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2人の誓い

7月9日(土) 午後10時18分

リュンの家


リュンが住んでいる、とある平屋の自室にて、リュンは引っ越しの準備をしていた。

自分を助け、居場所を与えてくれた組織『イルデガルド』の命令に背いてウソの報告をし続け、

故にいつまで経っても使命を果たせず、組織のリーダー達から左遷の命令を受けたからだ。

最初に言っておくが、リュンは組織を欺いてきた事を、悔いてはいない。

しかしその代わりに、リュンは星川町に居られなくなる事を、とても悲しんでいた。


「……………ふぅ……まぁ、こんなもんやろ? 全部まとめても、明後日までの着替えに困るしな」

だけど、それでもリュンは、その悲しみを顔には出さなかった。

もしも、感情に任せて泣いてしまったら、一晩中泣いてしまうかもしれないし、

もしそうなったら、明日町のみんなに充血しきった目を見せる事になり、

それによって町のみんなに、さらに心配させてしまうからだ。


「さて、と。今日はもう遅いし……寝よか」

そんな心境の中、リュンは荷造りがほぼ終わったのが、10時過ぎという遅い時間帯だった事を、

布団のそばに置いてあった目覚まし時計を見て、確認した。

14歳で、しかも特殊な訓練を受けているリュンにとっては、まだまだ余裕で起きられる時間ではあるが、

明日は自分と、自分の相方であるギンとの漫才ショーが、肝試し大会の前座であるのだ。

なので明日は、万全の状態でいなければいけない、という事で、今日は早めに寝る事にした……のだが、


「……………しもた……ウチ、()()()()()()()()()()()()()

左遷の命令に動揺しすぎて、ついうっかり、いつの間にやら家の全てのカーテンまでしまっていた。

しかも、再び探そうにも、荷物を入れているたくさんのダンボールの内、

どのダンボールにカーテンを入れたかを忘れてしまっていた。


「……まぁカーテンが無いなら無いで、町のいろんな灯りが天井に写って、

夜空みたいにキレイやし、電気消せば……まぁ、大丈夫や……多分」

でもすぐに、リュンは物事をポジティブに考え直し、部屋の電気を消した。

確かに左遷の命令にはショックを受けたものの、いつまでもくよくよと悩んではいられない。

そう、改めて思ったのだ。


電気が消され、リュンの部屋の天井が、先程のリュンの言葉通り、

外の電柱の灯りや、車のライトによって、まるで夜空のように照らし出された。

そしてリュンは、そんな部屋の中で、そのまま寝間着に着替える……と思いきや、

「まさかウチが、俗にいう〝裸族〟やなんて……死んでも町のみんなには知られとぉないからなぁ」

冗談抜きで()()()()()()()()()()

そう、リュンは『裸族』である。といっても冬以外の、自分以外誰も居ない状態の自宅での就寝時限定で、

さらに言えば、全裸ではなく、下着だけの状態で寝るタイプである。


「明日はちょっと早めに起きよ。誰かに偶然見られる事もあるやさk――――」

そう言いながら、リュンは次に、目覚まし時計のタイマーを、

いつもより早めにセット……しようとしたまさにその瞬間、

「……………え?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()

ちなみにリュンの半裸は、外からの灯りによって、ほとんどハッキリ見えている。



『…………………………あ……いやその……もう寝たかと思って……ビックリさせよ思って、回ってきたんやけ……ど……?』



窓の外から〝関西弁〟が聞こえてきた。そう、窓の外に居るのは……。

「き……きゃあっ!!? ど……どないしてここにおるんや〝ギン〟!!?」

『す……スマン! 後ろ向くから大声は勘弁してぇな!』

突然現れたギンに対し、両腕でブラジャーとパンティーを隠しつつ背を向けると同時、

リュンは自分の声が原因でヤジウマが現れる可能性がある事など忘れ、思わず悲鳴を上げてしまう。

一方ギンは、リュンをなんとか宥めようとしつつ、慌てて後ろを向いた。



数分後


リュンが先程脱いだ上着を再び着た事で、事態はなんとか収拾した。

しかし、趣味がセクハラであるギンが女の子の家に、しかも夜に訪ね、

さらに言えば先程、そのギンに自分の半裸を見られてしまったのだ。

密かにギンを慕っているリュンとしては、別に迷惑ではないものの、

ギンを慕っているが故に、ギンが今夜、自分の半裸を見たせいでいろいろとブチキレ、

いわゆる〝一線〟を超えてくるのではないかと妄想してしまう。


リュンとしては、ギンと付き合えるならば、清く正しい交際をしたいと思っている。

なのでそれが原因で、既成事実的なトンデモ事件に発展してしまうのは非常に困る。

「……………で、なんや? こんな夜分に乙女の家に来るやなんて……もしかして夜這い?」

なので、ギンが冷静になったかの確認も兼ねて、

リュンはおそるおそる、未だに窓の外に居るギンにそう尋ねた。


『いやさすがのワイも夜這いはせぇへんよ!?』

すかさずツッコミが飛んだ。どうやらギンは、まだ冷静を保っているようだ。

しかし油断は禁物。もしもここでギンを家に入れ、自分の姿を真正面から見たら、

ギンがリュンの半裸を思い出し、アブナイ衝動に突き動かされ、襲われるかもしれない。

なのでリュンは警戒を怠らず、再び窓の外に居るギンに問いかけた。


「じゃあ、どないな理由なんや?」

『ちょいと、これからの事について話し合おうと思ってな』

「これ……から……?」

予想外の返事だった。思わずリュンは、目を丸くする。


『せや。リュンはこれから先……おそらく当分、ワイと会えへんやろ? 上司の命令とかの関係で』

「な……なんでそれを!?」

リュンはギンに、今回の引っ越しの詳細を、実はまだ話してはいなかった。

後々、最初からリュンの正体を見抜いていたギンには話そうかと思ってはいたのだが……。


もしかするとギンは、ウチの知らん、なんらかの情報収集能力を持ってるんか?

正体不明の能力、もしくは才能により、ギンに情報が流出していた事に、リュンは驚きを隠せなかった。

実はギン、自分が使える『読心術(リーディング)』の事を、リュンには敢えて教えていなかった。

それは、地球以外の惑星に、『読心術(リーディング)』などという、

精神感応能力者(テレパス)』が用済みになりかねない技術が存在しないため。


それはなぜかというと、そもそも『読心術(リーディング)』とは、

地球に初めて来訪した異星人との交渉や駆け引きを、円滑に進めるために編み出された技術であるからだ。

最初地球に来訪した異星人は、キチンと翻訳機は持っていたものの、

その翻訳機が、ちゃんと異星人、もしくは地球人の言語を翻訳しているとは限らなかった。

某火星人が登場するSF映画よろしく、わざとデタラメな翻訳をしている可能性があったのだ。


精神感応能力者(テレパス)』に翻訳を頼む手段もあっただろうが、

当時の地球には、俗にいう『異能力』を使える、しかも協力的な『異能力者』は、全く居なかった。

それは『異能力者』が、ちゃんと人間として接してほしいがために、敢えて名乗り出なかったからである。

そして、そんな『精神感応能力者(テレパス)』に代わり、

後に異星人の本音を知る手段として編み出されたのが、『読心術(リーディング)』だった。

なので『読心術(リーディング)』は、地球人特有の技術なのである。


しかし『読心術(リーディング)』は、言語の通じない異星人と会話する手段である一方、

地球の戦争をさらに激化させるキッカケになる可能性のある、いわば『諸刃の剣』でもあった。

なので『読心術(リーディング)』を使えるのは主に、『E.L.S.』が生まれる前に存在した、

『E.L.S.』の前身とも言うべき、とある団体のみと、世界各国のトップによって決められた。


だが、『世界』というモノはそんなに甘くはなかった。

戦争の激化に伴い、諜報活動も活発になり、あるスパイによって、

とある国の極秘文書から『読心術(リーディング)』の存在が明らかになり、

世界中にその存在が暴露された挙句、1部の諜報機関などに、その技術が流出した。

亜貴、麻耶、秀平が所属していた【探偵結社『ミネルヴァ』】も、その流出先の1つである。


『いや、別に変な能力とかは使ってないで? 今は使ったけど』

「ええっ!? 今使ったんか!?」

しかしどうやら、リュンの引っ越しの詳細を悟ったのは、

読心術(リーディング)』によるモノではなかったらしい。

ギンには特殊な情報収集能力があるのでは、と思っていた(くだり)では使ったようだが。


『さっきのはちょっとした推理や。少し考えれば、なんとなくお前の引っ越しの理由くらい、想像つくで?』

「そ……そか……なんや、全てお見通しだったんやな」

『全てやあらへん。ワイにだって、分からん事くらいあるわ』

「……………へぇ……それ、例えばなにがあるん?」

『せやな……って、そんな話をしに来たとちゃうわ!』


少々、今回話し合うべき話とは、全く無関係な話をしてしまったため、ギンはムリヤリ軌道修正をした。

ムリヤリにでも軌道修正をしなければ、一晩中ダベってしまうかもしれない、と思ったのだ。

『明後日から……もしかするとワイとお前、よほどの事がない限り、また会う事ができへんやろ?』

「……まぁ……そやね」



『お前は、本当にそれでええと思っとるんか?』



ギンが真剣な眼差しでリュンを見つめつつ、尋ねた。

ここで話し合わなければ、もう2度と話し合えない。

そんな思いのこもった、眼差しであった。

するとリュンは、か細い声で、搾り出すかのように――――

「……思っとるワケ……ないやん」

――――ギンにそう返答した。


「上司の命令なんや。もしもそれを……ってかもう破っとるんやけど、

それさえも破ってもうたら、今度は『左遷』だけでは済まへん。

もしかすると、ずっと牢屋の中で過ごす事もあるかもしれへんな」

『……辞める事とか、できへんのか?』

「ムダや。それこそ、ずっと牢屋ン中で過ごすハメになるわ」

リュンは首を横に振りつつ、ギンに返答した。

するとギンは、ボリボリと頭をかきつつ、



『……そか。だったら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……()()()()()()()



あっさりとした声で、そう結論付けた。

だが、それを聞いてリュンは、顔を真っ青にしながら意見を出した。

「……………できると……本気で思ってるんか?」

『できるできないかなんて、んな疑問は後回しや』

だがそんなリュンとは対照的に、ギンは陽気な笑顔で、リュンに返答した。


『んな事で悩んでる内は、絶対にやりたい事はできへんし、

それに、どうせ後悔するなら、できなかった場合の後がええ。

せやからワイは、今はなにがなんでも、地球を正式に、宇宙連邦に登録させてやろうと思っとる』

「……………ギン……」

ギンの決意を聞いて、リュンは思わず涙目になっていた。


リュンのため……かどうかは別として、ギンは地球を、異星人と共存できる惑星にするために頑張っている。

それだけでも、リュンは嬉しかったのだ。

今の時点では、リュンはもう2度と、ギンと会う事はできないだろう。

しかし、地球が異星人と共存できる惑星にできたならば、

地球が異星とも交流を持つ事ができたならば、リュンも、いつかギンに会う事ができるからだ。


『ワイはやるで。リュンとこのまま別れるのはゴメンやからな。

例え離れ離れになったとしても、ワイはいつか、リュンとまた会いたい。せやからリュン……』

「は……はひ!?」

ギンの呼びかけに、リュンの声が思わず上擦った。

ハタから聞けば、なんだか告白イベントのようなシチュエーションなのだ。

なのでもしかすると、ギンから告白されるのではと、意識してしまったのだ。


『もしも……もしもやけど……』

「う……うん……」

リュンの胸の鼓動が、高鳴り始めた。

同時に全身から汗が噴き出て、さらには喉が渇いてきた。

『もしもワイと、また会えたら……』

バクンバクンバクンと、胸の鼓動が最大限の大きさになった。

そして次の瞬間、ギンの口から愛の告白が――――



『ワイとまた、漫才コンビ組んでくれへん?』



「…………………………へ?」

――――残念ながら告げられなかった。

フザケているのか、と誰もが思うかもしれないが、ギンは真剣であった。

なので一瞬、リュンはその誘いと、ギンの雰囲気に飲まれたが、

……………まぁ、えっか。コレも一種の、『プロポーズ』のようなモンや。

と、少々残念ではあったが、ポジティブにそう考え直した。


「……………はぁ……しゃあないな」

『!!? じゃあ!!?』

「しゃあないからその『誘い』、受けたるわ」

『ホンマか!! よっしゃ!! ならワイ、これからいつも以上に頑張るからな!! 応援よろしゅうな!!』


リュンの返事を聞き、ギンはパアッと、まるで太陽のような笑顔を見せた。

それを見てリュンも、なんだか心がほっこりした。

「うん……応援しとるで、ギン」

この男ならば……やり遂げるかもしれへんな。



そう――――期待したのだ。




午後10時56分


ギンは自宅へと歩みを進めていた。

リュンとはもう、話す事は話したからだ。

「これで……ええんや」

ギンが、夜空を眺めながら呟いた。

しかし先程の、太陽のような笑顔ではなかった。


例えて言うならば、今のギンの顔は、この世の全ての悲しみを味わい、

心が極限まで磨り減った後のような……そんな無表情であった。

そして、そんな無表情な顔で――――ギンは語る。

「これで……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



今回の訪問の、〝本当の意図〟を。



「もう1度戻れるかもしれないという可能性さえあれば、

人はどんなつらい状況下でも、希望を胸に、その苦痛に耐え続ける事ができる。

せやからリュンも、もう1度星川町に戻れる可能性さえあれば……

1度向こうに行っても、その心に希望がある限り、もう1度星川町に戻ろうとは、思わへんやろ」






7月18日(月) 午後18時3分

護送宇宙船内


「――――夢かいな」

ギンは護送宇宙船内にて、目を覚ました。

連邦留置場へと、ギン達を護送する為の宇宙船である。

しかし今、運転席を除けば、この場にはギン以外、起きている者は居なかった。

みんな時差ボケが原因で、眠いのである。


……………にしても、〝あの時〟の夢とはな。

そんな状況の中で、ギンは先程見た夢の事を思い出していた。

星川町夏祭りの前日にした、リュンとの()()()約束の夢を。

なぜ今にして、数日前の事を夢に見たんや?

ギンはふとそう思ったが、悪い夢でないだけマシだと、思い直した……だがその直後、



「……………あれ? なんで……目から〝涙〟が?」



突如ギンの両目から、涙が流れ始めた。

「おかしいな。なんで……今さら……?」

涙など、両親を喪った時に、全て流しきったと思っていた。

それなのに、なんで今さら涙が出るのか。


ギンはワケが分からなくなった。

だけど、すぐに、

……………ああ……そうか……。

ギンは自分の〝本当の気持ち〟を悟った。


今までそれは、テロを実行する為に必要である、非情な心を一時的に隠すための、

偽りの仮面に付属していた、偽りの気持ちであると……そう思っていた。

けど、違った。

偽りだと思っていたその気持ちは――――〝本当〟であった。






……………ワイ……いつの間にかリュンの事……()()()()()……()()()()()()()()()()()……。






リュンを想う、この気持ちは。







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― 新着の感想 ―
[良い点] 緊迫したストーリー展開で楽しく読み切る事が出来ました。 後半部分で、各登場人物の想いが丁寧に描かれていて良かったです。 [気になる点] 第二部に繰り越した謎がぁ……。 それから、重箱の隅を…
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