帰ってきた仲間
6月18日(土) 午後17時40分
「え~~と……とりあえず……ギンが無事にアメリカから帰って来た事と、
『星川町宇宙クイズ大会』が無事に成功した事を祝して……乾杯!」
ハヤトの呼びかけに対し、その場に居る者達が『乾杯!』と答える。
「……で、ハヤト君。どうして俺の家でパーティーを?」
呼びかけの直後、亜貴が苦笑いをしながら、ハヤトに尋ねた。
ここは、亜貴達の家の居間。
タタミ8畳分の広さで、中央に木製のテーブルとイスが置かれ、
部屋の南側には、地球の放送だけではなく、地球外の放送も受信する薄型TVと、
それを見る為に置かれたソファがある、普通の居間。
だが今は、ハヤト主催のパーティー会場と化していた。
亜貴の問いに対し、ハヤトもまた苦笑いを浮かべながら、
「すみません亜貴さん。パーティーをやるからには、大人の監督が必要だと思って……」
今、亜貴の家には、家の住人である亜貴、ランス、エイミーを除いて4人の人間が居た。
ハヤト、かなえ、カルマ、そしてギンいう、ギャル男みたいな髪型をした〝美〟少年。
ちなみにルナーラは、明日からの仕事の為に、先程、自分の家がある星へと帰って行った。
「……いや……別に謝んなくても……その通りだし。まぁ、ランス達も喜んでるみたいだし……さ」
そう言って亜貴は、ランスとエイミーの方を見る。
視線の先で、ランスはカルマと、エイミーはかなえと、満面の笑みでなにか会話をしている。
「それに……」
次に亜貴は、テーブルの上に並べられたあるモノを見つめ、
「今回のパーティーで食べられるのは、優勝の賞品である〝霜降レオルト肉〟の焼肉だしな」
【レオルト】
それは、無人惑星『シャオローン』に生息する生物。
以前、星川町に侵入した異星獣・バスターウォルフの餌でもある雑食異星獣。
その霜降肉は、宇宙の料理界の『食肉値段ランキング』の上位にランクインする程の高級食肉。
ちなみに食感、味は豚肉に近い。
乾杯の前に、まずはギンの紹介をすべきだったかな、
と思いつつ、ハヤトは、自分の右隣に立つギンを紹介した。
「じゃあ……早速紹介するよ、皆。コイツは俺の、この町に来た時からの親友で、
【星川町揉め事相談所】の副所長でもある、ギンこと――――」
「白鳥銀一や。お初やで、皆さん。ハヤトと同じように、ワイの事はギンとでも呼んでくれ」
ギンは陽気に、関西弁で皆に自己紹介をした。
するとかなえ、カルマ、亜貴の3人が、同時に目を丸くし、驚きの声を上げた。
「「「なっ!? 副所長!?」」」
今の今まで3人は、副所長などという人が、【星川町揉め事相談所】には存在しないモノだと思っていた。
机こそ、所員数人分は相談所に置いてあるものの、ハヤト以外の人間が居た痕跡が、なぜか一切無いのだ。
勿論、〝ハルカ〟という、謎の人物の形跡も。
だから3人がそう思っても、仕方がなかった。
「……俺の名前は不動カルマ。ハヤトの、小学校の時からの親友だ」
ギンの自己紹介に応えるように、最初にカルマが、ギンに自己紹介をした。
「カルマ君か。これからよろしゅ~な!」
カルマの自己紹介が終わると、今度は亜貴が、自分と、ランスとエイミーを紹介した。
「俺の名前は椎名亜貴。この子達の保護者をやってる」
そう言って、亜貴はランスとエイミーに目配せした。
するとランスとエイミーも、ギンに対し、簡単に自己紹介をした。
「はじめまして! 惑星アルガーノから来たランスです!」
「妹のエイミーです!」
「へぇ。そ~なんや……ってアルガーノ星人!? 亜貴はん大丈夫なん!? いろいろ!」
アルガーノ星人は宇宙一身体能力が高い民である。
なのでギンが心配するのも、ムリもなかった。
とそんな質問に対し、亜貴は笑って、
「ハハッ! もう慣れたよ。心配してくれてありがと、ギン君」
「そ……そか。ならよかったで」
そして最後に、かなえは自己紹介をする対象であるギンを、相変わらず睨みながら、
「……天宮かなえよ。よろしく」
「ふ~~ん。かなえちゃんか……まぁ――――」
自分が喋っている途中、ギンはなぜか、一瞬でかなえの背後に回り込んだ。
「「「「「!!?」」」」」
ハヤト以外の、その場に居た全員が、ギンの超スピードに目を見張る。
「!!? ヤバッ!!」
ハヤトは、ギンがなにをしようとしているのかすぐに気付き、
かなえの背後に居るギンを突き飛ばそうと動いた。
だが、一瞬遅かった。
「――――これからもよろしゅ~~な~~!!」
そう言うと同時、ギンは両手でかなえの胸を揉んだ。
「「「「「!!!!!!?」」」」」
その場に居る全員(ハヤト以外)が、また目を見張った。
「う~~ん……惜しい! 惜しいで!? ギリギリAカップや!」
かなえの胸を揉みながら、ギンはさも自分の事のように悔しがる。
「な……なにすんのよこの……セクハラ男!!!!」
かなえは顔を赤らめながら、後ろ向きでギンに頭突きをくらわせようとした。
だが、かなえの反撃を予想していたのか、ギンはすぐにかなえから離れ、頭突きを回避する。
「ナハハ~~! ワイはそう簡単にはやられへんで~~!?」
かなえの頭突きをかわして調子に乗っているのか、
ギンは笑いながら、かなえからさらに離れようとした。
だがその時、ギンの左側からハヤトが迫り、
「おいギン。いい加減所員へのセクハラ行為はやめろって言ったよな?」
まるで鬼のような形相で、ギンを睨み付ける。
するとギンは、メチャムチャ慌てながら、
「……いや、ほんの挨拶やで、ハヤト? スキンシップってヤツや? 分かるやろ? なっ!?」
ハヤトに言い訳を始めた。
「……な……なんなのコイツ……?」
かなえは、コロコロ変わるギンのキャラを見て、思わず呟いた。
午後18時35分
「いやぁ~~この町は相変わらずおもろいな、ハヤト?」
帰り道。ギンは隣を歩くハヤトに、満面の笑みを浮かべながら言った。
数ヶ月ぶりに、自分の住む町『星川町』に戻ってこられて、ギンは嬉しくてテンションが上がっているのだ。
「新しい住人も増えて! 興味深い仲間もできて! 帰って来て、ホンマよかったで」
「……そうか。よかった」
それを聞いてハヤトは、ホッとした表情でそう呟く。
「ん? どないしたん、ハヤト?」
なぜか気になったので、ギンはハヤトに尋ねる。
するとハヤトは、ニッと笑いながら、
「いろいろ変わってて、戸惑うかと思った」
「ナハハッ! 戸惑う言うたらアメリカに渡った時の方が戸惑ったで!?」
「へぇ? 戸惑ったって、例えば?」
興味津々な目で、ハヤトはギンに尋ねた。
「アメリカのハンバーガーショップで出る飲み物のMサイズって、
日本でいうLサイズ並みの大きさなんやで!!?」
「……………ギン、それ一般常識だぞ?」
「な……なにぃ!? そーなん!?」
それからしばらく、そんな他愛もない会話を、2人は続けた。
数分後
話のネタがほとんど尽きた頃、ギンはハヤトに、真剣な面持ちで尋ねた。
「……そういや、まだ〝ハルカ〟ちゃんは見つからへんのか?」
するとハヤトは、なにも言わず、首を縦に振った。
「そうか。まぁ、宇宙は広いんや。半径137億光年……やったかな?
とにかくメチャクチャ広いんや! まだ未確認の有人惑星があるかもしれへんし、元気出しぃやハヤト!」
「……ありがとう。でも大丈夫だ、ギン。俺はハルカが、この宇宙のどこかで
まだ生きてるって、なんとなく感じるんだ。だから……大丈夫だ」
「……そっか」
フッと笑いながら、ギンはホッとした表情でハヤトを見つめ……ある事を思い出した。
「そういや、もうすぐお前の両親の命日やな」
「……ああ。そういえばそうだな。町の事で忙しくて、行く暇が全然無かったから、今まで忘れてた」
「えっ!? ウソやろ!? 今まで墓参り行ってなかったんか!?」
ギンは、目を丸くしてハヤトに尋ねた。
するとハヤトは、ギンから目を逸らし、
「ああ。まぁ……な」
「アカンでハヤト! 今度はちゃんと行くんやで!? ええな!?」
今度はギンが鬼のような表情をして、ハヤトに顔を近付け、言った。
「……ああ。分かってるよ。ってか顔近いって」
ハヤトは自分の顔の前で両手を広げ、鬱陶しそうな顔で言葉を返した。