再び宇宙(ソラ)へ
「……もしかして……勝ったのか!!? 俺が……あの光ハヤトに!!!?」
ジェイドは、血にまみれた自分の右手を見ながら、不敵な笑いを浮かべた。
その数m前方には、目を閉じ、口から血を吐き、仰向けになって地面に倒れているハヤトの姿がある。
「……ハ……ハヤ……ト?」
――――ウソだろ?
ハヤトがやられた。そんな衝撃の光景を前に、カルマは頭が真っ白になりかけながらも、
おそるおそるハヤトに近付き、何度も何度も、名を呼んだ。
だが、ハヤトはピクリとも動かない。
「ウソだ……ウソだ……」
ハヤトはまだ生きてる!! ハヤトがそう簡単に死ぬワケが無い!!
強く心の中で、カルマは信じた。
信じて……信じて……信じて……カルマは、おそるおそるハヤトの手首に触れた。
……………ドクン……………ドクン……………ドクン……………
指先から、ハヤトの弱々しい脈動が伝わる。
……よかった! 生きてる! けど、このままじゃヤバイ!
「おい!! そこの人!!」
カルマはすぐ近くに居る、まだ状況を理解しきっていないケヴィンに、叫ぶように呼びかける。
「今すぐハヤトを病院に運んでくれ! このままじゃ――――」
だが叫んでいる途中、カルマはあるモノを目撃した。
それは、思わず言葉が止まってしまう程の、あまりにも今の状況に合っていない事柄。
自分のせいで重傷を負ったハヤトの事などどうでもいいのか、
無責任にもジェイドは、自分とカルマが乗って来た小型飛行機に乗り込んだのだ。
「!! アイツ!!」
自分の、大事な親友のハヤトに重傷を負わせておきながら、
すぐにこの場から去ろうとするジェイドを見て、カルマの怒りは頂点に達した。
自分ではジェイドにはかなわない。
そんな分かりきった事が、頭から消える程に。
と次の瞬間、カルマは無音で着陸した小型飛行機から、ある会話を聞き取った。
「どうですか? 我々の開発した【新薬】の方は?」
操縦席から、仮面舞踏会にでも付けそうな仮面を付けた、謎の男がジェイドに話しかける。
するとジェイドはまたまた不適に笑い、パイロットである、話しかけてきた男に返答する。
「ああ!! 悪かねぇぜ!! なにせあの光ハヤトをぶっ倒しちまう程だ!!
これなら……これ程の力なら……〝アイツ〟を……止める事ができる!!」
次の瞬間、出入り口のハッチが閉じ、小型飛行機は電光石火の如き速さで、空の彼方へと飛び去った。
小型飛行機のスピードが、強烈なソニックムーブを引き起こす。
周囲の草は吹き飛び、木々は倒れた。
そして――――
ハヤトは――――
カルマは――――
ケヴィンは――――
ディーテ夫妻は――――
アメリカ現地時間 午後5時24分
アメリカの異星人共存エリア『シガレット・タウン』 病院
「……【新薬】?」
「ああ。どう思う、〝ハヤト〟?」
カルマは、なんとか一命を取り留めたハヤトに、自分が聞いた、
ジェイドが乗って来た小型飛行機内での会話についての意見を聞いた。
まぁ、一命を取り留めたと言っても、入院患者用の服の下は、腹を中心に包帯がグルグル巻きではあるが。
ちなみに他の皆は、ソニックムーブで吹き飛ばされ、地面に叩き付けられた際に受身に失敗し、
カルマは右腕、ケヴィンは左腕、ディーテ夫妻は足を骨折した。
ハヤトはカルマから話を聞くや否や、眉をひそめて考え込んだ。
『ジェイドの劇的な戦闘力の向上』『前以上の凶暴性』
『強い力を発揮しても【蛇霊縛呪病】が発祥しない』『【新薬】』
ハヤトの頭の中で、今起こっている事柄が、徐々に線と線で繋がり始める。
そしてすぐにハヤトは、1つの答えに辿り着いた。
「……まさか、アルガーノ星人の『蛇霊縛呪病』を抑え込む薬?」
同時刻
「クソッ……タレがぁ……」
ジェイドは、白い砂漠を歩いていた。
強い日差しで皮膚を焼かれ、熱風に喉や目をやられても、ジェイドは歩き続けた。
自分のせいで墜落してしまった宇宙船でもある小型飛行機から離れ、
町や村などの、たくさん人が集まっている場所を探す為に。
数分前
歪曲空間内
ジェイドは目的地へと向かう途中、突然激しい破壊衝動に襲われた。
それは、自身の中で今まで抑え込んできたモノか、はたまた自分が摂取した【新薬】の副作用か。
分からないが、とにかくジェイドは目の前にあるモノを、
壊したくて壊したくて壊したくて壊したくて仕方がなかった。
そして歪曲空間から出たのと同時、ジェイドはついに我慢できずに、パイロットを壊した。
それによりジェイド達が乗っていた小型宇宙船は、
歪曲空間を抜けた時、1番近くにあったこの惑星に墜落した。
数十分後
どれくらい……俺は歩いたんだ?
ジェイドの中から、時間の概念が消えかかっていた。
それ程、この惑星の環境はジェイドを追い詰めていた。
どっちにしろ……人が集まってるとこを見つけなきゃ……。
意識が遠のく中、ジェイドは強く心の中で思うが、残念ながらこの惑星に町や村は存在しなかった。
なぜなら、ジェイドが今居るこの惑星は、〝無人〟惑星ドゥームーンだから。
大気を構成する成分は地球とほぼ同じではあるが、ある事が原因で惑星全体が砂漠と化している『死の星』である。
この惑星にあるのは、白い砂漠と、完全に風化していない岩。そして、
「キシャアアアアアァァァァァァアアアアアアアアッッッッッ!!!!!!!!」
この惑星特有の生物達。
ジェイドの後方の砂の中から、クワガタのような頭、イモムシのような胴体を持ち、
体長が軽く10mは超え、丸太ぐらいの太さの、この惑星に住む生き物が現れた。
その生物の地球英名は『ジオ・ワーム』。
惑星ドゥームーンの生態系の頂点に君臨する、蟲の王だった。
ジオ・ワームが、目の前に居るジェイドに狙いを定め、口を大きく開ける。
そして次の瞬間、ジェイドはその場から消えた。
午後5時54分
シガレット・タウン 病院の屋上
「ホントにこんな事をしていいのですか!? 2人共!」
自分が乗って来た、戦闘機にも似た小型宇宙船の操縦席に座りながら、
そのパイロットは、座席に座っているハヤトとカルマに尋ねた。
するとハヤトは、凄く慌てた様子で、
「いいからさっさとカルマが小型宇宙船に仕掛けた発信機が反応するまでワープをし続けてくれ!!」
そう言ってハヤトは、自分の隣の椅子に座り、開いた〝小型パソコン〟を片手で持ったカルマを指差す。
実はカルマ、ジェイドに拉致された際、このままハヤトとぶつかり、もしジェイドがハヤトから逃げたり、
ハヤトになにかあった場合の事を考え、とっさにジェイドが乗っていた小型宇宙船に発信機を付けていたのだ。
ちなみに発信機は、カルマがハヤトから星川町の事を聞いた後に、
もしもという時に備えて作った、カルマ特製のヤツだ。
「も……もうどうなっても知りませんよ!!?」
言うと同時。パイロットがエンジンを稼動させる。
そして次の瞬間、小型宇宙船は電光石火の如き速さで、宇宙へと飛び立った。