疑惑の2人
7月8日(金) 午後17時4分
某惑星
「クソッ!! まさか『裏稼業』の1つ『始末屋』に依頼するとは!!」
とある建物の会議室の中で、1人の男が叫ぶ。
前に、丸テーブルをぶっ叩いて粉々にした『イルデガルド』の構成員の1人である。
「まったくもってさらに忌々しいな。『裏稼業』の者に依頼してまで『異星人共存エリア』を存続させたいのか?」
腕を組みながら、その男の隣に座る男が眉をひそめながら言う。
惑星イル=イーヌの、とある研究所の倉庫を襲った異能力者だ。
彼もまた、『イルデガルド』の構成員である。
「まったくや。まさかお前が入手した〝古代兵器〟……え~~っと……名前なんやったっけ?」
「『イヴェルガー』ですわ」
「せやせや! 『イヴェルガー』や! それを入手した苦労も水の泡にしよってあのクソエリア!
ワイらがいったいどんな気持ちでこんな事をしていると思うとるんや!」
関西弁を話す構成員と、『イルデガルド』構成員唯一の女性が、青筋を浮かべながら言う。
『古代兵器【イヴェルガー】』
昔々――――気が遠くなる程の大昔に、〝ある目的〟で開発された植物兵器。
根付いた場所を中心として、半径数十kmの土地の栄養分を全て吸い尽くし、
最終的にはその栄養分をエネルギー源として、その場で大爆発を起こす爆弾である。
『自身に近付く者の中で、武器を持たぬ者は食らい、武器を持つ者は排除する』
という自己防衛プログラムを遺伝子に組み込まれている。
ちなみに食われた者は『イヴェルガー』の、人でいう胃袋の中で、まず衣服を溶かされてから体を溶かされる。
これはおそらく、『イヴェルガー』から分泌される胃液の酸度が最初は弱いため、と思われる。
いかなる環境下でも数秒で適応し、成長する兵器だが、
コンマ数秒レヴェルでの急激な環境の変化には弱い。
「しかしこれで、『ジ=アース』の『異星人共存エリア』に、
1つ汚点を付けた……という事にはなりませんかねぇ?」
『イルデガルド』構成員の1人が手を上げつつ、丸テーブルを粉々にした男に尋ねる。
すると男は、さらに青筋を顔に浮かべ、
「いや!! 実を言うと、他の惑星の異星人の中にも、『裏稼業』を雇っている者も多い!!
だからこちらも……人の事を言えない……という事なのだよ!!」
そして男は、今度は自分の背後の壁に、裏拳でヒビを入れた。
それを見て他の構成員も同じように、地球人に対し、怒りに満ちた顔になる。
しかし、このままでは埒があかないと、構成員の1人が慌てて冷静になり、関西弁の構成員に尋ねた。
「そういや、お前が星川町という町に送り込んだ〝カンジャ〟から、なかなか連絡が来ないけど……」
「そういえば……そうですわね。なにかあったのかしらん?」
唯一の女性構成員が話にノってきた。
それを見て、話を振った構成員は心の中で安堵しながら、関西弁の構成員を見た。
すると、関西弁の構成員である男性は、
「いやぁ……それがなかなか連絡よこさなくてなぁ。こっちも心配しとったさかい」
「あ゛? 心配してるならなぜこっちから連絡しない?」
壁にヒビを入れた男が、まだ顔に青筋を浮かべながら尋ねる。
すると関西弁の構成員は慌てながら、
「あ~~……分かった! 分かったさかい! せやから怖い顔しなさんな! 同志相手に!」
そう言って、〝カンジャ〟とやらに電話をした。
同時刻
星川総合病院 ハヤトの病室
「で、かなえちゃんは相談所所員を辞めた……と?」
ハヤトの見舞いに来たギンが、腕を組み、ジッとハヤトを見つめながら尋ねた。
するとハヤトは、寂しげな顔をしながら、
「ああ。でもまぁ、当然と言えば当然だ。古代兵器に食われるなどという、怖い体験をすれば……な」
ハヤトは、少しかじった程度の知識を思い出しながら答える。
それは昔、ハヤトとギンがある団体に入る前に習った知識。
なぜ、早く思い出せなかったのだろう。早く思い出せたら、天宮に怖い思いさせずに済んだのに……。
拳をギュッと握り締め、ハヤトは深く後悔した。
とその時だった。
『魔法少女!? ウルトラ★キャリー』のOPテーマが、
ギンのはいているズボンのポケットから聞こえてきた。
「ヤバ! 携帯電話の電源入れっぱやった!」
「なにやってんだよギン。さっさと携帯電話使っていい場所に行ってこい!」
「すまへんなハヤト! ならお言葉に甘えて!」
右手を後頭部に当て、ペコリと頭を下げてから、ギンはハヤトの病室を後にする。
数分後
「ハイハイ今出るで!?」
病院内の、携帯電話の使用が認められているエリアにやっと着いたギンは、慌てて電話に出た。
するとその瞬間、ギンの顔が一瞬で真剣な顔に変わった。
「そか。分かった分かった。でも今はまだダメや。まだ強い奴がおる。
せやから、もうちょい待ってや! まだ〝アイツ〟も動いてへんしのぉ――――」
同時刻
かなえの病室
「ホント無事で良かったよかなえち~~ん!!」
かなえの友人の伊万里優が、泣きじゃくりながらかなえを強く抱き締める。
そして、優と共にかなえの見舞いに来た、同じくかなえの友人であるリュンとユンファも、
「ホントやでかなえちん!!」
「かなえちんが死んだら……ううっ……私達はどうすればいいぜよ~~!?」
と言いながら泣き叫んだ。
「みんな……心配かけて……ゴメンね……」
みんながいる。私が此処にいる事を、強く望んでくれるみんながいる。
そんな温かい気持ちに包まれ、涙を流しながら、改めてかなえは決意する。
だから私は、もう危険な仕事は絶対にしない、と。
でもなぜか、かなえの心の中には、
【揉め事相談所】で仕事をしている時には感じなかった心のモヤモヤがあった。
だけど、もう自分は危険なマネをしない。いや、するワケにはいかない!
もう決めた事だった。だけど――――
――――このモヤモヤは……いったいなに?
とその時だった。リュンのはいているスカートのポケットから、
『魔法少女!? ウルトラ★キャリー』のEDテーマが聞こえてきた。
「もうっ! いいところでなによ!?」
「もうっ! いいところでなんぜよリュン!?」
優とユンファが、充血した目でリュンを睨み付けながら言った。
するとリュンは慌てた様子で、
「すまへんみんな! すぐ戻ってくるさかい!」
涙も拭かずにそれだけ言うと、かなえの病室を後にした。
数分後
ギンが居る場所とは反対方向にある、病院内の『携帯電話使用可能エリア』に着いたリュンは、
バスターウォルフに喰いちぎられなかった右腕で、慌てて電話に出た。
「……もしもし? うん……ゴメンな。でもちゃんと〝仕事〟はやってるさかい……
えっ!? ちょい待ち!? それだけは勘弁してくれへんか!?」
リュンの顔が急に険しくなる。だが観念したのか、すぐに真顔になり、
「分かった分かった。せやけどあと数日時間をくれへんか? ちゃんとお別れをしたいんや!」