宇宙武具の損傷
午前11時27分
「……正直言って……ここまで体がボロボロで、先程まで動いていたなんて、信じられないっス」
惑星ドゥームーンから1番近い惑星である、惑星カウラドナにある病院。
そこに勤める、橙色で、腰まで届く程長い髪を生やした、この星の民でもある女医が、
診察室に置いてある、診察で使うベッドで気絶しているジェイドをチラリと一瞥し、眉をひそめた。
「……というか、アルガーノの民にここまで肉体を酷使させる状況が、
いったいどういう状況だったのか、逆に詳しく聞きたいっスね」
女医と向かい合うように、診察室の椅子に座るカルマは、
女医のその言葉に対し、ただただ顔を赤くしながら苦笑い。
……話せないよなぁ。俺の友人とのバトルに夢中だったって。
ふと、心の中でそう思いながら。
すると、女医はカルマを見て、
「ん? 顔が赤い。風邪っスか?」
「えっ!? いやっ! 違いますよ!?」
カルマは慌てて否定した。そしてそのまま立ち上がり、診察室からスタコラと出て行った。
別に、女医に対して発情したとかの理由で、顔を赤くしたのではない。
カルマが顔を赤くした理由……それは……。
病院 宇宙船停船場
「カルマ、ありがとな。代わりに行ってくれて」
病院から戻って来たカルマに向かって、ハヤトは宇宙船の窓から顔を出しながら礼を言った。
するとカルマは、少し顔を赤くしながら、
「……ハヤト……もっとまともな〝翻訳機〟は無かったのか!?」
自分の頭上に付けてあるネコミミカチューシャ型翻訳機を指差し、少し怒りを込めながら尋ねた。
「なに言ってんだよ? 今宇宙にはそういうタイプの翻訳機しか無いって渡す時言ったろ?
っていうか、なかなか似合ってるぞ? 気にしなくても大丈夫だ」
「いやいやいや!! 似合ってるとかそういう問題じゃないんだけど!!?」
「カルマさん、なかなか似合ってますよ?」
宇宙船のパイロットが、ポッと頬を赤らめながら、ボソリとカルマに言った。
言い忘れていたが、ハヤトが雇ったパイロットは女性である。
「ほら、パイロットだってそう言ってる」
「……だ……か……ら!! そうじゃなくて!!」
「メガネ男子にネコミミ……萌え」
「!!!!!!!?」
カルマの顔が、まるでトマトのようにみるみる赤くなっていく。
ハヤトはそれを見て、ただただ苦笑い。
数時間後
歪曲空間内
「ったく! それにしても今回は骨が折れる1日だったぜ!
まさか墓参りが、砂漠での決戦に移行するなんてよ!」
アイマスクをかけながら、ハヤトは声を荒げながらカルマに話しかける。
声からして、まだジェイドに対しての怒りが消えてないんだな、とカルマは思った。
それだけ、ハヤトはジェイドの事を思って……
ジェイドの腱を斬り裂いてまで、暴走するジェイドを止めて――――
と、ここまで考えて、同じくアイマスクをかけているカルマはある事を思い出した。
惑星ドゥームーンに向かう途中で言いそびれた、ハヤトに対する質問だ。
「……そういえばハヤト、聞きたい事があるんだけど?」
「ん? ああ、そういえば……なんだ?」
「……ハヤト、お前はどうして、ジェイドの一撃を受けて、まともに動けるんだ?」
……………言ってしまった。
そう思うと同時。胸が少し苦しくなるのを――――感じた。
だけど、カルマは聞かなきゃいけない。だからカルマは、再度勇気を振り絞って、
「それと、そんなお前はいったい――――」
――――何者なんだ? そう続けようとした。
だがその前にハヤトは、急に思い出したかのように、
「ああ。そういえば言い忘れてたな。この〝服〟の事」
「……………は?」
突然の、予想外の返答に、カルマの目が点になる。
「いや、言い忘れてた……っていうか、服渡す時教えたらいいかな~~って……いうか……」
「ん?」
カルマは、ハヤトがなにを言いたいのかよく分からなかった。
「実は……俺の着てる服な、強い衝撃を受けると鎧並みの強度になる特殊素材でできた服なんだ」
「……………な……んだと!?」
突如判明した衝撃の事実に、カルマは目を丸くした。
同時に、ハヤトへの不安が一気に消し飛んだ。
「『ディガニウム特殊合成繊維』っていってな。まぁ防弾チョッキと同じような特性の繊維だ。
俺が所属している〝団体〟が、団員の普段着として採用したヤツなんだけどさ、
服の代金がメチャクチャ高いわ、1回しか強度が増さないわで、そう何着も無くてな。
いつか事務所が黒字続きになったら、お前と天宮の分を買おうと思ってる」
「……へ……へぇ、そうなんだ」
心配して損した。いつも通りのハヤトじゃないか。
カルマはフッと笑いながら、思った。
なにも、心配する事は無い。あの超スピードだって、〝団体〟が課した、
特殊な訓練を乗り越えた事によるモノだと前に教えてくれた事だし……ってあれ?
そういえば、とカルマはふと気付いた。
前回、ジェイドが町に来た時と同じくらいの超スピードで、今回もジェイドを追い詰めたにもかかわらず、
ハヤトの足が、前回と同じように断裂寸前までイッていない事を。
まぁそれでも、足は、ほとんど動かなくなるくらいに疲労困憊ではあるらしいが。
「そういえばお前の足、どうして今回は足が断裂寸前までイッてないんだ?」
「んん~~……なんでだろ? 前より筋力が上がったのかな?」
「……そういう問題か?」
なにやら嫌な予感がしてならないのは、思い過ごしだろうか?
まるで、いつかハヤトが、自分達でも予想できないような、
〝とんでもない存在〟になってしまうかのような……って、なに考えてんだろ俺? 気にしすぎか。
ふと感じた不安を、カルマは慌てて頭から追い出した。
と同時に、宇宙船が歪曲空間からようやく抜け出した。
『歪曲空間ヲ抜ケマシタ。アイマスクヲオ取リクダサイ』
宇宙船の合成音声が、それを伝えてくれる。
ハヤトとカルマ、そしてパイロットが、ゆっくりとアイマスクを外す。
宇宙船の窓の外から青い地球が見えた。それ見てハヤトとカルマは、ようやく帰って来たのだと実感した。
とその次の瞬間、パイロットは急になにかを思い出し、ハヤトに尋ねた。
「あっ! そういえばハヤトさん、行き先は△×県の『御上村』でいいんですね?」
「ああ。ちゃんとステルスかけながら着陸してくれよ?」
「了解です」
「んん? 星川町に行くんじゃないのか?」
聞いた事も無い村に着陸すると聞いて、カルマは首を傾げた。
するとハヤトは、ふと眉をひそめ、
「実はジェイドとの戦いで、俺のアトラスツールにヒビが入ってな」
「へっ!?」
「あの時のジェイドの攻撃、俺の予想以上に速くてな」
ハヤトは、先程の死闘の事を思い出しながら、告げる。
「服の機能はもう使えないから、ジェイドの拳をアトラスツールでとっさに、一瞬だけ止めて、
速く移動する為の隙を作りながら戦ってたんだけど、その時に……」
「……なるほど。で、その村とアトラスツールに、どういう共通点が?」
「ああ。俺のアトラスツールを打った〝武器職人〟が居るんだ」
「な……なにぃ!?」
カルマは驚いた。ハヤトのアトラスツールが地球製であった事。
そして、打ったのが日本の武器職人である事に。
……なんでだろ? 凄く気になるんですけど!?
異星人と関わりがあるかもしれない場所。
その存在を知っただけで、カルマのドキドキは止まらなくなった。
次回、ハヤトのアトラスツールの名前が判明!