所長達の決断
「……ハヤト、前言撤回や」
「?? どういう事d……まさか!?」
ハヤトはギンの言葉から、なにやらとても嫌な予感を覚えた。
なので確認のために再び穴を覗き込み――――案の定、目を見開くほど驚愕した。
そしてその直後、2人はまるでタイミングを合わせたかのように、慌ててその場から撤退した。
すると次の瞬間、穴の中の種が急激に成長し始め、瞬く間に種は1本の巨大植物へと変貌した。
その大きさは、およそ15m。太さはおよそ直径4m。
見た目はバラにそっくりではあるが、バラのようになにかに絡みつく事は無く、
代わりに、何十本もの茎を複雑に絡み合わせ、ソレを柱として、放射状に葉やツルを伸ばしている。
そしてその柱の天辺には、まだツボミの状態の花がある。
「……な……なんやこの植物!?」
「俺らも……見た事ねぇぞこんなの!?」
植物が急成長した時に発生した衝撃音により、商店街の住民が一斉に何事かと外に出る。
ハヤトとギンはそんな中、ただただ、急成長した謎の植物を見つめていた。
午後18時45分
星川町揉め事相談所 隠し部屋
「なにっ!? 他の『異星人共存エリア』にもか!?」
ハヤトは今回の事件を解決するために、とりあえずアメリカの【揉め事相談所】所長に助言を求めて、
【星川町揉め事相談所】の隠し部屋の1つである、
世界中の【揉め事相談所】所長と連絡を取り合うための部屋を使ったのだが、
逆に所長達からとんでもない事を知らされた。
なんと他の『異星人共存エリア』にも、謎の植物の種が降って来たというのだ。
『そうだ。我々の居る町にも種が降って来た』
アメリカの所長が腕を組み、溜め息を吐いた。
すると今度はロシアの所長が、相変わらずおっとりとした口調で、
『こっちは大変よ~~……落ちた場所が~~……町民の家だったから~~』
「!? ケガ人が!?」
『いいえ~~……家主がトイレ入ってる時に~~……降って来て~~……家が壊れて~~……
家主がトイレシーンを~~……近所の人に~~……見られちゃったのよね~~』
「それはそれで問題だ!!」
ロシアで起きたトンデモハレンチ騒動に、ハヤトは目を見開いて驚いた。
『ちなみに私の居るイギリスでは、高校の女子更衣室に女子が入ってる時、
植物の種が女子更衣室に落ちて、女子更衣室が壊れたがために、
中に居た女子達の着替えを、外に居た数人の男子生徒に見られる、という被害がありました』
イギリスの所長も自分が居る『異星人共存エリア』での、謎の植物による被害報告をする。
『……なんというか……ハレンチな被害ばかりだな』
エジプトの所長が唖然としながら、相変わらず老婆のようなしがわれた声で言った。
ハヤトも、心の中で同感した。
そして、もしかしてこんなハレンチな事件を起こすために、敵は種を落としたのではないか、とも思った。
それから数分間。所長達が今回の事件について意見を交わし合った結果、4つの事実が判明した。
1.降って来た謎の植物は、自分達も知らない正体不明の植物である。
2.火や除草剤が全く効かず、どんな環境でも育つ。
3.『異星人共存エリア』以外の場所に落ちたという報告が無い。
4.全ての謎の植物にツボミがあり、まだ開花していない。
『しかしどうする? もし開花して花粉が舞ったら、地球の環境が狂ってしまうぞ?』
エジプトの所長がアメリカの所長に意見を求める。
するとアメリカの所長は、ふむ、と少し考え込むと、険しい顔をしながらも決断した。
『こうなったら、「裏稼業」の1つである「始末屋」に頼む他、道は無いかもしれん』
『なぁっ!? 「始末屋」でございますか!!?』
『「裏稼業」……だと!?』
『なんですって~~!?』
「ウソだろ!?」
アメリカの所長の出した結論に、他の所長達も険しい顔をした。
当たり前の反応だった。今や『裏稼業』は犯罪者同然と認識される世の中なのだから。
しかし、植物が正体不明である以上、植物は何者かによって意図的に生み出された存在である可能性もある。
そしてそんな『裏社会』の裏事情に関係した事件の解決方法を知っているのは、
今の時点では、『裏社会』で生きる『裏稼業』の人しか居ない。
しかしだからこそ皆、頭の中では彼ら以外に謎の植物を始末できないだろうと理解していた。
なのでアメリカの所長の意見は、渋々みんなに承諾された。
午後19時8分
「おうハヤト! どうだって?」
隠し部屋から出て来たハヤトに、ギンはすぐに会議の結果を尋ねた。
するとハヤトは、深い溜め息をつきながらギンの質問に答える。
「アメリカの所長が代表して、『始末屋』に依頼してくれるんだと」
「……は? 『始末屋』?」
この会議の結果には、さすがのギンも顔を引きつった。
それを見てハヤトは、また1回溜め息をつくと、
「まぁ、なるようになるだろ? それしか解決策無いんだしさ」
険しい顔で、そう告げた。
7月8日 午前6時34分
【星川町揉め事相談所】の電話が鳴った。
「はいはいはい! 今出ますよ!」
そう言いながら、ハヤトはパジャマ姿で、慌てて電話を取った。
すると、慌てた様子の男性の声が受話器から聞こえてきた。
『ハヤト君!! 大変だ!!』
「!? いったいどうしたんですか!?」
その声から、尋常じゃない事態が起こっている事を、ハヤトは瞬時に悟った。
そしてその直後。男性の口から、恐れていた事態を告げられた。
『米が……畑の野菜が……〝全滅〟だ!!』
午前6時54分
星川町 田畑エリア
ハヤトは驚愕した。
自分の眼前で起こった事を。
信じたくなかった。
いつかは起こり得る事だとは、分かっていた。
でも、それが今だという事実を、ハヤトは受け入れられなかった。
――――土地が死に、田畑の米や野菜が全て枯れ果てていた――――
これが、目の前で起こっている現実。逃れられない事実。
「ハヤト君! まさか昨日商店街に落ちて来た植物のせいなのか!?」
電話をしてきた農家のオジさんが、ハヤトに答えを求める。
だけどハヤトは、目を点にして眼前の光景を見つめるばかり。
くそっ! まさか……まさかこんな事になるなんて……チキショウ……!!
そしてその心には、行き場の無い悔しさだけがあった。
午前7時45分
町立星川中学校
「ねぇハヤト、ギン、商店街の方でなにかあったの?」
朝のHR前。ギンと一緒に、『始末屋』が来るまでの、あの謎の植物への対策を考えていると、
まるで二日酔いをした人のような印象を受ける、やつれた顔をしたかなえが、2人の元へとやって来た。
「……どうした天宮?」
「メッチャやつれてるやん!? どないしたん!?」
「あ……うん……実は……」
かなえの話によると、なんと植物の種が急成長し、植物の気配が急に高まったために、
その気配を、リミッターで常人レヴェルまで抑え込んでいるハズの
自身の異能力『感知』でも感知できるようになり、
そのせいで昨夜は激しい頭痛に襲われ、よく眠れなかったそうだ。
「早くあの植物なんとかしないと……私……死ぬかも……?」
フラフラヘロヘロと体を揺らしながら、かなえはなんとか自分の席に着き、そのまま机に突っ伏した。
しかしそのまま眠る事は無く、ただただ、充血した瞳を見開いたままで。
正直怖い構図である。
「……ヤバイな、ギン」
「ああ。一大事やなハヤト!」
ハヤトとギンが、顔を見合わせた。
田畑だけではなく、人にまであの植物は被害を与える。
その事実を目の当たりにして、中学校で対策を考えている余裕は無いと、2人は改めて思ったのだ。
「こうなったら相談所に戻って!」
「ああ。考え付く事を全部やってやろうやないか!」
すぐに2人は、クラスの人に、先生に早退する事を伝えるよう頼み、すぐさま相談所の方へと向かった。
かなえは、夢と現の狭間に居た。
寝ようにも、『バスターウォルフ』出現以来の激しい頭痛が眠気を阻害し、全然眠れないせいだ。
まさか植物が急成長したがなんて……はぁ……『始末屋』とかいうヤツは今日来るらしいけど……。
かなえは、自分が教室に入る前に、ハヤトとギンが話し合っていた内容を思い出しながら、思った。
……ああ……あの植物を無事に処理できたら……ソッコーで寝よう……。
かなえの意識が、段々と遠のく。
だが頭痛のせいで、寝てしまうレヴェルまでは遠のかない。
とその瞬間だった。
「!!? なっ!!?」
ほんの一瞬だが、かなえはなぜか感知できた。
謎の植物に近付こうとする異星人の子供の気配を。
「いけない!!」
かなえは目をカッと見開くと、慌てて立ち上がり、そのまま教室を出た。
「!!? かなえちん!!?」
教室に居た優がかなえに声をかけるが、かなえは耳を貸さずにそのまま駆ける。
頭痛など気にしていられなかった。今はそんな余裕は無い。
なぜなら今感じる植物の気配が、なぜか徐々に強まっているから!!