御上(おがみ)村2
振り向くと、そこには3人の男女が居た。
その内2人は、おそらく双子であろう、同じ顔をした短髪の男性。
見た目20歳前後で、明治時代の男性の初期の制服である、黒い着物と灰色の袴を身に付けている。
残る1人は、オカッパ頭の女性で、男性2人と同い年くらい。
服装は同じであるが、男性2人と違い、桜色の着物と、茶色の袴を身に付けている。
そして、どことなく男性2人と顔が似ている。
「よく来たな、ハヤト」
「まぁ上がってくれ」
「キャー! ハヤト君大きくなっちゃって!」
3人が、同時にそれぞれそう言った。
女性だけ、1段とテンションが高い。
ハヤトは驚いていた。今でも家の中から鉄を打つ音が聞こえるのに、なぜ3人が後ろに居るのかと。
だが、そんな疑問などお構い無しに、
「って、私に挨拶無しか!?」
レイアが、慌てて3人にツッコんだ。すると、
「「「あっ! レイアさんも久しぶり」」」
取って付けたように言われた。
ちなみに、家から鉄を打つ音が聞こえたのに、なぜ3人が後ろに居るかというと、
ハヤト達を、いきなり後ろから現れて驚かせる為、
あたかも鍛冶場で作業していると思わせる必要があり、
鍛冶場に、作業時の音を録音したレコーダーを置いたのだという。
なので3人は、レイアが驚かなかった事に、心の中でちょっとショックを受けていた。
午後12時14分
火鉢がある畳の部屋で、火鉢を囲み、一緒に田舎ならではの昼食をとりながら、ハヤトは事情を話した。
「――――で、ヒビが入ったってのか」
「すみません。『双月』にムチャさせ過ぎました」
ハヤトが、武器職人の男性の1人である霧峰劫焔に、軽く頭を下げながら謝った。
すると劫焔は、深く溜め息をつきながら、
「まぁ、君が無事だったからいいけどさぁ」
「ハデにやったね、こりゃあ」
劫焔の左側に座る、劫焔の〝3つ子の〟弟である響水が、
ヒビが入った『双月』の刀身をマジマジと見ながら言った。
『双月』は、あと1回強力な一撃が加われば確実に折れるくらい、深くヒビが入っている。
すると、劫焔の〝妹〟であり、響水の〝姉〟である、劫焔の右側に座っている鏡花が、
「直せるの? 劫焔、響水?」
と心配そうな顔で尋ねてきた。
すると3人は、刀鍛冶ならではの専門用語を並べながらの会議に突入。
「なぁハヤト。いい加減あの人達を紹介してほしいんだが?」
視線を霧峰3兄妹に向けながら、ハヤトの左側に座るカルマは、ハヤトに言った。
するとハヤトは、いったん昼食を中断し、
「俺から見て真ん中が、この家の当主である霧峰劫焔さん。
で、劫焔さんから見て右が鏡花さん。左が響水さん。見ての通り3つ子の兄妹なんだけど……」
「ん? なんだ?」
突然ハヤトが眉をひそめた事に、カルマは小首を傾げた。
するとハヤトの言葉を引き継ぐように、ハヤトの右側に座るレイア博士は説明した。
「この家族、ちょっとややこしいのよ。見ての通り3人は3つ子なんだけど、
その内の劫焔君と響水君は二卵性双生児。で、生まれたのが響水君、鏡花ちゃん、劫焔君の順で、
鏡花ちゃんは劫焔君の妹であり、響水君の姉でもあるという……ね」
「なるほど。まぁでもこの星じゃ、こういう家族構成、珍しくないですよ」
カルマが、ボソッと呟くようにレイアに言った。すると次の瞬間、
「「えっ!? ウソッ!?」」
異星人であるレイアだけではなく、ハヤトにも驚かれた。
「えっ!? なんで驚くの!?」
「私の星じゃ、絶対に2人以上子供は生まれない。だからそういう例は一切無いわ!」
「そういうの、数百年に1度的な事だと思ってた。俺の周り、2人以上子供居る家庭あまり無いし」
「……レイア博士はともかく、ハヤトはもう少し常識を覚えようよ。
っていうか『霧峰』を『むほう』と読む方が珍しいぞ?」
眉を引きつりながら、カルマはハヤトに言った。するとハヤトとレイア博士は、
「「えっ? そう?」」
キョトンとしながら、カルマに尋ね返した。
午後13時5分
「ほいよ、ハヤト」
食後。響水がハヤトにある刀を手渡した。
それは、『双月』と同じ長さ、同じ重さ、同じ形ではあるが、『双月』ではない2本の日本刀。
「これは?」
「『双月』が折れた時に備えて、あらかじめ打っておいたアトラスツールだ」
劫焔が、1度咳払いをしてから説明を引き継いだ。
「でも、『双月』よりはギミックの威力を抑えてある。こっちの方が気に入らないようにな」
「いやぁ、大変だったんだよ? それのギミックの威力の調整。
次『双月』にヒビが入った時もそれ渡すから、絶対に折らないでね」
レイアが、大きく溜め息をつきながら言った。
するとハヤトは微笑みながら、レイア、鏡花、劫焔、響水の順で4人を見て、
「ああ。ありがとう」
代車ならぬ代刀を両手に持ち、4人に礼を言った。
午後13時30分
ハヤト達は宇宙船に乗って、星川町へと帰った。
霧峰3兄妹と共に、打ち直した『双月』のギミックの調整の為に、『御上村』に残ったレイア博士は、
ステルス機能のせいで見えないが、今宇宙船が飛んでいるであろう方向を屋敷の庭から眺めながら、
「ハヤト、なんか変わったよね」
そう、霧峰3兄妹に向けて呟いた。
「そういや、前会った時はハヤト……奪われたハルカちゃんを捜すのに必死でいつも疲れた顔してたな」
「あのカルマってヤツや……それ以外に、信頼できる〝仲間〟ができたんじゃね?」
劫焔と響水が、レイアと同じ所を眺めながら、それぞれそう言った。
「もしかしてあの2人、付き合ってるのかな?
はっ! まさか超えちゃいけない一線をもう超えてたり!?」
だが鏡花は、両手を頬に当て、両目を輝かせながら意味不明な事を言った。
「まさかまさか! カルマ君が攻めで、ハヤト君が受けだったり!!? キャ~~!!!!」
「……相変わらずの〝腐女子〟っぷりね、鏡花ちゃんは」
「我が妹ながら、お恥ずかしい」
「我が姉ながら、お恥ずかしい」
レイアの一言に、劫焔と響水は同時に答えた。
数時間前
星川総合病院
ギンは『町立星川中学校』の昼休みを利用して、昨日の夜に『星川総合病院』で起きた、
『輸血用血液』が何種類か、1袋ずつ紛失した事件についての調査で、『星川総合病院』を訪れていた。
病院の中は思ったよりも静かで、聞こえるとしても入院患者かその見舞い客の喋り声しか聞こえない。
そしてその喋り声も、全員がマナーに配慮し、できるだけ小さい声に止まっている。
例えるならば、病院はまるで図書館の中のようである。
「さてと、事件現場はコッチかいな~~っと」
そう呟きながら、ギンは〝ある者〟のもとへと向かう。
そしてギンが辿り着いたのは、病院の中にある、人があまり通らない廊下。
廊下には、大きめのバッグを持ち、誰かを待つかのように立っている、1人の看護婦が居る。
ギンはその看護婦を見るなり、尋ねた。
「……最後の〝数袋〟……持ってきたやろな?」
すると看護婦は、バッグのチャックを開け、中に入っている数袋の〝輸血用血液〟をギンに見せた。
輸血用血液は、一袋一袋、中の血液の色が違う。
かなえの父である哲郎も目撃した、異星人の輸血に使う血液だ。
「よしよし。よぉやった。んじゃあ、『ワイがアンタの視界から消えたら、普段通り仕事に戻ってや』」
そう言うと同時、ギンはバッグのチャックを閉め、
バッグを持つと、すぐに看護婦の後ろに続く廊下を歩いて行った。
すると次の瞬間、看護婦はハッと我に返り、
「あれっ? 私……いったいなにを……!?」
最初の嵐が――――刻々と迫っていた。