御上(おがみ)村
ハヤト達が乗った宇宙船は、ステルスをかけながら、『御上村』という、
山の傾斜に作られた村の、中央にある大広場へと着陸した。
この大広場は元々、子供の遊び場、もしくは村の祭りの時に使われていた場所だ。
だが、近年の少子化&過疎化の影響により村人が、昔に比べると激減し、大広場は全く使われなくなった。
「……なんか、普通の村だな。ホントにここに居るのか? アトラスツールを作った武器職人」
宇宙船から出ながら、カルマがハヤトに尋ねた。心の奥底で、ドキドキワクワクしながら。
「ああ。でも正確には、この村に居る〝武器職人〟と、
これからこの村に来る〝博士〟によって、アトラスツールは作られるんだけど」
「博士?」
カルマが眉をひそめて、首を傾げる。
するとハヤトは、まるで学校の先生のように優しい声で、
「『アトラスツール』ってのは、自分の住んでいる星の武器に、
威力向上などの目的でギミックが仕掛けてある武器の総称なんだ」
「あっ! そうか!」
カルマはハヤトの説明の途中で、握った右手で、水平に開いた左手をポンと叩き、
「これから会う武器職人が日本刀を作って、後から来る博士がギミックを日本刀に仕掛けたんだな!」
「……ああそうだ。さすがカルマだ。物分かりが早い」
「当然!」
カルマが、胸を張ってエヘンと言った。
というか、誰にでもすぐ分かる事だと思うのだが。
山の傾斜に作られた村の道は、登山の時に登る山道と同じくらいの傾斜で、
しかも道幅が、1人ならなんとか、2人ならちょっとキツメだと思う程狭い。
崖沿いの道も例外ではない。しかも崖沿いの道には柵が立てられていない為、
崖沿いの道で、強風などで体が煽られたら、確実にオダブツだ。
「下見ない下見ない下見ない下見ない下見n――――」
その崖沿いの道を歩きながら、ハヤトの後方を歩くカルマが、ブツブツブツブツ呟く。
「……お前、高い所苦手だったっけ?」
カルマが高所恐怖症など、信じられなかった。
カルマが高所恐怖症であったのならば、空高く飛び立つ宇宙船に乗れるハズが無いからだ。
「自分で高所を進むのは別だよ!」
「……そうか」
ハヤトはそれだけを言うと、ただただ、前に進んだ。
数分後
途中で会った村人達と挨拶を交わしながら、ようやくハヤト達は目的の場所に辿り着いた。
「やっと着いた」
「ここが、そうなのか?」
ハヤトとカルマの視線の先に、鎚を鉄に打ちつける音が響いてくる屋敷が見えた。
正確には、その屋敷のすぐそばにある鍛冶場から聞こえてくる音だ。
「久しぶりに来たけど、あんまり変わってないな」
屋敷の玄関へと向かいながら、ハヤトが呟く。
「風情があるな。いったいどういう人が住んでるんだ?」
カルマは屋敷全体を眺めながら、ハヤトに尋ねた。
「……正確には、ここに住んでるのは人〝達〟だ」
「へぇ、もしかして夫婦で?」
「いや、3兄妹」
「どんな人達?」
「……なんというか……賑やかな人達っていうか――――」
とその時だった。
「おっ! ハヤト、元気してる?」
ハヤト達の後方から、声が聞こえてきた。
誰だと思い、カルマは後ろを振り返った。
するとそこに居たのは、セミロングの青髪を生やし、
医者が着るのと同じ白衣を身に纏った、20代前後の1人の女性。
「えっ? 誰?」
「ん? 誰だと? 人に誰だと尋ねる前に、自分から名乗るのがスジってモンでしょ?」
女性が、眉をひそめてカルマに言った。
するとその直後、ハヤトは目を見開きながら、
「あれっ!? レイア〝博士〟!?」
「久しぶりぃ~~♪」
レイアという女性が、微笑みながら言う。
「へっ? 博士? って事はこの人が!?」
ハヤトとレイアを交互に見ながら、カルマは尋ねた。
ハヤトは慌てて2人の間に入り、それぞれを紹介した。
「カルマ。こちら、俺のアトラスツールにギミックを施してくれたレイア=ホドウィック博士。
レイア博士。こちらは俺の親友の不動カルマ」
「ど……どうも」
「へぇ、そうなんだ。よろしくね」
「それにしてもレイア博士、意外と早かったですね。こんなに早く着くなんて」
「いやいや、君から連絡あってから、急いでこの星に来たんだ。
なにせ、私とこの家の武器職人達の人生の中で、暫定最高傑作である
『双月』にヒビが入ったとあっちゃあ、黙っていられなくてね」
レイアが、屋敷を見ながら言った。
「ハヤト、この人異星人? っていうかお前のそのアトラスツール、『そうげつ』っていうの?
でもっていつこの人にアトラスツールにヒビが入った事教えたんだよ?」
カルマはなんだか、置いてけぼりにされたような気がしたので、
マシンガントークかつ小声で、慌ててハヤトに尋ねた。
「ああ。お前がジェイドを病院に運んだ時にな。んで、レイア博士はアーシュリー星人だ」
ハヤトは、カルマの質問を、一つ一つ思い出しながら答えた。
「それで……アトラスツールの名前だっけ?」
「おう」
「双子の『双』に、月と書いて『双月』。コイツにピッタリだろ?」
腰のベルトにかけたアトラスツール『双月』を見ながら、ハヤトはカルマに尋ねた。
するとカルマはフッと微笑み、
「……ああ、確かに。『双月』のギミックからしても……な」
そして3人は、屋敷の玄関前に着いた。
「お~~い! 居るんだろ、3人共!」
そう言いながら、ハヤトは玄関のドアをノックする。
だが、何度ノックしても、家の中からは全く音がしない。
「変ね。留守かしら?」
「そんなハズは無い。レイア博士の後にちゃんと連絡を入れたぞ?」
そう言うと、ハヤトは再度玄関をノックした。
するとその時、
「ん?」
カルマの視界に、屋敷の表札が飛び込んできた。
【霧峰】
「……………なんかどっかで聞いた事がある名前のような……?」
表札を見ながら、カルマが思わず呟く。
だが記憶は曖昧で、どこで聞いた名字なのか分からない。
だけどどうしても気になるので、カルマがさらに記憶を辿ろうとした――――その時だった。
「ほぅ。俺達の事を知ってるのか?」
突如後方から、声がした。