………いや、今の台詞はそう簡単に忘れられねぇよ。

麻耶をジト目で見ながら、秀平は思った。

と同時に、なぜ亜貴の元〝部下〟である自分達が集まったのかを、改めて思い返し、

「……まぁいいや。とりあえず今は亜貴先輩から受けた依頼を遂行するぞ」

「そ……そそそうですね! 言っとくけど私はあの女の為じゃなくて、亜貴先輩の為に動きますから!」

「いや聞いてないし」



秀平はワゴン車の中にあらかじめ積んでおいたパソコンに、

同じく積んでおいた、パソコンと繋ぐ事ができるアンテナをリュックから取り出し、パソコンと繋げた。

「さてと、あとはコレとコレとコレをこう繋げてっと……」

その他にも、様々なコードをどこからか取り出し、パソコンとアンテナ、その他機械に繋ぐ。

「……では、始めますか」

そう言うと同時、秀平はパソコンを起動する。


そして秀平は、驚いた事に数瞬で多貴子の家のセキュリティ・システムへとアクセスし、

わずか数分で、セキュリティを制圧してしまった。

「……相変わらずチートなハッキング・スキルね」

「いや、そうでもないよ」

パソコンの画面を真剣な眼差しで見つめながら、秀平は返答した。


「えっ? でもあなた以外に、こんな豪邸のセキュリティ・システムを、

こんなにも早く黙らせる事ができるハッカーなんて聞いた事無いけど!?」

そう言いながら麻耶は、多貴子が住んでいた家を指差す。

いや、正確には家というより〝豪邸〟と言った方がシックリくるだろうか?

多貴子が住んでいた家の敷地面積は、なんと一般の学校2校分はある。

そんな豪邸のセキュリティ・システムはそう簡単に攻略できるモノではない。


「いや、俺以上のハッカーくらい居るぞ? ()()()()()()()()()()()()()()()

とかいうウィザード級ハッカー【Searcher】とかな。

あと言っとくけど、俺がこんなにも早く制圧できたのは、

亜貴先輩のメールにあった不法侵入者かそのお仲間さんが、

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。皮肉にもね」


「な……まさか私達が今から相手するのって、もしやとんでもないヤツらなんじゃ?」

目を見開きながら、麻耶は秀平に尋ねた。

すると秀平は、冷や汗をかきながら、

「……かもしれないな。まぁとにかく急ごう。不法侵入者が逃げる前に」

そう言いながら、秀平は豪邸の門の開閉システムに入り込み、門を開けようとした……………その瞬間、



1台のバイクが豪邸の高い塀を乗り越え、2人の乗るワゴン車の目の前に着地した。



「「!!!?」」

2人の視線がバイクに釘付けになる。

するとバイクはその隙を突き、2人の前から全速力で逃げ出した。

「!? な……まさか例の侵入者!?」

「くそっ! なんてこった! せっかくセキュリティを制圧したのに!」

慌てて我に返った秀平は。すぐにエンジンを起動させ、猛スピードでバイクを追いかけた。



どれくらい走っただろうか? 秀平と麻耶が乗ったワゴン車はバイクを追って、

2人が今居る町の、唯一の駅の近くの遊楽街付近へとやって来た。

時間が時間だけあって、遊楽街には今、酔っ払いやキャバ嬢など、たくさんの人が歩いている。

「くそっ! これが狙いかよ!?」


このままではワゴン車は、あまり早く走れない『人混み』の中を走る事になる。

このままじゃいけない。

そう思い、麻耶は懐から〝ある物〟を取り出した。

本当は、もっと早く使う予定だった物だ。


「逃がさないわよ!」

そう言いながら、麻耶は()()()()()()()

それは、人を傷つける銃ではなかった。

麻耶が放った物。それは、スパイなどが塀を登る時に使う、アンカーを撃ち出す銃だ。

銃から放たれたアンカーが、遊楽街に入る寸前の、不法侵入者の乗るバイクの後輪に見事命中する。

バイクが不安定になり、ついに倒れ、運転手である不法侵入者はバイクから慌てて手を離す。


バイクと不法侵入者が、それぞれ違う方向へと、ゴロゴロギャリリリと、激しい音をたてて道路を転がる。

遊楽街の入り口付近に居るキャバ嬢やサラリーマンがヒィッと悲鳴を上げる。

「くそっ! 停まれ!」

秀平は慌ててワゴン車のブレーキを踏んだ。

耳をつんざく激しいブレーキ音が、周囲に響き渡る。

秀平と麻耶の体が慣性の働きにより、前のめりになる。



そしてワゴン車は、不法侵入者の乗っていたバイクに当たる寸前で、停止した。



「ふぅ……停まった」

なんとかワゴン車を止める事ができて、秀平は安堵した。

だがそんな秀平を差し置いて、麻耶はすぐにワゴン車から降り、秀平に言った。

「秀平! 急いでどこかに駐車して来て! 私はヤツを追うわ!」


「えっ?」

秀平はどういう事なのかと思い、前方を見た。

その視線の先には、フラフラになりながらも、

なんとか通行人の間を、縫うように走って逃げている不法侵入者が居た。

麻耶は、そんな不法侵入者を急いで追いかけた。

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