ジェイドの焦り
6月17日(金) 午後18時46分
惑星リベルア シャナック国 貧民街
「あ゛あ゛? だぁれのおかげでこの区域で商売できると思ってんだ?」
シャナック国の貧民街を支配している不良グループ『レヴァルタス』のリーダーであるリュービッヒ=ベルズが、
自分とその部下が昼食を食べる為に入店した、シャナック料理を出す、
小さい飲食店の店主である老人に向かって、目をギラつかせながら尋ねた。
すると老人は、リュービッヒの前で土下座をしつつ言った。
「すみません! ですが、さすがに『食事代をタダにしろ』という注文は……!」
「ちゅーもん? ハッ! 違ぇよ! 『命令』だっつーの!」
要求を聞き入れない事に腹を立て、リュービッヒが老人を足蹴にし、狂気に満ちた笑みを浮かべる。
すると店の奥から、突然1人の女の子が駆けて来た。
「ジーちゃんをイジめるな、このヤロウ!」
髪をボブカットにした、10歳くらいのボーイッシュな少女だ。
その少女が、無謀にも、自分よりも背の高いリュービッヒに殴りかかろうとする。
だが瞬時にリュービッヒの部下に捕まり、身動きが取れなくなる。
「カリン! そ……その子は……どうか……離しt――――」
「アンタの孫? ふぅん。なかなかキレイな子じゃないか……」
老人の言葉を無視し、リュービッヒが老人の孫であるカリンを、ジロジロと舐め回すように観察する。
するとすぐに、リュービッヒはなにかを思いついたのか、両手を1回叩き、
「そうだ。代金をタダにできないなら、代わりにその子を貰っちゃおう」
「!? ま……待ってくれ! その子だけは……」
リュービッヒに対する恐怖で声が震えながらも、老人は必死にリュービッヒに訴えようとした。
だが、リュービッヒはその言葉を無視し、部下にカリンを連れて来るよう指示を出し、
そのまま店から出ようとした、まさにその瞬間だった。
ガラッ
店の中に、ボサボサ頭の、まるで野生児のような少年が入って来た。
「あ゛!? どういう状況だこりゃ!?」
少年が、店の中を見回しながら首を傾げた。
「そりゃこっちの台詞だガキ。っていうかテメェ、ナメたクチきぃてんじゃn――――」
自分達以外の客の突然の登場に、リュービッヒは一瞬、唖然としたが、
すぐに少年に向かって、部下達に威厳を示す為にも、ガンを飛ばす……のだが、
不思議な事に、次の瞬間、リュービッヒの体は店の外にあった。
瞬間移動による移動でも、玄関から普通に出た事による移動ではない。
店の壁をぶち抜き、外に吹っ飛んだのだ。
店に入って来た少年、〝ジェイド〟の強烈な右ストレートをくらった事によって。
リュービッヒの部下達は、自分達のリーダーをぶっ飛ばしたジェイドを見て、アングリと口を開けた。
「……ったくよぉ……旅立つ為の金以外の手持ちの金じゃ、
この店くらいしかメシ食える所がねぇんだからよぉ……メンドい事起こしてんじゃねぇよ!!」
ジェイドが、他の『レヴァルタス』メンバーをギロリと睨み付ける。
それを見て、『レヴァルタス』のメンバーは全員、慌てて戦闘体勢に入った。
同時に、カリンが無事に『レヴァルタス』メンバーの手から開放された。
と、それに気付いているのかいないのか、ジェイドはすぐさま、『レヴァルタス』メンバーと戦い始めた。
数分後
飲食店の店先に、気絶した『レヴァルタス』のメンバー達が積み重なった事によって山ができた。
そして店の壁には、『レヴァルタス』の人数分の穴が。
「……あ……ありがとうございます! それとすみません! お客様にこんな事をさせて!」
店の店主である老人が、ジェイドに土下座でお礼を言う。
もう癖として定着してしまったのだろうか?
「あ~~……土下座はいいからよ……とりあえずこの金で食えるモン、出してくんね?」
そう言って、ジェイドはテーブルの上に数枚のコインを出す。
店主である老人が、『壁の修理代も払え』とか言ってくるのではないかと、わずかながら心配しながら。
だが、その心配は無用だった。
老人は、『レヴァルタス』が全滅してせいせいしたのか、
ジェイドが『レヴァルタス』との交戦で作った、店の壁の穴については、なにも言ってこなかった。
「……分かりました」
そう言って老人は、リュービッヒに蹴られた体の部位をさすりながら、厨房に入った。
「おいおい、ジィさん大丈夫か!?」
ジェイドは慌てて老人に声をかける。壁の穴の事も含めて。
だが老人は陽気な声で、
「ハッハッハッ! もう何年も蹴られているから、慣れちったよ!」
……慣れるモンなのか、そういうのって? っていうか壁の穴については……お咎めナシ?
ジェイドは少し疑問に思ったが、先程の『レヴァルタス』とのバトルのせいもあり、かなり空腹なワケで、
「くっそ……もうなにも考えられねぇや」
ジェイドはそのまま力尽き、テーブルに突っ伏した。
すると同時に、店主の孫であるカリンが、ジェイドが座る椅子と反対側の椅子に座り、
「お兄ちゃん、凄い強いね! 私、お兄ちゃん好きになっちゃいそう!」
尊敬の眼差しを、ジェイドに向けてくる。
しかしジェイドは、1度深い溜め息をつくと、無気力な表情でカリンに告げた。
「……強くねぇよ。俺は」
「??」
「……俺は……仲間の1人を……闇から救えなかったんだ。そんな俺が……強いワケねぇよ」
食事を終えると、ジェイドはすぐさま、シャナック国の都市部へと向かった。
そもそも、なんでジェイドがこの星に居るかというと、
【『リベルア』でいくつかの不良グループ達が抗争を始めている。】
という情報を最初の修行先で手に入れた為だ。
ジェイドは強さを求めていた。ある目的の為に。
だからジェイドは、強くなる為だけに『リベルア』に向かい、自分もその抗争に飛び入りで参加した。
だが、思ったより不良達が弱く、抗争を早く止めてしまった。
「クソッ!! 早くもっと……ハヤトよりも……アイツを止められるくらい強くならないと」
ジェイドは焦っていた。
このまま、もっと強くなる為の〝ナニか〟を掴めなければ、
いつかとんでもない事が起こってしまうかもしれないから。
「……クソッ……どうして俺は……こんなにも弱いんだ?」
歩きながら、ジェイドはポツリと呟いた。
とその時だった。
「なら、コレを試してみませんか? 【戦王】殿?」
突然ジェイドの背後から、何者かの声が聞こえた。
同時に、ジェイドは歩みを止め、後ろを振り返る。
「……誰だ、テメェ?」
ジェイドが、目の前に居る人物に尋ねた。
するとソイツは、ニヤリと口角を吊り上げ、
「強さを求める者に、強さを与える者でございますよ。惑星アルガーノの【戦王】殿」
6月21日(火) 午前9時32分
太平洋 アメリカ海域
「……2年ぶりだな。墓参りなんて」
炎天下の中、ハワイ諸島から少し離れた所にある島、
『キャロラント島』へと向かう船の甲板で、
喪服姿のハヤトは、寂しそうな目で海を眺めながら、呟いた。
【キャロラント島】
総面積9.4平方km。
豊かな森が広がり、白い砂浜と、青い海に囲まれた無人島であり、
あの忌まわしい航空事故により、ハヤトと、ハルカという人物だけが生き残ってしまった場所。




