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星川町の七夕

7月4日(月) 午後11時4分


惑星イル=イーヌの北方にある、とある研究所の倉庫が襲撃された。

その倉庫は、大昔に開発された多くの〝ある危険なモノ〟を保管するためだけに建てられた、

宇宙全体でその存在を知る者は、両手で数えられる程しか居ない倉庫。

そして、そのセキュリティは常に最先端技術のモノであるハズだが……。

「……コレか。遠い昔、かの星のとある村に食糧難を引き起こしたという〝悪魔〟は」


そのセキュリティをかいくぐるのではなく、()()()()()()()()倉庫を襲撃した者は、

己が右手に、目的のモノが入った、ガラス製の密閉された小さい立方体の容器を持ちながら、呟く。

襲撃者が今居る部屋の周りの部屋からは、激しい炎が燃え盛っている。

襲撃者が侵入した際、倉庫の警備員との攻防の最中に、

引火性の高い薬品に()()()()()()()()()事により発生した炎だ。


とそんな炎の中から、炎によって少し黒くコゲた白衣を着た1人の成年が、飛び出すように出て来た。

どうやら倉庫を利用している、研究所の研究員のようだ。

「お……お前、それがなんなのか、分かってるのか!?」

襲撃者の目をジッと見据え、成年は言う。


だが襲撃者は瞬き1つせず、成年を見返し、

「ああ。分かってる。分かってるからこそ――――」

襲撃者が、成年に右手の人差し指を向ける。

「――――どうしても手に入れなければならないのだ」


成年は、襲撃者がいったいなにをしているのか、最初は分からなかった。

だが自身の体に異変が起きた時、すぐに襲撃者が何者なのか、そしてなにをしたのかを理解した。

「!!!!!!? う……うあああああああぁぁぁぁぁぁあああああっっっっっっ!!!!!!?」

成年の体が、突然燃え出す。



()()()()()()()()()()()()()()()()()()



ま……まさかコイツ……!?

そう、成年が驚愕したのもつかの間。

数秒で成年は息絶え、体が炭化し、ボロボロと崩れ落ちる。

それを見ながら襲撃者は、眉1つ動かさず、また呟いた。

「ジ=アースの『異星人共存エリア』は……在ってはならないモノだ。もし存在し続ければ……

私や……私の同胞の身に起こった事が、いつかまた起こる。そうならないために……コレが必要なんだ」


そして襲撃者は、そのまま炎が燃え盛る通路へと歩き出す。

普通ならば襲撃者は、研究員の成年と同じ末路を辿るだろう。

しかし炎は、襲撃者を燃やせない。

それどころか、襲撃者は火傷1つ負っていない。

なぜなら襲撃者は、炎を使う……いや、使役する側。



発火(パイロン)』という異能力を使える、異能力者なのだから。




7月7日(木) 午後17時23分

星川町揉め事相談所


「おいギン! ちゃんとさささささえろよ!」

「鼻がムズムズしたんや! しゃあないやろ!? っていうか『さ』が1個多いで!?」

ハヤトとギンは、星川町の中心部の商店街にある花屋で買ってきた笹を運んでいた。

ちなみに、ハヤトは幹を、ギンは先っぽを持って運んでいる。

ちなみに買ってきた笹は、2mくらいの大きさのヤツで、値段は500円。


「へぇ、この町にも……『七夕』なんて行事があるんだ」

笹を室内に運び込む2人を、室内の所員用の椅子に座りながらそう言うのは、

すっかり【星川町揉め事相談所】の仕事に慣れた、

ハヤトとギンの友人であり、相談所の会計係でもある天宮かなえだ。

「?? そりゃあるさ。この町をなんだと思ってるんだお前は?」

ハヤトは笹の幹を抱え直しながら、かなえに尋ねた。


するとかなえは、少し考えた後、

「昔話の中で描かれているありえない現象を否定して、

それら全てを科学的アプローチで解釈しようとする町?」

「……勘違いにも程がある」

ハヤトは溜め息を吐きながら答えた。


「えっ!? 違うの!?」

かなえは、この町の事を知ってから今まで、ずぅっとそんな勘違いをしていた。

まぁ、自分達が住む町には『異星人』という、どちらかというと

SFサイドな住民が居るのだから、仕方ないかもしれないが。


と、そんなかなえに向かってギンとハヤトは、

「ナハハッ! かなえちゃん、この町はそんな堅っ苦しいトコやないで!?」

「ああ。この町に住むのは、宇宙連邦では『ジ=アース』という名前で登録されているこの地球の文化に触れ、

そして地球人と仲良くしたいと思っているヤツらなんだからな」


「そ……そうなんだ」

意外だな、とかなえは思う。

と同時に、物事を先入観だけで捉えてはいけないと、改めて感じた。

「せやせや! だから皆……どっちかというとロマンチストなんや。

あっ! せや! 今夜は無事晴れそうな事やし……かなえちゃん――――」

次の瞬間、急になにかを思いついたギンは笹の先っぽの部分から手を離し、かなえの背後へと瞬時に移動した。

いきなりの事にハヤトは対応できず、笹の先っぽを床に落としてしまう。


「――――夜空で再会できた恋人達に負けへんくらい愛を育みま……ぶっ!?」

背後からかなえを抱き締めようとしたギンの顔に、かなえの裏拳が飛んだ。

実はかなえ、数日前にはすでに、ハヤトから教わった『ギンのセクハラの回避方法』を応用し、

ギンが自分にセクハラを仕掛けてくるタイミング、さらには自身の後方の空間の、どの位置に、

ギンのどの体の部位があるのかさえもを完全に把握してしまっていたのだ。

なので、今後ギンがどのタイミングでセクハラしようが、かなえは何度でも必ずカウンターを返せるだろう。


「……スゲェな。〝ハルカ〟以上に」

かなえがギンのセクハラをかわさず、カウンターを返したのを見て、ハヤトは思わず呟いた。

とその時、その呟きが、少し離れた所に居るにもかかわらず、

なぜか()()()()()()()()かなえは小首を傾げ、

「ん? あれっ? ハルカ? どっかで聞いたような……?」

かなえは忘れていた。相談所の会計の仕事や『オルプス事件』などのせいで、

『バスターウォルフ事件』の時にハヤトの口から出た、先代の相談所の会計係の名前を。


だけど、かなえはすぐに思い出した。

同時に、今まで忘れてた分、ハルカという人物はいったい何者なのかとても知りたくなった。

「そういえばハヤト、アンタはどんな願いを短冊に書くの? もしかして、ハルカって人に関する事?」

かなえはできる限り自然に、ハルカについての話に持っていこうと思い、そんな質問をした。

するとハヤトは、少し寂しそうな顔をしながら、

「……ああ。そうだな」

ただ、そう言った。


同時にかなえは、また思い出した。

ハヤトが、ハルカという人物の話をすると、寂しそうな顔をしてしまう事を。

……しまった。

軽率だったと、かなえは思う。

そして、どうして考える前に口にしてしまったのかと、悔やんだ。

すると、かなえの裏拳による痛みがようやくひいたのか、ギンがかなえの隣に立ち、小声で言った。

「かなえちゃんはなにも悪くないで? かなえちゃんはなにも知らないから、仕方ないんや」


「!? ギン、アンタ……ハルカって人の事……知ってるの?」

かなえは驚きつつも、ギンに小声で尋ねた。

だがギンは、真剣な目でかなえを見つめ、

「すまへんな。ハヤトに『話すな』って言われてんねん。いつか自分で言うゆうてな。

あぁちなみに、ハルカちゃんの事はカルマ君にも言ってへんから、自分だけ蚊帳の外ってワケやないで?」


「あ……そう……なんだ……って別になにも気にしてないわよ!」

正直な所、かなえは〝なにか〟を気にかけていた。

ハルカという人物の存在を知った時から、ずっと。

だがそれがなんなのか、かなえ自身にも分からない。

いや。今の時点では、分からないモノなのだろうか?

……いつか、それがなんなのか……分かる時がくるのかな?

そう思わずには、いられない。



とその時だった。



星川町全体が、()()()

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― 新着の感想 ―
[良い点] テンポ良く事件が起こるので、楽しく読み進めています。 個人的な意見で恐縮ですが、異星人の文化がどことなく下町風に感じられて、ほのぼのとした気持ちにさせられるのは私だけでしょうか? [気にな…
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