狂乱のジェイド
「光ハヤトおおおおおおおおぉぉぉぉぉおおおおおっっっっっっ!!!!!」
聞き覚えのある声を、ハヤトは聞いた。
いつもいつもいつも、ハヤトに用事が有ろうが無かろうが関係無く、突如現れるあの少年の声を。
自分と、ケヴィンの真上でホバリングしている謎の小型飛行機から。
「……こんな神聖な場所まで……テメェなに考えてやがr――――」
ハヤトが眉をひそめ、ジェイドが乗っている小型飛行機を睨み付ける。
だが次の瞬間、ハヤトは口をポカンと開け、唖然とした。
「うああああぁぁぁぁあああああっっっっっ!!!!?」
ジェイドと、ジェイドの右腕に抱えられたカルマが小型飛行機から落ちるように降りて来たのだ。
「カルマ!?」
ハヤトが驚くと同時に、ジェイドが地面に着地する。
その影響で、ジェイドを中心に土煙が立った。
それを見て、ケヴィンもハヤトと同じく、唖然とする。
「……今の2人は……君のオトモダチ?」
「抱えられてた方はそうです」
ハヤトは目を丸くしながらも、ケヴィンの質問に即答した。
だけどすぐに、ジェイドに対して、
カルマを拉致する事で町の外に出るっていう、お前の考えた町から出る方法には感服するが、
こんな神聖な島の領空を侵犯してまでテメェは俺と戦いたいのか!?
と、心の奥底から怒りが湧き上がる。
忘れている読者様が居た場合の為に解説しよう。
星川町を含む、地球に5箇所存在する
『異星人共存エリア』に住む異星人は、原則的には町の外に出てもいいのである。
その代わり、自分の家に必ず数枚は置いてある『外出許可証』を【揉め事相談所】所長、
または町長に提出した上、『異星人共存エリア』に住む地球人を必ず1人同伴させなければならないのだ。
ハヤトがジェイド対し、そんな事を思っている事などつゆ知らず、
当のジェイドはニヤリと笑い、カルマを抱えながら、ハヤトに言った。
「久しぶりだな光ハヤト!!!! またこうやって会えるのを楽しみにしてたぜ!!!!」
「……………ったく。お前はトコトン俺を怒らせたいみたいだな」
ハヤトは顔に青筋を浮かべつつ、2本の日本刀をベルトから引き抜き、ケヴィンの方へと投げた。
「えっ!? ハヤト!?」
驚きの声を上げながら、ケヴィンは慌ててハヤトの武器である、2本の日本刀をキャッチした。
「おいどうしたんだ!? いったいなにしようっていうんだ!?」
ハヤトとジェイドの因縁を、ケヴィンは知らなかった。
なのでケヴィンは日本刀を持ったまま、ただただ戸惑うばかり。
とそんなケヴィンなどお構い無しに、ハヤトが先にジェイドに仕掛けた。
一瞬にしてハヤトはジェイドの右腕へと移動し、ジェイドが抱えているカルマを取り返そうと、
カルマの手を掴み、思いっきり引っ張ろうとして――――
「「えっ!?」」
急にカルマを抱えていたジェイドの右腕から、力が抜けた。
それが原因でカルマは、盛大にジェイドの腕から引っこ抜ける。
「うわっ!」
予想外のジェイドの行動に、ハヤトは一瞬バランスを崩しそうになったが、
瞬時に後方へと重心移動する事で、なんとかバランスが崩れるのを免れた。
「おお! スマンスマン!! ソイツを解放するのを忘れてたぜ!!」
ジェイドが口角を吊り上げ、不気味に笑う。
「!!? テメッ!!」
ハヤトはそんなジェイドを、怒りの形相で睨み付けた。
ジェイドに対して燃え上がる怒りの炎が、さらに激しく燃え上がる。
自分の親友をいいように利用し、さらには自分の両親を含め、
100名以上にも及ぶ、航空機事故で亡くなった人達が眠る、
このキャロラント島を荒らしたジェイドを、ハヤトは絶対に許せなかった。
湧き立つ怒りに任せ、ハヤトはジェイドに殴りかかろうと、1歩踏み出す。
もう、ハヤト自身にも止められなかった。
おそらくハヤトは、今度もジェイドを戦闘不能に追い込むまで、殴る事をやめないだろう。
だがそんなハヤトを、カルマはハヤトの右腕を掴み、止めた。
もう、ハヤトが誰かの十字架を背負いかけるのを、見たくないから。そして、
「スマン……ハヤト。誰だと思って窓に近付いたら、急にジェイドに拉致られた。
もう少し俺がしっかりしていれば、お前の両親が眠るこの島に、ジェイドが来なかったかもしれないのに」
ハヤトに対する、申し訳無い気持ちから。
するとそんなカルマに対し、ハヤトは一瞬戸惑いの表情を見せたが、そのすぐ後にフッと微笑んだ。
「お前はなにも悪くない。だからそんな顔するな」
そしてそう、気持ちを言葉にすると同時に、ハヤトの中から、ジェイドに対する怒りがほとんど消えた。
友人というのは、かけがえの無い、大きい存在だ。
傷付いた時に肩を貸してくれたり、心を包んでくれたり、
もし道を踏み外しそうになったら、全力でそれを止めてくれる。
ハヤトは今この瞬間、それを強く実感したのだ。
もしこの場に、カルマが来なかったら自分はどうしていただろう?
ふとそんな事を考えただけで、ゾッとする程に。
と同時にハヤトは、ジェイドに対し、微かな違和感を覚えた。
なんだろうと思い、ハヤトは冷静になった頭で、ゆっくりと考え……そして気付いた。
ジェイドが、いつものジェイドらしくない事に。
ジェイドは、人の友達を拉致するなんて事は、人として絶対にしないハズだ。なのになぜ?
ジェイドの行動に意識を集中しながら、ハヤトは今回のジェイドの来訪について考えた。
だが次の瞬間、ハヤトの反応速度を超える、思いもよらない事が起こった。
ジェイドがいつもの3倍のスピードで、ハヤトに近付いたのだ。
「「!!?」」
「なにゴチャゴチャ言ってんだ光ハヤトおおおおおぉぉぉぉおおおおおっっっっ!!!!!!!!?」
ジェイドの右拳が、ハヤトの腹に突き刺さ……ると思いきや、
ハヤトは瞬時にボクサーのディフェンスのポーズをとり、
ジェイドの拳を受け、さらに後方へと跳ぶ事で、ダメージを軽減する。
ジェイドの拳を受けた両腕がビリビリと痺れる。
さすがは宇宙一身体能力が高いアルガーノ星人だった。
後方へと跳んでも、地球人の大人のパンチを受けたのと、同等のダメージである。
「ぐうっ!」
「「ハヤト!!」」
アルガーノ星人の事をよく知っているカルマと、状況を理解できないケヴィンが、同時に叫ぶ。
ディーテ夫妻は、自分達の数m先で起こっているワケが分からない事態に、ただただ困惑した。
「ハハハハッ!!!! なんだぁ!!!!? 前より弱くなったんじゃないか!!!!?
光ハヤトおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおっっっっっっっ!!!!」
ジェイドは、またまた今まで以上のスピードでハヤトに近付き、連続でハヤトに拳を叩き付ける。
ハヤトは、その攻撃をなんとか受け流しながら、驚愕のあまり目を見開いた。
……バカな!? 【蛇霊縛呪病】にかからず、たった数ヶ月でこれ程の力を身に付けられるハズが無い!
アルガーノ星人は、宇宙一身体能力が高い民だ。
そして、身体能力のリミッターとも言うべき生理現象『筋肉痛』が無い民でもあった。
故に、時には命を落とすレヴェルまで力を使ってしまう事が、昔は多々あった。
なのでアルガーノ星人の先祖達はそれを防ごうと、身体能力のリミッターを手に入れようと進化し、
どういう因果か、『突発性他部位筋肉収縮病』または『蛇霊縛呪病』と呼ばれる生理現象を手に入れた。
なのに、今のジェイドにそれが起きている様子は微塵も感じられない。
ジェイドの攻撃に、ハヤトは徐々に追い詰められていく。
「なんだなんだなんだぁっ!!!!? もう終わりか光ハヤトおおおおぉぉぉぉおおおおっっっっ!!!!!?」
その時のジェイドの目は、まるで獣のようだった。
獲物を徐々に追い込んでいく事に、悦びを感じる、肉食動物の目。
いつものジェイドじゃない。ハヤトはすぐに感じた。
ジェイド、お前の身にいったいなにがあったんだ? こんなの、お前じゃないだろ?
戦いの最中、ハヤトは思った。そして次の瞬間、
ドッ
ハヤトの腹に、ジェイドの拳が突き刺さった。




