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刑事と病院と

午後12時32分

とある宇宙船内


「もっと急いで!! ライブに遅れちゃうわ!!」

宇宙船のパイロットに向かって、ルナーラは大声で指示を出した。

「りょ……了解です」

宇宙船のパイロットは、小声でルナーラに返事をした。


ルナーラ=エールは焦っていた。

今日、地球から1番近い有人惑星でライブを(おこな)う為、

本番前のちょっとの時間くらい、星川町の『中華飯店【王龍】』に寄っても大丈夫だろう、

と思っていたのだが、思った以上に長居してしまったのだ。

「うう……ジャーマネに追及されたら、どう答えよう?」



午後12時57分

星川町 天宮宅


「ふぅ。やっ……と終わった」

一通り巡回を終え、かなえはフラフラになりながらも、いったん家に戻った。

かなえは疲労しきっていた。

別にこの町が広い、というワケではなく、星川町があるのが、某県の森の中である為、

地面が整備されていない所があったりするので、足が疲れるのだ。


それに、

「あの人……いったい誰なんだろ?」

『明星食堂』で出会った、謎の男。

見覚えがあるハズなのだが、どこで出会ったのか、全く思い出せない、謎の男。

それをムリに思い出そうとしながら巡回をしていた為、

無意識の内に足に負担をかけた、というのもあった。


帰ったらとりあえず横になろう。そして、あの男の事を思い出そう。

そう思い、家に帰ったのだが、

「あっ! かなえお姉ちゃん! ちょうどいいところに帰って来た!」

友達の家に居るハズのエイミーが、天宮宅のリビングから、かなえに声をかけてきた。

「……えっ? エイミーちゃん? 友達の家に居たんじゃ?」

「そうなんだけど、皆これからジュクだって」

ああ、なるほど。

かなえは瞬時に納得した。


「ところで、ちょうどいいところって?」

かなえは、さっきエイミーが言っていた事をについて気になり、尋ねた。

するとエイミーは両目を輝かせ、

「今からTVでルナーラちゃんが歌うの!」

「ルナーラが……歌う?」

先程ルナーラに会った時、ルナーラが言っていた事を、かなえはふと思い出す。

『アタシがこの町に来た事は、ジャーマネには絶対内緒よ! いいわね!?』

なるほど。ライブ前に、マネージャーに黙って、こっそりこの町に現れたってワケか。



午後13時

某惑星 ライブ会場


「皆!! 今日も私のライブに来てくれてありがとう!!」

マイク越しに、ルナーラは大声で、会場に居るファンの皆に挨拶をした。

すると、会場のファン達の1部が、タイミングを合わせたかのように、

一斉に、『ルナ~~ラちゃ~~ん!!』と叫ぶ。


「ファンクラブの皆もありがとう!! それじゃあ皆!! 今日も一緒に盛り上がろうね!!」

『いぇ~~い!!』

会場のファン達の掛け声を合図に、最初の曲のBGMが、会場のスピーカーから流れ出す。

ルナーラ=エールのデビューシングルである、『未来DRIVER』という歌だ。


♪溢れ出すこの想い 全力で貫けば

  光さえ追い越せる 

  未来を 切り開いて()

  OVER DRIVE


ルナーラは、いつもと、なにかが違っていた。

す……凄い! 体中から力が湧いてくる! 今日のアタシ、いつも以上に輝けるかも!?

ルナーラは、なぜか、いつも以上に活き活きしていた。

本人でも、その違和感に気付くくらいに。

そして、曲が4曲目に入ろうとした時だった。


突然ルナーラは、身体のバランスを崩した。

えっ? どうしたの、アタシ? 早く体勢を立て直さないと。

そう思い、慌ててバランスを保とうとする。

だがその瞬間、今度は身体中から力が抜けた。

えっ? なに? 力が急に……抜け……て……。

そしてルナーラは、ステージの真ん中で、うつ伏せに倒れた。



同時刻

天宮宅 リビング


「な……なにコレ!?」

エイミーと一緒にルナーラのライブ中継を見ていたかなえは、

ルナーラが突然倒れたのを見て、目を丸くした。

さっきまで、自分に対して強気なキャラでいられる程元気だったルナーラが倒れ、

なにがなんだか、かなえは分からなくなったのだ。


「ね……ねぇ、かなえお姉ちゃん! ルナーラちゃん、どうしちゃったの!?」

エイミーが心配そうな目で、かなえを見つめる。

「……………きっと、疲労かなにかよ。きっと……」

かなえは、震える手で、エイミーの頭を撫でた。



午後13時44分

某惑星 病院


「ん? なんだか騒がしいな」

ハヤトは近くのホテルから、自分が『旅客宇宙船を助けよう』と言ったばっかりに、

【宇宙賊】との戦闘中にギックリ腰になった亜貴の見舞いの為、亜貴が居る病室に向かっていた。

だがその途中、自分から見て、亜貴の部屋から4つ手前の病室がやけに騒がしかったので、嫌悪感を抱いた。


病院なのにうるさくしやがって。コレは注意しなければ。

そう思ったハヤトは、その病室のドアの前に立った。

「ん? コレは……」

病室のドアに、『ルナーラ=エール様』という名札、

そして『関係者以外の面会を禁ず』と書かれた看板が付いていた。


……これじゃあ、出て来たヤツに注意するしかないな。

肩を竦め、ハヤトは思った。

とその時、その病室のドアが突然開く。

「ん? えっ? ハヤト君!?」

「アロウ刑事? なんでここに?」

病室から出て来た人物。それは、宇宙警察の刑事であり、

昔、とある経緯でハヤトと知り合いになった、アロウ=バーレフだった。


「それはこっちの台詞だよ! どうしてここに?」

「……ちょっと連れがギックリ腰になりまして」

「あ~……そうなんだ……って、ん!? そういえばハヤト君、惑星ジ=アースの星川町に住んでるんだよね?」

アロウはハヤトの両肩を掴みながら、尋ねてきた。

「!? そうですが?」

「ここに入院している『ルナーラ=エール』って子、知ってるよね?」

「え? 誰ですか?」


「ええっ!? 知らないの!? ってそんな事はいい!

この病室の中に居る患者が、入院する前、星川町に居た事が分かったんだ」

「え!? それってどういう……?」

「詳しい事は、彼女も話してくれない。ただ、原因が君の住んでいる星川町にあるかもしれない。

だから、君に星川町全域の捜査の許可を得たいんだが?」


「……ウソだろ?」

ハヤトの顔に、一筋の冷や汗が流れる。

もし星川町に、『ルナーラ=エール』って子が入院する事態になった原因があるとしたら、

下手をすれば、星川町が無くなり、地球人と異星人は、もう2度と共存できないかもしれない。

そう、思ったのだ。


アロウにとりあえず捜査の許可を出すと、ハヤトは急いで病院を抜け出し、かなえの携帯電話に電話した。

すると3コールで、かなえが電話に出た。

『もしもし? どうしたのいきなり?』

「どうしたもこうしたもない。天宮、町の巡回をしてる時、なにか変わった事はなかったか?」

ハヤトは早口で、かなえに質問した。

『えっ!? いきなりなに!?』

「『ルナーラ=エール』って子が、こっちの病院で今入院してる。

でもってその子に、聞き込みをしに来た刑事が、星川町に、

その子が入院した原因があるんじゃないかって言ってるんだ」


『えっ!? ルナーラが!?』

「ん? 知り合いか?」

『あ~……知り合いっていうか……ってかアンタは知らないの!?』

「いや、知らねぇ。とそんな事より、変わった事は!?」

いきなり話題を戻され、かなえは電話の向こうで一瞬混乱したが、ふと、ある事を思い出す。

『そういえば……「コショウ」を探してる人を見かけたけど……』

ソレダ!!

「天宮、ソイツを今すぐ見つけて、なんでもいいから今回の事件に関する情報を聞き出せ!!」



ハヤトがかなえに電話をかけたのとほぼ同時刻。ハヤトが居る場所から、数m離れた場所にて、

白い学校の制服を着た1人の少女が、入院患者である子供達5人を連れて、病院の外を散歩していた。

「アルミナお姉ちゃん、病室に着いたらまた絵本読んで!」

入院患者の1人である5歳くらいの男の子が、アルミナという名前の、白い制服を着た少女に言う。

「うん。分かったわ」

アルミナは、微笑みながら男の子に返答する。

とその時、アルミナ達が居る場所に、数m離れた場所から、大声が聞こえた。


「星川町に、事件の原因があるかもしれないってだけで問題なんだ!!

せめて、星川町で起きた事件は星川町でちゃんと解決できるって事を、

とりあえず宇宙警察に分からせないと、星川町が無くなるかもしれない!!」

その声の主は、携帯電話を片手に、携帯電話の向こうにいる誰かに対し、叫ぶようにそう言った。

「えっ? 星川町?」

聞き覚えのある単語と声だった。

同時にアルミナはまさかと思い、おそるおそる、声が聞こえた方向を見た。


そこには、切羽詰った表情ではあるが、自分が知っている人物が居た。

!? ひ……光君!?

自分が知っている人物――――ハヤトを見た瞬間、アルミナは驚愕した。

な……なんでこんな所に居るの!? と……とにかく……。


アルミナは、慌てている事を悟られないよう、作り笑顔で子供達に言う。

「皆、早く病室に戻ろうか? 今日は日差しが強いし……」

「「「「「は~~い!」」」」」

子供達は元気に返事をすると、早歩きで病院に戻って行った。

そして、アルミナは、

……もう2度と……光君には会わないって……決めたんだ。

両目に涙を溜めながら、その場を立ち去った。

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