ラストマンザイ
7月10日(日) 午後19時32分
星川町 光陰寺
「ギンで~~す!」
「リュンで~~す!」
「2人合わせて~~……………」
「……って考えてなかったんかい!?」
「しゃあないやろ! アメリカでもワイ超忙しかったんや! あっちの相談所の仕事したり、
キャシーちゃん口説いたり、あっちの仕事やったり、マリリンちゃん口説いたり――――」
「って! 口説いてる時に考えんかい! っていうか口説いてる時点で問題外や!」
『光陰寺』の本堂前に、町立星川小学校の生徒のほとんどと、その保護者、
そして【星川町揉め事相談所】メンバーと、その友人であるカルマ、
〝かなえ〟、優、リュン、ユンファが集まっていた。
なぜなら今日は、去年もやった(らしい)星川町の行事である『肝試し大会』の開催日だからだ。
ちなみに冒頭でギンとリュンが漫才っぽい事をしているのは、
ギンとリュンは、実は星川町の子供会などの集まりに出席する程有名(?)な〝中学生漫才コンビ〟だからであり、
なぜ今漫才をやっているかというと、明日、リュンが他の星に引っ越してしまう為。
今日はリュンの『お別れ会』を兼ね、漫才のラストライブをしているのだ。
「まぁとりあえずコントやろうや! コント!」
「せやなギン! じゃあ始めるで! テーマ!」
「『肝試し』!」
2人がコントの準備を始める。
リュンは懐中電灯を持って辺りを照らすポーズを。
そしてギンは下に座り、出番を待つ。
「う~~……やっぱ『肝試し』は怖いなぁ~~」
「ドロドロドロ~~お化けやで~~?」
ギンが立ち上がり、両腕を前に伸ばし、両手をダラリと垂らす。
「うわっ! 出t……ってソレどっちかってゆうと中国版ゾンビ・キョンシーやろ!?」
「ここは中国ナリ~~」
「中国って設定なんか!? ってか口癖変わってるやん!」
「ソレはソレ、コレはコレでござる」
「はぁ。もう口癖はええわ! で、なんや?」
「ワイに成仏してほしかったら、お前の命を差し出さんかい~~?」
「ううっ! なんか怪しいなぁ……」
「幽霊は怪しいモンやで?」
「まぁええ、タマでもなんでも差し出し……しまった」
「どないしてん?」
「そういやウチ、女の子やった! テヘッ☆」
「そっちのタマちゃうわ! っていうか女の子が下ネタ使うなや!」
「……………な……なんか微妙……」
2人の漫才を、小学生達が座っているブルーシートの、後ろの方で座って見ている、
すっかり体が回復したかなえは、思わず呟いた。
しかし、ギンとリュンの漫才は、かなえの隣に座る優にユンファ、そして小学生達にはなぜかウケていた。
……………もしかして……私が時代遅れ!?
と、心の中で呟いてしまう程に。
しかしそう思っていたのはかなえだけではないらしく、
「ムムム……なんだろうこの微妙なネタは……」
ランスとエイミーの保護者として来ている亜貴が、かなえと同じように、
子供達とその保護者達の座るブルーシートの後ろの方に座りながら、ボソッと呟く。
「アハハハッ! リュンお姉ちゃんおかしぃ~~!!」
「は……腹痛ぇ~~!!」
……………そんなに面白いか?
相変わらずネコミミカチューシャ型翻訳機を頭に付けているエイミーとランスに、
ギンとリュンの漫才がなぜかウケているのを見て、亜貴はさらに複雑な顔をしながら、思った。
数分後
ラストライブが無事に終わり、リュンは満面の笑みでかなえ達の方へと歩いて来た。
すると、すぐさまかなえと優とユンファもリュンに近寄る。
「リュン! ラストライブに相応しいコントだったぜよ!」
「うんうん! あんなに笑ったのは久しぶりよ!」
「あ~~……うん! 面白かったわ!」
未だにどこが面白いのか理解しかねるかなえは、なんとか笑みを作り、優とユンファに話を合わせる。
「ううっ!! 皆……ホンマありがとうな!!」
リュンの両目から、大粒の涙がこぼれ出る。
すると同時に、かなえ達の両目からも、
「あ……あれ? おかしいな?」
「笑顔で送ろうと思ったのに……」
「涙が……止まらんぜよ……」
どんなに手で拭っても、その涙は止まらない。
それは、誰にも千切る事はかなわない、かなえ達の絶対の〝絆〟の証なのだから。
お互い、最初は――――単なる興味だった。
今までに出会った事の無いタイプの異星人に対し、
――――友達になってみたい――――
最初はただ、それだけしか思っていなかった。
だけど勇気を出して
話して
笑って
泣いて
ケンカして
バカやって――――
――――いつからか、彼女達にはお互いが無くてはならない存在になっていた。
リュンは、本当は引っ越したく無かった。
いや、誰が……自分から引っ越したいなどと思うだろうか?
だけど……だけど――――!!
――――突然だった。
リュンがかなえ達を、まとめて抱き締めた。
「ちょ!? リュンちゃん!?」
「く……苦しいぜよ!」
「りゅ……リュンちゃん! 苦し……」
「ホンマ……ホンマに……ありがとーな皆。皆に会えて、ウチはメッチャ幸せや」
涙声で、リュンは皆をさらに強く抱き締める。
そして――――
「ウチらの友情は!! 永遠に不滅や!!」
「……ホンマに……寂しくなるなぁ。アイツがおらへんと」
「ギン。リュンとなにか最後に話してきたらどうだ?」
かなえ達を、少し離れた場所から見つめていたギンに、
もうすっかり体が回復したハヤトは一応尋ねてみた。
するとギンは、首を横に振り、
「いや、アイツとは十分話し合ったで? これからの事とか……な」
「これから?」
「せや。いつか再会して、コンビ再結成しよう……ってな」
聞いた瞬間、ハヤトは一瞬目を見開く程驚いたが、すぐにフッと微笑んだ。
「へぇ……再結成か。頑張れよ。宇宙は広いけど、2度と会えないってワケじゃないからな」
「ああ……せやな。そうならないかもしれへんけどな」
「ん? なんか言ったか?」
ボソッと呟いた為、ハヤトはギンの最後の言葉をよく聞き取れなかった。
しかしギンは、そんな事を気にしていないのか、
「んじゃハヤト! さっそく『肝試し大会』のクジ引きの準備しよか!」
「――――で、なんでワイも『肝試し大会』に参加せなアカンのや? ワイ、『催す側』やないの?」
「えっ!? えっ!? ええっ!? なんでや!?」
『肝試し大会』で、なぜか『催す側』ではなく『参加する側』となったギンと、
漫才の相棒であるリュンが、くじ引きによって共に『肝試し大会』のコースを回る事となった。
それを見て、かなえと優、ユンファはニヤニヤと笑い、
ハヤトとカルマは同時に右手の親指だけを立て、心の中で『グッジョブ!』と言った。
数日前
星川町揉め事相談所
「は? ギンとリュンが一緒にコースを回れるようにしろ?」
「そうよ。アンタならそれくらいの事できるでしょ!?」
ギンが町内パトロール(ついでに女性を口説く、もしくはセクハラをかますかもしれないが)
に出たのを見計らい、かなえは【星川町揉め事相談所】へと再び現れた。
ハヤトは、もしかしてかなえが再び所員になってくれるのではと思っていたのだが、違った。
かなえは、依頼者として【星川町揉め事相談所】に来たようだ。
「まぁ……できなくはないけどさ、なんでそんな不正をしなきゃいけないんだ?」
深く溜め息をつきつつ、ハヤトは所長の椅子に座る。
するとかなえは、真剣な眼差しでこう言い放った。
「リュンちゃん、ギンが好きなのよ!」
「……なんだって?」
思わずハヤトは、自分の耳を疑った。
あのギンを……好いてるヤツが? まぁ、ギンはどちかというと顔が整ってる方だが、
あんなセクハラ男を好きになるヤツが居たとは……矢とか降ったりしないよな?
ハヤトはおそるおそる、窓の外を覗いた。
「アンタ、なに見てんの?」
「いや、なにも?」
尋ねられてハヤトは、慌ててかなえの方へと向き直る。
そして、先程の行動をごまかすように1度咳払いをすると、ハヤトはようやくかなえに返事をした。
「……………分かった。その依頼受けるよ」
「ホント!?」
「ああ。でもさ、お前どうやってそんな情報を?」
「フフン! リュンちゃんのギンを見てる時の目を見れば分かるわよ! 女の勘ってヤツ?」
かなえは、エッヘンと胸を張りながら言った。
現在
そんな事があり、ギンとリュンが一緒にコースを回る事になった。
まさか……かなえちゃん達の仕業かいな!?
リュンはかなえ達のニヤニヤ顔を見て、すぐにその結論に至る。
……………あ……後で覚えとき!!
顔をトマトみたいに真っ赤にしながら、リュンはかなえ達と少々話し合う事を決めた。
すると隣で歩いているギンが、リュンの顔を見て心配になり、
「んん? リュン、顔が真っ赤やで? 風邪ひいとんのか?」
急に自分のリュンの額を、リュンの額にくっ付けてきた。
な……なななななああああああぁぁぁぁぁああああっっっっっ!?
ギンとの距離が近くなり、リュンの顔がさらに真っ赤になる。
それを遠くから見ていたかなえ達も顔を真っ赤にする。
「う~~ん……風邪やないかリュン? メッチャあつ……ぐふぅ!?」
ギンの左の頬に、リュンの平手打ちが飛んだ。
「あ……アホか!! んな事無い!! ほなはよ行こか!!」
顔を真っ赤にしながら、リュンはまるでロボットのように右手と右足を一緒に前に出してから歩いた。
それを見てギンは、いったいどういう事なのかをまだ分かっていないのか、
「???? リュン、まだワイらの番やないんやけど?」
「や……やかましやかましやかましか!!」
「……まさかリュンちゃんがあんなにも〝ツンデレ〟キャラだったとは……」
今まで見た事が無い、ツンデレなリュンを見ながら、かなえは呟いた。
すると、かなえと同じくリュンを見つめていた優、ユンファも、
「せっかくええシチュエーションにしたっていうのにな」
「これじゃあ、あまり距離が縮まらない可能性大ね」
いきなり作戦が中途半端に終わる可能性が出てきた事で、眉をひそめるかなえ達であった。