Episode030 運び屋と謎の男
バルトとレニスを乗せた小型宇宙船が緊急ワープをしてから、数分後。
彼らを逃がしてしまった宇宙警察の警官の1人――操縦士席に座っていた警官が宇宙服を着た状態で船外に出ていた。
宇宙船に咬み付き、そのエネルギーを吸収する事で宇宙船を無力化した、先ほどまでミサイルに擬態していた蛇型ロボットに、直接攻撃をするためである。
『このっ!』
実弾ではなく、エネルギー弾が発射される拳銃の銃口を蛇型ロボットに向けて、引き金を引く。一応、実弾を発射する拳銃も所持してはいるものの、そちらの方は残念ながら、蛇型ロボットの装甲により弾かれたためだ。
命中したエネルギー弾は、蛇型ロボットの頭に風穴を空けた。どうやら実弾とは違い、高温であるエネルギー弾はその装甲に通用するようだ。
操縦士席の警官は、その事に安堵すると、続けて3発、宇宙船に咬み付いている蛇型ロボットへエネルギー弾を発射。4発受けたところで、ようやく蛇型ロボットはその機能を停止させた。
『くそっ。手こずらせやがってあのヤロウ共』
機能停止を確認し、今度は蛇型ロボットの口を無理やりこじ開け、宇宙船の外装に食い込んだ、歯に相当する部位を抜きながら、彼は毒づいた。
宇宙船の機能の1つ――救難信号を発信する事さえもできなかったのだ。下手をすると虚空を永遠に彷徨いかねなかったので、怒るのも仕方ないかもしれない。
だが一方で宇宙警察側も、そこまで規模が大きくない犯罪者達を相手に使うべきではない、明らかに強力過ぎる兵器を使った事は大問題だ。
仮にそれが許容されるほどの巨悪が相手であろうと、彼らはその犯人を捕まえる事を使命とする警察組織の一員であって、相手の生殺与奪の権利を持っている超越的な存在ではないのだから。
にも拘わらず、本気で自分達が正しい行動をしたと信じているのか。
2人の警察官は、強力な兵器の使用の事など全く気にした様子を見せずに、船内と船外、それぞれで淡々と、己が今やるべき事をしていた。
『おいっ! 宇宙船の機能は戻ったか!?』
己とほぼ同じくらいの大きさの蛇型ロボットを宇宙船から剥がし終わると、船外活動をしていた操縦士席の警官は、その蛇型ロボットを『公務執行妨害』の証拠品として宇宙船の荷台へと運びつつ、宇宙服に付いている無線に呼びかけた。
すると、質問の相手である船内の副操縦士席の警官は「はい。完全に機能が回復しました」と宇宙船のモニタや計器を眺め回しながら、冷静な口調で答える。どうやら蛇型ロボットは宇宙船が生み出した分のエネルギーを吸収しただけで、枯渇はさせなかったようだ。
それは、バルトとレニスが……たとえ自分達を殺そうとしてきた相手でも、餓死による殺人だけは犯したくなかったからか。それとも警官2人から逃げきれる自信があったのだろうか……今となってはもう、分からなかった。
『じゃあ早速「コスモネットワーク」を使って他の警官に連絡しろ!』
「今やっています」
しかし、そんなバルトとレニスの心の内などはどうでもいいと思っているのか。
船外作業中の同僚からの強圧的な指示を、副操縦士の警官はサラリと流し、冷静にそう答えながら、すぐに『コスモネットワーク』と呼ばれたモノを起動する。
直後、宇宙船のモニタに、様々な場所でパトロールをしている宇宙警察の警官達の映像が映る。宇宙船の重力制御装置を用いて生み出した歪曲空間を使い、映像や音声などの情報をワープさせる事で行う、宇宙規模の通信ネットワーク……それが彼らの言う『コスモネットワーク』なのである。
ちなみに、このネットワークの名称。
英語と同じ言語が宇宙に偶然存在していたワケではなく、日本の星川町を始めとする『異星人共存エリア』に一部異星人が注目し、その異星人の中に地球の言語を敢えて使うような……コスモネットワーク開発者を始めとする、西洋かぶれならぬ地球かぶれと呼ぶべき者が現れ始めた影響で名付けられた名称の1つである。
そして、そんなネットワークを起動した副操縦士席の警官は。
己の姿が仲間達の見るモニタに映ると同時に……恐ろしい指示を告げる。
「惑星シャルーラの民と思しき、2人の運び屋が《第47銀河B‐546区域》にてワープした。見つけ次第、ただちに連行せよ。生死は問わない」
※
惑星ハーバニルの宇宙空港の片隅――見た感じでは何も無い場所にて、バルトは右手に持ったスパナを動かしていた。
パントマイムをしているワケではない。
犯罪者である自分達の小型宇宙船を誰にも目撃されないよう、小型宇宙船の迷彩機能を作動させているから見えないだけで、実際にはバルトの目の前に小型宇宙船は存在しているのである。
ちなみにそのバルトは、迷彩機能を作動させた状態の小型宇宙船を視認する事ができる『アンチ迷彩バイザー』というバイザーをかけているため、修理をする際の不都合は無かった。
「チッ! 右翼、完全にイカれてやがる」
小型宇宙船の、小惑星にぶつかって壊れた右翼を見て、バルトは苦々しげな表情を浮かべた。幸運な事に右翼は、かろうじて直せるものの、残念ながら目的地への到着予定日は、依頼人が確実に怒るくらい大幅に変更せざるを得ないほど酷い損傷だった。
※
右翼の損傷という事故により制御不能になった小型宇宙船をどうにかするため、バルトが敢行した緊急ワープにより転移した先は、その緊急ワープ機能を付けた時点であらかじめ、そのボタンを押した宙域から1番近い惑星と設定していた。
なのでこうして、衣食住の心配をせずに、修理に時間を掛ける事ができるのだが
……その近場の惑星であるハーバニルに、無事に着陸するまでが大変だった。
右翼が損傷した事でパワーバランスが崩れ、高速回転を始めた小型宇宙船は、重力制御装置や推進装置を以てしても、そして惑星ハーバニルの大気圏に突入した事で発生した空気抵抗でさえも、簡単に止める事はできなかったのだ。
しかし奇跡的に、そして同時に不幸な事に。
小惑星との衝突の影響なのか、今度は小型宇宙船がエネルギー切れ寸前に陥るというハプニングが発生し……さらには空気抵抗の助けもあり、それらのおかげで機体の回転は遅くなり始め、バルト達による運転制御ができるようになった。
けれどそれは同時に、その残り少ないエネルギーでなんとか小型宇宙船を隠せる場所を見つけて、そこまで飛ばなければならない事を意味しており……またしてもバルトの奇跡の操縦テクの大活躍により、なんとか2人はこうして、近くにあった惑星ハーバニルの宇宙空港へと、無事に辿り着けたのであった。
※
「ただいまバルト! 飲み物とかいろいろ買ってきたよ!」
そして、バルトが苦々しい顔をした……まさにその時。
生活雑貨が大量に入った紙袋を片手に、レニスが相棒に近付いた。
小型宇宙船を修理するため、暫くの間、惑星ハーバニルに滞在する場合を考え、その惑星ハーバニルにて売っている生活雑貨を入手するべく、彼は宇宙空港の外におつかいに出ていたのだ。
「あっ、バカそこはっ」
「えっ?」
だが、その相棒たるバルトまであと5歩ほど……といった所でそれは起きた。
ゴンッという鈍い音。
直後にレニスが後ろ向きに倒れ、同時に紙袋が地面へと落下。そして地面に激突した衝撃で、その中身はぶちまけられた。
「痛って~~!!」
頭を抱えながら、レニスは涙目で叫ぶ。
「まったく……宇宙船の迷彩機能を起動しているから、俺に近付く時は慎重に進めって言ったじゃねぇか」
それを見たバルトは、バイザーを付けたまま思わず苦笑した。
相棒の身に降りかかった不幸なので、笑うワケにはいかないと思ってはいるのだが……まるでTVで時々紹介されるハプニング映像のような事が目の前で起こってしまっては、さすがの彼も笑ってしまう。
「そんな事言ったって! バイザーはバルトの分しかないじゃん! どこに宇宙船のどの部位があるか分かんないよ!」
「しょーがねーだろ。最近赤字続きなんだから。おめーの分まで買えねーんだよ」
「うっ……そー……だったね」
バルトの言う通り、ここ数年、星際化が進んでいるこの宇宙中の警察組織の警備レヴェルは、少しずつ上がってきていた。
犯罪撲滅キャンペーンのような事をしているのだろうか。それとも星際化による新たな犯罪組織のネットワーク構築に対抗しての事なのか。
とにかくそのせいで、依頼のほとんどが犯罪に関わってしまう『裏稼業』を営む者達のほとんどが宇宙警察、または地上警察に捕まる事態が多発し、それに伴い、幸運にも捕まっていない者達は、裏社会の依頼者達から信頼を失い始めていた。
バルトとレニスの依頼成功率が下がっている原因の1つも、まさにそれだった。
他にも、彼らの詰めの甘さや運の悪さも原因であったりもするのだが……警備のレヴェルの上昇が、依頼失敗の原因の大半を占めていた。
そしてそんな、時に犯罪に加担する裏稼業の関係者に対し、空港は駐船を認めるワケが無い。だから仕方なくバルト達は、宇宙船の『迷彩機能』を起動させ、宇宙空港の片隅で、こっそり修理をしているのであった。
「ったく、もうちょっとで目的地だってのによぉ」
できる限り考えないよう心がけていた、依頼失敗の原因の1つを会話の中で思い出してしまい、それに対し反射的に愚痴を言いつつ、バルトは宇宙船の修理を再開した。
「あっ、そうだったバルト。ハイ、飲み物!」
「おう。サンキュ」
しかしそんな時だからこそ、相棒からの差し入れはとてもありがたかった。
バルトは笑みを浮かべながら、相棒からその差し入れの飲み物を受け取ろうと手を伸ばした……まさにその時だった。
「バルト=クローゼオと、レニス=アルノーラだな?」
2人の後方から、声がした。
次の瞬間、2人は反射的に前方へと移動し、相手との距離を離していた。勿論、宇宙船がある事を考えて頭を伏せた状態で。さらには、移動と同時に体の向きを反転させ、声のした後方へと顔を向ける。
誰かの声に反応するには、あまりにも大げさな反応。
だが2人は……それでも、相手にとっては不足な反応なのではないかと本能的に感じていた。
なぜならば、彼らに声をかけた相手の気配が……その声が聞こえてきたハズの後方から、全く感じられなかったからだ。
2人が後ろを振り向くと、その視線の先には、自分達と同じくらいの年齢の男性が居た。そしてその男性を見た途端、バルトとレニスは再び驚き、目を丸くした。
男性がそこに居ると、直に見て認識できたにも拘わらず、それでもその男性から全く気配を感じなかったからだ。
まるで、幽霊のような男性である。
未知なる存在――裏家業を営む2人に声をかける時点で如何にも怪しい謎の存在の出現に、バルトとレニスは緊張し、思わず冷や汗を流す。
「2人に訊ねたい事があるんだが――」
だが一方で、その幽霊のような男性は、冷静な口調でバルト達に声をかけた。
しかしその言葉は、残念ながら最後まで紡げない。なぜならその言葉を無視し、バルトとレニスが猛ダッシュで、その場から逃げ出したからだ。
もちろん、依頼の品を持って、である。
ちなみに自分達の小型宇宙船の方は、自分達を見ていた、幽霊のような男性以外――少なくとも、見つかると1番ヤバい相手である警察組織には、小型宇宙船の迷彩機能のおかげで見つからないと思っているので……2人は心配していなかった。
「……ッ! 待て!」
声をかけた相手のまさかの反応に、幽霊のような男性は一瞬、呆気に取られる。だがすぐに復活し、彼は全速力でバルト達を追いかけた。小型宇宙船を壊すとでも脅せば、もしかすると待ってくれたかもしれないにも拘わらず。それに気付かないほど、慌てながら。
もしやバルトとレニスは、それを狙って逃げたのだろうか……。
※
走っても走っても、謎の男性はバルトとレニスをしつこく追ってきた。
そこで追われる2人は、空港内を移動している宇宙船の、誰からも見えない死角から死角へと移動しながら逃げる作戦に変更した。
だが謎の男性には、その作戦は通用しなかった。彼はまるで、2人がどこに居るのか分かっているかのように……徐々に徐々に、バルト達との距離を詰めていく。
「ど……どうするのバルト?」
逃げても逃げても、なぜか未知の相手を振り切れず、ずっと追いかけまわされる
……まるでホラー映画のような悪夢を前に、レニスは思わず涙目になりながら、隣で並走しているバルトに訊ねた。
「こうなったら……レニス、お前は依頼の品を持って、目的地に向かう貨物宇宙船に乗り込め」
「えっ!?」
すると返ってきたのは、あまりにも予想外の指示だった。
レニスは思わず、涙目のまま両目を見開いた。その指示がいったい何を意味しているのかを、すぐに察したのだ。
「バルト? もしかしてアイツと戦う気なのッ?」
「レニス、ナニ心配そうな顔してやがんだよ?」今にも泣きそうな顔で心配をする相棒に、バルトは敢えて笑みを見せながら答えた。「俺は別にアイツを倒そうとは思っちゃいねぇ。『始末屋』とかじゃあるまいし」
そしてバルトは、途中で歩くのをやめ、今まで自分が持っていた依頼の品であるコショウを相棒に託すと、その背中を軽く右手で叩き……最後にこう言った。
「俺達は『運び屋』。依頼された人や物を、無事に運ぶのが仕事だ。だからヤバくなったらちゃんと逃げるさ」
そう言ってバルトは、どこ行きなのか分からない、他所の宇宙船の死角から飛び出すと……謎の男性が居る場所へと自分から向かっていった。
「バルト……必ずまた会おうね!」
自ら囮となった相棒の背中を見届け、レニスの目からついに涙がこぼれた。
だが彼は、すぐにこぼれた涙を拭い……依頼人のために、そしてバルトの行動を無駄にしないため、改めて目的地へと向かう宇宙船を探し始めた。
バルトと、後で必ず合流できると信じて。
※
「よかった。やっと話し合う気になったんだな」
自ら目の前に出てきたバルトを見て、謎の男性はホッと胸を撫で下ろした。
「君、俺と同じ――」
そして早速、謎の男性はバルトに質問をしようとした。
だが次の瞬間、バルトは目にも留まらぬ猛スピードで謎の男性に急接近し、右手の拳を突き出す!!
「!?」
謎の男性は咄嗟に体を捻り、攻撃を避けた。
しかし完璧には避けられず、バルトの拳が謎の男性の脇腹を掠り、服が破けた。まさに紙一重の回避だった。
「……いきなり何をするんだ?」
なんとかバルトの攻撃を躱すと、今度は謎の男性の方がバルトから距離を離す。
捜していた相手――バルトが、思っていた以上に危険な相手であると即座に判断したのだ。そして謎の男性は、安全のため、すぐには自分に攻撃できない距離まで一旦移動すると……改めて、バルトにそう問いかける。
「ナニすんだ……だと?」
するとバルトは、眉間に皺を寄せながら……失礼にも逆に問い返す。
「お前は……おそらく『始末屋』だろ? 俺達に会いに来たのは、俺達の依頼人と敵対する組織の依頼で、俺達を殺すためだろうが。だったら、殺られる前に殺るのは……当然だぜ!!」
そして次に放ったその言葉は……長い事、裏家業で生計を立ててきたがために彼が身に着けた、経験則によるモノだった。
裏社会も、表社会と同じく弱肉強食な世界だ。
唯一違う点を挙げるとするならば、裏社会における、相手を蹴落とすための手段の中に……殺人も、当然のように含まれている事だろうか。
そんな裏社会で、バルトとレニスは運び屋として長いこと活動してきた。
それこそ、他の同業者の裏切りにより、生命の危機を何度か経験したほどに。
だからこそバルトは、現在相対している、謎の男性も信用せず……卑怯にも何の予告もせずに先制攻撃を仕掛けたのだ。
そしてそのような理由から、依頼人のため、そして、これからも自分と相棒が裏社会で生きるために、バルトは謎の男性を今度こそ行動不能にしようと、再び走り出そうとした……まさにその瞬間。
ドンッ、という……柔らかい何かが、車に轢かれる時に出る鈍い音が、バルトと謎の男性の耳に入った。
まさか、空港職員が轢かれたのだろうか、とバルトはまず思った。
だがその直後、宇宙空港の滑走路にある乗り物には全て、障害物感知センサーが付いている事を彼は思い出す。ならばこの鈍い音は、それが付いていない、普通の乗り物により起こされた音なのだろう。だがなぜそんな乗り物が宇宙空港に現れ、さらにはそれが何を轢いたのか――。
――いや、その答えは考えるまでもなかった。
そんなイレギュラーな事態が起こる原因など。
乗り物を、よほど雑な整備でもしていない限り……同じくイレギュラーな存在である、自分を始めとする裏社会の存在によるものである可能性が高いではないか。
「れ、レニスぅ――――――――ッッッッ!!!!!!!!」
その可能性が頭に浮かぶと同時、バルトの顔は青褪め、相棒の名を叫ぶ。
そして彼は、相対している謎の男性の事などすぐに頭の中から締め出し、鈍い音がした方へと慌てて駆け出した。
残された謎の男性は、いったいどういう状況なのか分からなかったが、バルト達に用がある事には変わりないため……すぐに彼の後を追った。
※
「へへっ! やったぜ楽勝!」
宇宙空港の、とある滑走路に、ボンネット部分が少々へこんだ『ホバーカー』が停車していた。その中には1人の男性が乗り込んでおり、そしてその男性の視線の先には……十中八九、ボンネットのへこみの原因であろう、数十m先の地面の上に倒れているレニスの姿が在った。
どこから、誰がどう見ようとも、そこは交通事故の現場であった。
しかし運転席の男の台詞から分かる通り、これは普通の交通事故ではない。
運転席の男は、轢き逃げ専門の『始末屋』。
バルトの予測通り、いや、その相手こそ違ったが……彼とレニスの依頼人と敵対している存在が送り込んだ彼により、意図的に引き起こされた事故である。
「さてと、まだ息があるかもしんねぇから、もう1回轢いとくか」
始末屋の男が、そう言いながらバックし、ホバーカーの設定を弄る。ホバーカーという、地面との摩擦や重力という枷から解き放たれた乗り物であろうとも、殺害対象の着ている服などの関係で、一撃で即死させられるとは限らないと、長い経験の中で学んだからだ。
そして彼は、先ほどは違い、地面に倒れた相手だろうとも確実に轢き殺せるほどの高度にホバーカーをセットし直すと、再びアクセルを踏み込んだ。
そして、レニスまであと5mのところまで近付いた……まさにその瞬間。
ホバーカーを、突如正体不明の強力な電流が貫く。
それはホバーカーの電気系統にまで伝わり、与えられたその負荷により……全てのシステムはダウンした。
運転をしていた始末屋も、車内にまで入り込んだその電流のせいで、ハンドルに突っ伏した体勢で気絶する。
いったい何が起こったのか、一見分からない状況だった。
もしやホバーカーの電気系統が暴走でもしたのかと、その道のプロであれば思うような状況であるが……不可解な事態は、まだ終わらない。
「……へへっ、どう? 俺が発明した設置型の『電撃爆弾』の威力は?」
信じられない事に、始末屋の心配が現実になったのか……ホバーカーに轢かれたハズのレニスがよろけながらも立ち上がった。さすがに痛みを感じているのか顔をしかめてはいる。だが彼はそれでも、そして聞いてくれる人が居なくとも、自分の発明品の事を説明したいのか、無理やり得意気な顔をして説明する。
「相手の影を感知して、強力な電流を上方に撃ち出すという設置型の発明品でね、地面に設置するだけで自動でセットできて、しかも今回使ったのは、ホバーカーを機能停止させた上で車内の人を確実に感電させるよう、電力を調整した特べ――」
「レニス!!? 無事か!!?」
だが、その説明は中断する事になった。相棒の身を心配し、血相を変えたバルトが駆け付けたからだ。
「あっ、バルト!」相棒との再会を嬉しく思いながら、レニスは言う。「なんとか無事だよ。最高速度で突っ込まれてたらヤバかったけど」
「そうか。そりゃよかった」
バルトはホッと胸を撫で下ろした。
だがすぐに、今度はレニスの次に重要な依頼の品『コショウ』の事が気になり、気を引き締め直す。
「そういやレニス……依頼の品はどこやった?」
「えっ? ヤダなぁバルト。ちゃんと俺の手の中に――」
すぐにレニスは両手を前に出す。
だが、その手の上に依頼の品は無かった。
「――無いね?」
「『無いね?』じゃねぇ!!」
能天気な返事をする相棒に、バルトは依頼の品を無くしたお仕置きとばかりに、反射的にラリアットを食らわせようとする。
「ま、待ってバルト!!」
だがそのラリアットが当たるまさにその寸前、レニスは相棒のお仕置きを受けたくないのと、事の重大さを分かっているが故に、必死の形相で告げた。
「多分俺が轢かれた時に、俺が吹っ飛んだ方に飛んでったんだよ!! 捜せば見つかるって!! 宇宙船に潰されてなければ!!」
「……だったら喋ってる余裕すらねーな」バルトはラリアットを寸止めし、相棒の言葉を吟味しながら言った。「とっとと捜して、依頼を完了すっぞ」
「うん!」
そしてレニスは、すぐに自分が吹っ飛んだ方向を教えた。
するとその方向には、一隻の貨物宇宙船に貨物を詰め込んでいる、現場作業員の姿があった。
そして、その現場作業員の1人の手には……例の依頼品があった。
「「あ、あぁああああぁぁぁぁああああ――――ッッッッ!!!!!!」」
まさかの事態を前に、バルトとレニスは思わず絶叫し、慌ててその貨物宇宙船に向かって走り出す。
だが、2人が5歩ほど進んだ、まさにその瞬間。
貨物宇宙船に(依頼品を含む)全ての荷物が詰め込まれ、貨物宇宙船のハッチが閉じ……さらにその数秒後、貨物宇宙船が、どこかの惑星へと向かい飛び立った。
あまりにも間抜けな結末に、2人は思わず、口を開けて呆然とした。だがバルトはすぐに我に返り、険しい表情をしながら相棒に言った。
「おいレニス……アレがどこ行きの貨物宇宙船なのか、すぐに調べンぞ!!」