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亜貴の過去2

「ふぅん。なるほどねぇ……多貴子ちゃんが……」

翌日。亜貴はある人物を、自分が住んでいるマンションの近くにある

小さい喫茶店『喫茶 恋悶心』に電話で呼び出し、互いに椅子に座り、

コーヒーを飲みながら、多貴子の事について相談した。


その人物の名前は上村ハルヒト。

高校生の時に知り合った、亜貴の数少ない友人の1人で、

高校時代、メチャクチャモテまくったイケメンである。

しかも父親はとある企業の社長で、現在は父親のあとを継ぎ、

その企業の社長をやっているという規格外に羨ましい人生を送っている男だったりする。


「まぁ君は、高校時代モテてたし……当たり前かな?」

「は? そりゃお前だろ?」

「いやいや。っていうか知らなかったのかい? 高校生時代、僕と君をモデルにしたキャラが出る

BL漫画が学校の裏サイトに載っちゃうくらい、僕と君は同レヴェルにモテていたんだよ?」

「BL漫画!!? おい今すぐそのサイト教えろ。ソッコーでこの世からデリートしちゃる」

とんでもなくいかがわしいイメージが浮かんだので、亜貴はすぐさまハルヒトにそう言った。

というかそれは、モテていると言えるのだろうか?



ちなみに、なぜハルヒトが多貴子の事を知ってるのかというと、

高校時代、休み時間に話す話題で、多貴子の事を(個人情報以外)話したからだ。

『ふぅん。なかなか魅力的な()じゃないか?』

ちなみにコレは、ハルヒトが初めて多貴子の存在を知った時の、多貴子に対する第一印象。


ちなみにこの後は、こんな会話が続いた。

『どこが魅力的なんだ? 俺の家に遊びに来るたびに俺に迫るようなガキなんだぜ? 時には()()()

『なにを言ってるんだ君は? それだけ君に夢中だという事に、君はなぜ気付かない?』

『だからそれが怖いんだって!!』

『羨ましいヤツめ。僕と代われ』

『お前マジで病院行ってこい!!』



以上。休み時間の1シーンでした。




現在

喫茶店


「で……君はどうしたいんだ、亜貴?」

砂糖を〝8袋〟入れたコーヒーを少し飲み、一息ついた後、ハルヒトは亜貴にそんな質問を投げかけた。

「……俺は……アイツを幸せにしたい」

亜貴はハルヒトの目を見て言った。


けどその内面には、未だ戸惑いがあった。

「だけど……今の俺の気持ちは……アイツへの恋愛感情とかじゃなくて……

なんていうか……その……同情というか……それに近い〝なにか〟だ。

そんな俺が、アイツの気持ちを受け止めていいのか、俺にはよく分からない」


途中から、亜貴は俯きながら言った。

するとハルヒトは、もう1度コーヒーを少し飲んでから、

「まぁとりあえず、多貴子ちゃんに会ってみたらどうだ? どうしたらいいかは、それから考えればいい」

「……そんなんで、どうにかなるモンか?」


「どうにかなるかどうかは分からん。だが前には進めるだろう?」

「……………でも……」

亜貴はまだ迷っていた。このまま前に進んで、後悔の無い未来が待っているのか、と。

だけど、いつまでも今の状態を続けるワケにはいかない。


だから亜貴は意を決し、立ち上がった。

「分かった。とりあえず多貴子に会ってみるよ」

「……分かったならさっさと行け。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「ああ。ありがとうハルヒト!」

そう言って、俺はレシートを持ちレジで金を払い、多貴子のもとへと駆け出す。


駆け出した後、ハルヒトが『まったく。なんで僕じゃなくてアイツなんだ?』

などと言っていたような気がしたが、構ってはいられない。

だが、俺は走る途中で1つ疑問に思った。

……………あれ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

俺がその情報を、ある経緯から掴んでいる事を、俺はハルヒトに話していないハズ……なのになぜ?



数分後


とりあえず、ハルヒトの事は頭の隅に置いておく事にした亜貴は、

今、多貴子が住んでいるマンションの、多貴子の部屋の前まで来た。

まぁ……仕事でほとんど留守状態の部屋なんだろうな。でも来てみて損は無い。

そう思って部屋の前まで来たのだが、中から声――――いや、それだけではない。


なにか堅い物が壁にぶつかったような衝撃音もした。

……………声は……多貴子の声だ。でもって衝撃音? まさかと思うが……今寝起き?

亜貴はこう推理した。目覚まし時計が鳴ったのだが、

昨夜遅く帰ってきた為にまだ眠たく、うるさい目覚まし時計を壁に叩きつけた、と。


……………表札の名前と情報の名前……間違ってないよ……な?

まさか多貴子の寝起きが悪いとは……初めて知ったよ。

自分の手に持った、多貴子のデータを見ながら亜貴は思った。

そして、寝起きであるから、また別の時間帯に訪れようかと思い直し、

多貴子の部屋を後にしようと歩き出した……その時だった。


多貴子の部屋の玄関のドアが、開いた。

そしてそのドアの内側には、動物の着ぐるみのようなパジャマを着た多貴子が立っていた。

「……もしかして……亜貴?」

多貴子は、おそるおそる亜貴に尋ねた。

その目は、しっかりと亜貴を見つめていた。


寝起きだとは思えない程、真剣な目だ。

おそらく、頭の方も完全に目覚めていて、亜貴だと悟っている事だろう。

しかし目が覚めてるとはいえ油断は禁物。仕事による疲れがまだ残っているだろう。おそらく頭にも。

だから亜貴は敢えて、できる限り多貴子の頭に響かないように、小さい声で言った。

「ああ。俺だ」


すると多貴子は、パアッと両目を輝かせ、

「亜貴!! 逢いに来てくれたの!!?」

亜貴に飛ぶように、抱き付いてきた。

「嬉しい……また逢えるなんて」

多貴子は涙を流しながら、呟く。


「アタシ……ずっと待ってた。亜貴が……アタシを見つけてくれる事を……」

どうやって家を調べたのかなどは問わずに、多貴子は告げた。

この瞬間、亜貴は改めて知った。

「ごめんなさい。アタシ……亜貴がアタシの事を忘れたんじゃないかって……何度も思った」

多貴子がどれだけ、亜貴の事だけを想い続けていたかを。


だからだろうか? この瞬間、亜貴は多貴子の事を、心の底から愛おしいと思った。

そしてその愛情を伝えようとするかのように、亜貴は多貴子の背中に手を回し、強く強く……抱き締めた。

「こっちこそ。待たせて……ごめんな」

「ううん。もういいの。だって、また逢えたんだもん」



そして1年後。

亜貴と多貴子は、多貴子の高校卒業、そしてモデル業の辞職を機に、結婚した。

その1年後には、どちらかというと多貴子似の双子の娘、奈央と奈美も生まれ、その上、仕事も順調。

全てがこの時、うまくいくと思っていた。



だけど――――事件は起こった。




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