クイズと出場理由
6月18日(土) 午後13時
星川公園 広場
「『第2回 星川町宇宙クイズ大会』!! はっじま~るよ~~!!」
広場の中央に設置された、TV番組で出てくる『司会者が使う直方体の台』の横で、
星川町の町長であるジョン=バベリック=シルフィールは、
満面の笑顔で、マイク越しに、その場に居る全員に向けて言った。
今日は町内会が開催する、町の行事の1つである
『星川町宇宙クイズ大会』の開催日だった。
『星川町宇宙クイズ大会』
それは〝ある団体〟が、地球に移住した異星人達がどれだけ地球に馴染んだか、
それを知る為に、最初、試験的に開催された星川町の行事。
しかし、大会が町の住人にとても好評だった為、
今では(と言ってもまだ2回目だが)すっかり町の行事の1つとなったのだ。
町長の使う台の横には、クイズ大会でよく見かける大きめの机と、
学校の椅子と同じくらいの大きさの椅子があった。
ちなみに、机1台につき椅子は3脚。3人1組のチーム戦のようだ。
クイズ大会に出場するチームの1人として、3つある椅子の内、
真ん中の椅子に座っているかなえは、今日初めて見た町長に対し、思った。
が……外国人!? ってか、背ぇ高っ!!
かなえは、目を見開く程驚いた。
星川町の町長の容姿が、想像してたのとあまりにも違ったのだから。
「お姉様、この町の町長を今まで見た事が無かったの?」
かなえと同じチームで、かなえの左隣の椅子に座る、
ソフト帽をかぶり、サングラスをかけた少女、ルナーラ=エールが、かなえに尋ねる。
「うん。全然見た事無い」
町長を一瞥し、かなえはルナーラにそう答えた。
すると、かなえの右隣から、
「ククク。町民のくせに町長の顔を知らないなんて、前代未聞だな」
そう言うのは、アメリカのハロウィンで着られたりする
『死神』の衣装の仮面だけをかぶった、謎のチームメイト。
ちなみに、かなえもルナーラも、この人物の顔を知らない。
そもそも、これはいったいどういう状況なのか?
少し、時間を遡ってみよう。
6月17日(金) 午後17時2分
「はぁ……いつまでタダ働き続くんだろ?」
放課後。【星川町揉め事相談所】に向かう途中、かなえは大きな溜め息をつき、呟いた。
正直かなえは、【星川町揉め事相談所】の仕事を辞めたくて辞めたくて辞めたくて仕方がなかった。
なぜそこまで、かなえが【星川町揉め事相談所】を辞めたいのか。
それは、町が平和なおかげで相談がほとんど無いにもかかわらず、会計の仕事が全く終わらないから。
そして、【星川町揉め事相談所】の存在自体が謎であるからだ。
いつだったか、かなえはハヤトに『なぜ会計の仕事が終わらないのか?』と尋ねた事があった。
するとハヤトは、キョトンとしたまま、
『なぜって……この町だけじゃないからな。異星人関係の仕事で動いてるヤツが居るのは』
『……どういう事?』
『そりゃあ、俺が所属する〝団体〟は――――』
『団体?』
なんの事なのか分からず、かなえは眉をひそめた。
『……っと、これ以上はお前にも話せないな。深入りする勇気があるなら別だけど』
ハヤトは、バスターウォルフを退治した日に見せた不敵な笑みを、また浮かべた。
「……………深入り……か」
正直、かなえは怖かった。ハヤトが所属するという、得体の知らない謎の団体が。
だから、辞めたいと思った。
でも、もし途中で辞めると、自分が右手にはめている、
『異能力リミッター』の代金50万を払う方法が無くなってしまう。
自分が異能力者だという事をお母さんとお父さんに話して、代わりに払ってもらう?
でも、お母さんとお父さん……私を……今までと同じ目で、見てくれるのかな?
かなえは、心臓が潰れるのでは、と思うくらい、猛烈な不安に駆られた。
とその時、かなえは近くの電柱に貼られているあるポスターに、なぜか目を奪われた。
「……ん? なんだコレ?」
なんだろうと思い、かなえはポスターの貼られた電柱に近付き、ポスターをじっくりと見つめた。
どうやら、星川町の行事の開催をお知らせするポスターのようだ。
ポスターには、こう書いてある。
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今年も開催! 『星川町宇宙クイズ大会』!
去年、大成功に終わった『星川町宇宙クイズ大会』を、今年もやっちゃうゾ!
ちなみに、今年は3人で1チームの団体戦。
ただしチームメイトの内、必ず1人か2人は異星人である事。
町民じゃない人も飛び入り参加OK!
出場したい人は、星川町の公民館のポストに、
共に出場する人と自分の名前を書いた紙を入れといてくれ!
ちなみに今年の賞品は……まだ秘密!
でも価値あるモノである事は間違いなし!
開催日時:6月18日 13時
場 所:星川公園 広場
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「……価値あるモノ……《仲間との友情》……とかってオチじゃないよね?」
かなえは、口ではそう言ったが、心の中では、
でももし《物》なら、それを売って少しはハヤトへの借金を帳消しにできるかも!?
女の子とは思えない考えを、ウットリしながら巡らせていた。
するとその時、かなえは後ろから声をかけられた。
「お……お姉様……なんでウットリ顔してるんですか?」
その声を聞いた途端、かなえはハッと我に返った。
そして、すぐに声のした後方を振り返る。
数m後方に、ウットリした顔つきのかなえを、
不思議そうな顔で見ている、銀河アイドルのルナーラ=エールが居た。
「えっ!? 私そんな顔してた!? っていうかアンタ、仕事どうしたの!?」
慌ててウットリした顔から、真剣な顔へと表情を変えると、かなえはルナーラに尋ねた。
するとルナーラはパアッと顔を輝かせ、
「実はアタシ、お姉様に惑星ジ=アースを案内してもらおうと思って、今日から2日間の休暇を貰ったの!」
そう言うと今度は、顔を真っ赤にしながら、
「べ……別にお姉様に会いたいから……休みを貰ったワケじゃないんだからね!」
この瞬間、かなえはふと思った。
【オルプス】まだ抜けきっていないのかな? 同性の私にツンデレるなんて。
かなえは深く溜め息をつきながら、ルナーラを見つめた。
とその時だった。
「へぇ。ツンデレアイドルってのも、なかなかえ……いいモンだな」
どこからか、声が聞こえてきた。
「えっ!? だ……誰!?」
かなえは慌てて辺りを見渡し、そして――――見た。
アメリカで、ハロウィンで着られたりする『死神』の衣装の、
仮面だけをかぶった謎の人物が、近くの家のブロック塀の上に立っているのを。
見るからに怪しいので、かなえはルナーラを護るように、1歩前に出た。
「だ……誰アンタ!?」
「ククク。今は『謎の死神仮面』とでも名乗っておこうか?」
そう言うとソイツは、ブロック塀から飛び降り、かなえの顔をジロジロと眺め、
「お前、さっきからこの町の行事の事を気にかけてるみたいだな。もしかしてだが、賞品目当て?」
「!? だ……だったらなに!? アンタには関係無いでしょ!?」
そう言いつつ、かなえはソイツを観察した。
聞いた事が無い声だった。
少なくとも、『ハヤト』や『カルマ』や『かなえの女友達』、この前来た『謎のセクハラ男』じゃない。
「そんな警戒しなくてもいい。私は、この宇宙に関する大抵の知識を持つ者。
この町に来た目的……それは、お前が気にしているこの町の行事『宇宙クイズ大会』に出る為だ!」
「えっ!?」
「おおそうだ。せっかくだから、この3人で出てみないか?
宇宙についての知識を持つ私が居れば、チームの優勝は確実だ」
6月18日(土)
昨日そんな事があり、今に至る。
「頑張りましょうね、お姉様!」
正体を隠したルナーラが、かなえに言った。
ちなみに、昨日ルナーラはかなえの家に泊まった。
『謎の死神仮面』はどうしたかは知らない。
「ククク。足を引っ張るなよご両人」
「誰がご両人よ!」
「まぁ……ご両人なんて、感激です!」
「アンタは黙ってて! 話がややこしくなる!」
そう言うとかなえは、自分達以外の、他のチームを改めて確認した。
かなえ達のチームを入れて、クイズ大会に参加するチームは以下の通り。
・かなえ×ルナーラ×『謎の死神仮面』の『女子&謎&謎チーム』
・ハヤト×カルマ×ランスの『男子チーム』
・優×リュン×ユンファの『女子チーム』
・『病院患者チーム』
・『婦人会チーム』
次回、負けられない戦いが始まる!!