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Episode029 2人は運び屋


『そこの宇宙船! 止まれ! 止まらなければ武力行使に出るぞ!?』


 ハヤトと亜貴が惑星イル=イーヌに到着する2日ほど前の事。

 とある銀河系で、壮絶なカーチェイス……ではなく、スペースシップチェイスと呼ぶべき逃走劇が繰り広げられていた。

 一方は、青と黒を基調(きちょう)とする、宇宙警察が所有する一(せき)の宇宙船。もう一方は、一隻の緑色の小型宇宙船……追われているところからして、間違い無く、犯罪者の乗る宇宙船であろう。


 周囲の宙域には宇宙塵や、それが集まって生まれた小石しか(ただよ)っておらず、その進行を妨害するほどの大きさの小惑星などは存在しない。しかもその宇宙塵や小石も、双方の宇宙船の表面に、それらの対策のために張られているエネルギー障壁によって簡単に(はじ)かれているため、宇宙船は無傷。なので双方、遠慮なくエンジンの限界ギリギリまでスピードを上げていた。


 慣性(かんせい)や遠心力についての心配は無用だった。

 なぜならば、それぞれの宇宙船の船底に付いている『重力制御装置』が、それを無効化しているからだ。


『仕方ない。悪く思うなッ』


 再三(さいさん)の、相手の宇宙船への強制通信――相手の持つ通信設備を(かい)した警告を無視され、ついに宇宙警察は、警告通りに武力行使とやらを実行した。

 宇宙警察の1人が、宇宙船に付属しているレバーに付いているボタンを押す。


 すると宇宙船の上部の、装備されていたミサイルの格納スペースの(ふた)(ひら)き……()()()()()()()()()()()()()()姿を現し、小型宇宙船へと向けて発射された。


     ※


「わああああッッッッ!! ミサイルだああああーーーーッッッッ!!?」

「なぁっ!? テメェら、宇宙警察のクセしてなんで『追尾ミサイル』なんて()()使()()()()()クソヤベぇモン使ってきやがんだよぉぉぉぉーーーーッッッッ!!?」


 一方、宇宙警察に追われている小型宇宙船の中では、搭乗者である2人の男性の絶叫が(とどろ)いていた。2人の視線は小型宇宙船に備え付けられているレーダーに向けられており、それは宇宙警察の宇宙船が発射したミサイルの動きを(とら)えている。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、相手を殺しかねない装備を使ってきたという、非人道的にしてオーバーキルなその事実を前に、1人はこの世の終わりを見たかのように顔を蒼褪めさせ、もう1人は、宇宙警察に対する怒りのあまり顔を(ゆが)めさせた。


「こっの……オレ様の操縦テクをナメんなぁああああーーーーッッッッ!!!!」


 そして、宇宙警察に対し怒りを覚えた方――操縦士席の男性はすぐに動き出す。

 その怒りを力に変えたのか、握った操縦桿を凄まじい速さで、()()()()()()強引に操作し、なんと背後より(せま)()る『追尾ミサイル』を紙一重で回避していく。


「うわああああぁぁぁぁーーーーッッッッ!!? め、目がッまわるううううぅぅぅぅーーーーッッッッ!!?」


 そしてその奇跡とも言える操縦は、奇跡の代償なのか、宇宙船に取り付けてあるハズの『重力制御装置』が意味を成さなくなるほど強烈だった。

 おかげで搭乗する2人の内、ミサイルをレーダーで確認して、この世の終わりを見たかのような顔をした方――副操縦士席の男性の平衡(へいこう)感覚は失われ、言葉通り目を回した。


     ※


 結果を言えば、宇宙船にミサイルは1発も当たらなかった。

 宇宙警察に対し怒りをあらわにした男性による強引な運転が、奇跡的に、自分達が乗る小型宇宙船を、ミサイルのロックから(はず)したのである。


「へっ! どうだ、オレ様の操縦テクはよ!?」


 宇宙警察が発射した『追尾ミサイル』を振り切り、小型宇宙船の操縦者である男性――自称・宇宙船操縦と改造の天才の男こと、バルト=クローゼオは、冷や汗をかきつつも、勝ち誇った顔を見せた。


「ってバルト! いっっっっつも言うけど、運転が乱暴過ぎだよ!!」


 するとその直後。

 副操縦士席に座る男性――バルトの相棒であるレニス=アルノーラは、バルトの乱暴な運転に対し、なんとか平衡感覚が戻るなり文句を言った。

 小型宇宙船に付いているハズの『重力制御装置』が意味を成さなくなるほど……下手をすればリバースしかねないほど乱暴な運転だったのだ。さすがに文句を言いたくなった。


「ウッセー! ミサイル振り切ってやったんだから文句言うなレニス!」


 すると、当然ながらバルトは反論した。

 乱暴な運転をしてまで危機を(だっ)してやったのだ。正直言って、文句を言われる筋合いが無いほどの偉業なのだが……しかしレニスの不満は止まらない。


「いや、そもそも操縦だけでミサイルをどうにかしようってのがおかしいよ!! こっちの宇宙船の装備も組み合わせればもうちょっと優しい運転もできたかもしれないのに!!」


「バカ野郎!! 相手は宇宙警察だぞ!!? そう簡単にこっちの切り札見せたらあとが大変だろうが!! そういうのはな、もうちょっと使い時ってヤツを――」


 レニスもレニスでそれなりに()にかなった文句を返す。しかしバルトも、それに()けじと(いち)()ある反論を言い返す。どっちの言い分も正しい……ように見えるが、実際は何が起こるか分からない警察(ヒト)犯罪者(ヒト)の駆け引きである。そこに正解は存在しないのが正解と言えるかもしれない。


 そして、そんな複雑な状況の中であるが(ゆえ)に。

 こんな所で喧嘩をせずに、さらなる加速で距離を稼ぐなりなんなりをすべきかもしれない……のだが――。


     ※


 ――信じられない事に、なんと2人が喧嘩している余裕は存在した。


「なっ!? あんな小型船が『追尾ミサイル』を振り切るだとっ!?」

「信じられませんな」


 全弾回避という、まさかの奇跡の偉業を成し遂げた小型宇宙船を前に、宇宙警察用の宇宙船に搭乗する2人の警官が、驚愕のあまり相手を逮捕しなければいけない事を忘れてしまったおかげである。


「というか、あの異常な速度……これは推測ですが、あの宇宙船、改造が(ほどこ)されているのでは?」


 しかし、その時間はあまり長くは続かない。

 副操縦士席に座った方の警官がすぐに(われ)(かえ)り、小型宇宙船攻略のため、その異常なる速度について推理したのだ。


 ちなみに、その警官の推理は見事的中していた。

 バルトとレニスが乗っている宇宙船には、バルト特製の『改造推進装置』が装備されているのだ。


「なっ!? だ、だとするとあの2人……『連邦運送船法』も違反して!?」


 だが、その改造推進装置は、ある意味では(もろ)()(つるぎ)だった。

 地球上のほとんどの国において、車両の改造が違法であるのと同じように、()()()()の中においても、宇宙船に改造を(ほどこ)す事は違法なのだ。


 相手の犯罪者の、さらなる罪状の追加……いや、宇宙警察が小型宇宙船を細かく確認していないため、まだ『容疑』の段階ではあるが、どっちにしろ小型宇宙船の機動力は異常である。さすがに警察としては絶対に見逃せない事態だ。


 なにがなんでも捕まえねばならない理由が増えて、2人の宇宙警官は顔を見合わせる。そしてすぐに、小型宇宙船に対し再び警告を(はっ)した。


「とっとと止まれ!! そこの宇宙船!!」

「『連邦交通法』違反(およ)び『連邦運送船法』違反容疑(およ)び『不法物品流通』違反容疑で、あなた方を逮捕します」


     ※


 しかしその警告は、小型宇宙船内には届いていなかった。

 誘導ミサイル発射前の時点で、うるさいという理由で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「ちっ! 今日の宇宙警察は一段としつけーな!」

 再び警告をしている事など知らないまま、その警告をしている、(いま)だに自分達をしつこく追いかける宇宙警察を後方確認カメラで確認し、バルトは舌打ちした。


「まっかせてよバルト!」


 とその時だった。

 レニスは突然『待ってました!!』と言わんばかりに両目を輝かせ、自信満々に相棒に言った。


「今回もこの船にビックリドッキリ! なヤツ積んどいたから!」


「へぇ、そりゃあ楽しみだ」


 するとバルトは、相棒のその発言の意味を理解し、そして同時に信頼もしているのだろう。小型宇宙船の操縦に集中しながらもニヤリと笑みを浮かべた。


「うん! じゃあさっそく……発射ぁああああぁぁぁぁーーーーッッッッ!!」


 相棒の笑みをGOサインと受け取り、レニスはついに……先ほど彼が言った装備を使える事が嬉しいのだろう。やけにハイテンションで、宇宙船の〝あるボタン〟を押した。


     ※


 一方、宇宙警察の宇宙船内では、副操縦士席に座る方の警官が、バルト達が搭乗する小型宇宙船から()()が発射された事に気付いた。


「ん? アレは何ですかな?」

「ん? って、ありゃミサイルじゃないか!!」


 そして操縦士席の警官は遅れてその事に気付き……その正体を確認するなり目を丸くし、思わず叫んだ。

 まさか先ほどの、追尾ミサイル発射への意趣返しなのか。レニスが押したボタンはミサイルの発射ボタンだったのだ。


「い……急いで回避だ! 早くしろっ!!」

「今やっていますよ」


 副操縦士席の方の警官が、そう言いながら急いで操縦桿を回す。

 だが予想以上にミサイルの速度が速く、操縦桿を回した頃には、もうミサイルは眼前にまで(せま)っていた。


(当たる!!?)

(ヤバイですな)


 命の危機に対し、追尾ミサイルを発射された(あと)のバルトとレニスのように慌ててはいないものの、それでも2人の警官は、その顔を蒼褪めさせ、さらには冷や汗をかきながら思った。


 そしてついに、2人の脳内で(そう)()(とう)が流れ始め……る事は無かった。


 なんと信じられない事にミサイルは……2人の予想を裏切り、宇宙船に命中する寸前で、()()()()()()()()()()()()


「「??」」

 もしや、故障でもしたのだろうか。

 理由が分からないまさかの展開に対し、2人は命が助かった事に(あん)()しつつも、どういう事かと疑問に思い、一応おそるおそる……ミサイルを確認した。



 すると次の瞬間。

 ミサイルが蛇みたいな形に変形(トランスフォーム)した。



「「!!?」」


 レニスの言った通りの、まさかのビックリドッキリ展開。

 そのあまりにも想定外な事態に、2人の警官は驚きのあまり目を丸くし、さらには頭が真っ白になり、回避行動をする事をすっかり忘れていた。

 そしてそんな彼らの(すき)を突くように……蛇の形に変形したミサイルが、宇宙警察用の宇宙船の、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 すると、いったいどうした事か。

 宇宙船のエンジン出力が一気に低下し……ついには()()()()()()()()()


「な……なんだコレはぁ!?」

「状況からしておそらく、この蛇に宇宙船のエネルギーを()われたのでしょうな」

「な……なんっだとぉおおおおぉぉぉぉーーーーーーッッッッ!?!?!?!?」


 あまりにも想定外な事態の連続な状況に対し、なんとか答えを見つけようとした副操縦士席の警官の言葉に、操縦士席の警官は思わず絶叫した。


 しかし、叫んだところで状況は変わらない。

 自分達が追っている犯罪者の片割れことレニス=アルノーラが特殊兵器(というよりイタズラ兵器と言う方が正しいかもしれないが)開発の天才である事を知らなかった時点で、もうゲームオーバーなのである。


     ※


「ヒュウ♪ 今回のもまた面白れぇ兵器だな」


 相棒の開発したまさかの兵器の活躍により、一発逆転をした事で心に余裕が生まれたバルトは、相棒に向けてウインクをしながら言った。


「へへっ! そうでしょ?」


 レニスもウインクを返し……そして右拳をバルトに差し出した。

 するとバルトも右拳を差し出し、2人はそれらを軽くぶつけ合う。


 地球の若者の間でも流行(はや)った(?)モノ。

 時々ケンカはするけれど、それでも心の底では、お互いを信じ合っている相棒である2人の挨拶の一種(ジェスチャー)である。


     ※


 この世界には『裏稼業』と(しょう)される、決して表には出ない生業(なりわい)が存在する。


『探し屋』『奪還屋』『発明屋』『拷問屋』

『情報屋』『監視屋』『通訳屋』『守護屋』

『始末屋』『盗撮屋』『電脳屋』『伝達屋』

『隠蔽屋』『掃除屋』『強奪屋』『復讐屋』


 などの、多くの生業が。


 そしてバルトとレニスの2人は、その裏稼業の中の『運び屋』と呼ばれる生業を(いとな)んでいた。

 裏家業の1つである『運び屋』とは、依頼人が依頼した場所に、依頼されたモノを運ぶ仕事。普通の宅配便のように、日常生活で使うモノの配達は勿論(もちろん)()()()()()()()()()()()()()()()()()(おこな)う職業である。


 そして今回、2人が運んでいる依頼品とは――。


     ※


「それにしてもバルト、この『コショウ』っていったい何なんだろうね? 宇宙警察に追われるだなんて、このコショウ、普通のコショウじゃないのかな~?」


 レニスは、自分が抱えている立方体の小包を見ながら呟いた。小包に貼ってあるラベルに書かれた品名には、確かに『コショウ』とある。


「まぁそのコショウが何にせよ、ちゃんと届けないとな」

 しかしバルトは依頼の品には興味が無いのか、それとも、ヤバいモノだろうと、どうにかなると思っているのか、宇宙船を操縦しながら素っ気ない態度を取った。


「うん、そうだね。ここで失敗したら依頼成功率が()()下がっちゃうもんね」


 しかし相棒の、その発言に対してはさすがのバルトも反応する。


「てめー余計な心配してんじゃねぇ!」

 すぐさま相棒へとグリグリ攻撃をかますバルト。

 違法な仕事をしている2人にとって、(えん)()が悪くなる言葉なのだ。グリグリ攻撃をしたくもなるのも当然だった。


「わああっ!! ゴメンってばバルトぉ~~!!」

 相棒によるお仕置き『グリグリ攻撃』に、涙目になりながら謝るレニス。



 すると、まさにその瞬間であった。



 ゴンッと、不吉な音がした。



 なんとバルトが目を離している間に、不運にも小惑星帯に入っていたのだろう。2人が乗っている小型宇宙船の右翼が、小型宇宙船に張られているエネルギー障壁が意味を成さなくなるほどの質量の小惑星に当たって、壊れたのである。


「「!!?」」


 小型宇宙船の右翼の出力がどんどん下がる。

 そして、左翼がまだ元気な状態でのその事態は、小型宇宙船のスピンという悪夢を引き起こす。たとえ『重力制御装置』であろうともマトモに戻せないほどの悪夢を。おかげで操縦者2人にとっては、操縦桿を握る程度がせいぜいな状況。左翼の出力を下げるボタンを押す事は不可能に近かった。さらには小惑星帯に入っているという危険な状況。


 このままでは小惑星にまた激突する!!


「わあぁああああああッッッッ!!!! 宇宙警察を振り切ったと思ったらぁああああーーーーーーッッッッ!!!!」

 またもや目を回しながら、レニスは叫ぶように言った。


「落ち着けレニス!! こんぐれぇ、ぶつかる前に……」


 しかしバルトは慌てない。

 宇宙船の操縦桿をしっかりと握り締め、その上部に付いている緊急用のボタンを押した。すると目の前に、なんと小型宇宙船が入れる大きさの『歪曲空間』が発生した。どうやらそのボタンは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()第二の『歪曲空間発生装置』だったようである。


「……ワープすりゃいいだけのハナシだ!!」


 そして、バルトのその絶叫と同時に。

 彼らが乗る小型宇宙船は、どこかの惑星へとワープした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 運び屋ってカッコイイですよね! ガンスミスキャッツのビーンとか大好きでした!
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