『死神仮面』の正体
「では第1問!!」
それぞれのチームの紹介などを終え、町長が大声で、
自分の目の前にある台にあらかじめ乗せておいた、問題文が書かれた紙を読み上げる。
「日本で1番高い山は富士山。では日本で1番長い川はなに川?」
……………えっ?
かなえの目が点になった。
な……なんだったっけ!? 問題自体はどっかで聞いた事があるんだけど……。
答えが思い出せず、かなえはその場で頭を抱えた。
とその時、どこかのチームが、自分達が使う机の上に設置してある、音が出るボタンを押し、答えた。
「『信濃川』!」
答えを聞いた瞬間かなえは、しまった、と思った。
そして、
「正解~~!! 『入院患者チーム』1ポイント~~!!」
町長のその言葉に、『入院患者チーム』全員が、まだ1問目だというのに、歓声を上げる。
クソッ! もう少し早く答えを思い出していれば……!
かなえは心の中で歯軋りした。
だがそんなかなえとは違い、他のチームメイトは、
「惜しかったな、事務所員」
「惜しかったですね、お姉様」
まるで他人事かのような台詞を、かなえに言ってきた。
「って、アンタ達も少しは考えなさい!!」
かなえはすぐさま、2人にツッコミを入れた。
続いて、町長が2問目の問題文を読み上げる。
「第2問! 始祖鳥の学名は、なに?」
……………え? え?? ええ??
その場に居るほとんどの人が、頭を抱えた。
だが1人だけ、すぐにこの問題の答えを導き出した者が居た。
その者が、音が出るボタンを押し、答える。
「『Archaeopteryx』!」
「……せ……正解!」
次の瞬間、観客席の方から、歓声が上がった。
まさか、彼の口からそんな難しい答えが出るとは、誰もが、思っていなかったのだ。
そしてその、難しい答えを言い当てたのは――――
――――カルマだった。
「す……凄ぇよカルマ兄ちゃん!!」
チームメイトのランスが、尊敬の眼差しでカルマを見つめる。
「お前、小学生の時から成績よかったけど、まさかこんな難しい問題を解けるくらい頭がよかったとは……」
同じくチームメイトであるハヤトも、驚きを隠せなかった。
とそんな2人の台詞に酔ったのか、カルマは右手の人差し指で自分のメガネの位置を整え、
「フッ……難しすぎる問題は任せたまえ」
と得意気に言ってきた。
……カルマって……どんだけ頭いいのよ……?
目を丸くし、冷や汗をかきながら、かなえは思う。
中学校では、勉学限定で好成績を収める秀才・カルマ。
そのカルマが『大昔の生き物の学名を答えよ』という、
中学校でも出ないような超難問を解くなど、かなえには信じられなかった。
まさかアイツ……そのテのマニア?
そうとしか、思えなかった。
……強敵ね……こっちも負けてられないわ。
かなえの、ハヤトに対する借金を減らせるかどうか、この大会に懸かっているのだ。
強敵が現れたからといって、引き下がるワケにはいかない。
「2人共!! まだ2問目よ!! まだまだ逆転できるわ!!」
かなえは再度気を引き締め、まるで喝でも入れるかのように、
ルナーラと『謎の死神仮面』に、大声でそう言った。
「続いて第3問! クジラは英語でホエール。ではマグロは英語でなに?」
この問題の答えは、かなえはすぐに分かった。
瞬時にかなえは、音が出るボタンを押そうとする。
だが一瞬、遅かった。
「『ツナ』!!」
「正解! 『女子チーム』1ポイント~~!!」
優、ユンファ、リュンの『女子チーム』に先を越された。
「すまへんなぁ、かなえちん」
リュンが不敵な笑みを浮かべ、言う。
「ごめんね。この大会が、4人1チームでの出場OKなら誘ったんだけど……」
優が『ゴメンね』のポーズをとり、苦笑いを浮かべながら、かなえにウインクした。
「優勝は私達がいただくぜよ!」
ユンファが、歯をキラッと輝かせ、言った。
……ムムム……なかなかやるな。
自分の友達に対し、そう思ったのも束の間。
かなえは、未だ自分達のチームの得点が0ポイントである事を思い出す。
さすがに、このままだとマズイかもしれない。
『婦人会チーム』も同じく0ポイントではあるが、いつ先に点を入れられるか分からない。
「……2人共……いい加減、本気出そうよ?」
かなえは、まだ本気を出しきっていないチームメイト2人に対する怒りと、
未だ自分の居るチームが0ポイントである事への悔しさを込め、2人に言った。
すると2人は体を強張らせ、
「お……おう……わ……分かった」
「が……がが……頑張りますわお姉様」
かなえの〝ナニか〟に怯え、冷や汗をかきつつ、そう返事をした。
「続いて第4問! 宇宙にある星間物質の内、自力で光っていないか、光を反射しない為に、
光学的には観測できないとされる、仮説上の物質はなに?」
んんんっ!? なに!? またワケが分からない問題出た!!
かなえは必死になって、自分の頭の中にある知識を結集させ、答えを考えた。
だが、全く答えが出てこない。
そろそろ1問正解しなきゃマズイっていうのに……!
焦りが募り、それが逆に、かなえの思考を阻害する。
「お姉様、始祖鳥の問題といい今の問題といい、ちょっとレヴェルが高過ぎませんか!?」
ルナーラが、町長をキッと睨みながら、かなえに尋ねる。
……同感だけど、今は問題の答えに集中して!!
ルナーラの、問題の答えには通じない質問のせいで、
集中力が削がれたかなえは、ルナーラに対し、心の中で怒った……とその時だ。
チームメイトである『謎の死神仮面』が、音が出るボタンを、目にも留まらぬ速さで押し、答えた。
「『ダークマター』!」
「正解!! 『女子×謎×謎チーム』1ポイント~~!!」
次の瞬間、また観客席から歓声が上がった。
かなえは、ようやく1ポイント獲得できた事、
そしてチームメイトが本気を出し始めてくれた事を、とても嬉しく思った。
「ククク……だから言っただろう? 私は、宇宙に関する大抵の知識を持つ者だとな」
『謎の死神仮面』が、不気味に笑いながら、かなえに言った。
その瞬間、かなえは最初から本気を出さなかった『謎の死神仮面』の行動に対し怒りを覚えた。
「……それは分かったけど……だったら最初から本気出しなさいよ!」
すぐさま自分の右手を広げ、指を揃え、『謎の死神仮面』の胸を狙ってどついた。
すると、『謎の死神仮面』の口から、
「!? おおっ! ナイスツッコミやで!」
などという、今までの『謎の死神仮面』のキャラを崩すような台詞が出てきた。
……んん? やで?
かなえ、そしてルナーラはその事に対し、首を傾げた。
……………あの死神仮面……まさか〝アイツ〟か?
『男子チーム』の1人であるハヤトが、今にも音が出るボタンを押そうとしているポーズのまま、
かなえが居る『女子×謎×謎チーム』を見ながら、思った。
俺がボタンを押そうとしたまさにその瞬間、あの死神仮面はボタンを押した。
という事は、少なくともあの死神仮面は、俺と同レヴェルの知識を持ち合わせている……
そしてさっきの〝関西弁〟……なるほど。〝アイツ〟の登場は、俺へのサプライズかよ、〝町長〟?
ハヤトは町長を視界の隅に捉え、ニッと微笑んだ。
数時間後
ついに問題も、残り1問となった。
「さぁついにこの問題で最後だ! ちなみに現在得点は、
『女子×謎×謎チーム』は18ポイント、
『男子チーム』も同じく18ポイント、
『女子チーム』は16ポイント、
『入院患者チーム』は17ポイント、
『婦人会チーム』も同じく17ポイントと、
どのチームも全くヒケを取っていない! だが、泣いても笑ってもこの問題で最後!
一気に5ポイント獲得できるボーナスクイズでもある最終問題!」
一気に5ポイント獲得できる。
それはすなわち、今現在最下位である『女子チーム』が逆転できる可能性があるという事。
だがかなえは、問題文が町長の口から出ようとする刹那――――
ルナーラも積極的に問題に答えてくれるし、
『謎の死神仮面』も本気出してくれてるし……絶対イケる!
このまま最終問題も正解して、優勝してやる!
――――優勝は自分達のチームだと、確信していた。
「コレ、なんと読む?」
町長は1枚のボードを、自分の目の前にある机の引き出しから取り出す。
そしてそのボードには、こんな文字が書かれていた。
【π】
んんんっ!!?
見た事がある文字ではあった。だがかなえは思い出せず、また頭を抱えた。
だがその時、『謎の死神仮面』がすぐさま音が出るボタンを押した。
やったぁ!! これで優勝!!
かなえは、思わず口角を吊り上げつつ、ニヤリと笑っ――――
「『オッパイ』や~~~~!!!!」
――――その場に居るほとんどの人が凍り付いた。
『謎の死神仮面』の回答が、星川町を取り囲んでいる森の木々や山に反響し、何度かエコーした。
だが、そんな中で町長は、
「う~~ん……惜しい! 『女子×謎×謎チーム』お手つき! 1回休み!」
冷静に、回答に対する返事を言った。
……………って惜しいの!?
いったいどんな答えだったのか、かなえは自分の中で想像しようとする。
だが、思い浮かぶのは女性の胸元ばかり。『謎の死神仮面』のせいだ。
「し……しもたぁ~~!! 思わず下ネタで問題を答えてもうた~~!!」
『謎の死神仮面』が頭を抱え、絶叫した。
っておいっ! なんで下ネタで……っていうかなんで関西弁!?
かなえはすぐに『謎の死神仮面』にそうツッコミを入れようとした。
だがその前に、ハヤトが溜め息をつきながら、音が出るボタンを押し、答えた。
「……『パイ』」
「正解!! 『男子チーム』の優勝だああああぁぁぁあああっっっ!!」
次の瞬間。観客席の方から、今まで以上に大きな歓声が起こった。
そんな中、ハヤトは『謎の死神仮面』に向かって、頭をかきながら言った。
「まったく。こんな事しなくても、普通に相談所に顔出せばいいだろ?」
すると『謎の死神仮面』は、仮面を顔から外しつつ、
「いや、どうせならお前を思いっきり驚かしたろうと思ったんやけど……失敗やろか?」
「……………いや、十分驚いたよ。それと……おかえり、〝ギン〟」
「おうっ! ただいま!」
ギンは、ニッと笑って答えた。