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親友への誓い

1年前 4月2日(土) 午後15時57分

星川町揉め事相談所 裏庭


光ハヤトはさっさと事務仕事を終わらせると、木刀を両手に、剣術の修練を開始した。

かと言って少年漫画の主人公のように、強敵にやられたから特訓をしているワケではない。

地球上に5つ存在する、国際連合の最高機密事項『異星人共存エリア』がいろんな組織に狙われるから。

もっとハッキリ言ってしまえば、地球の内外に『敵』が多いからだ。

異星人関連の被害を受けた地球人。地球人関連の被害を受けた異星人。

相手を利用しようとする者。ただ単純に異星を侵略しようとする者。



様々な『敵』が居る。



ハヤトや銀一、ハルカが所属している〝団体〟は基本、

地球に来訪したり、地球への移住を考えている異星人達を支援する団体である。

だがその『裏』では、地球を、異星人が移住しても問題が無い星にするための〝情報操作〟をしたり、

先程の説明で出した、様々な目的で『異星人共存エリア』に来る『敵』を撃退するために活動している。

ハヤトと銀一の場合、『裏』の『敵の撃退』が主な仕事なので、常に強くあらねばいけないのだ。


裏庭の中央に置かれた、剣道用の打ち込み台の周りを、可能な限りの速度で移動し、

(イメージの中で)少しでも隙あらば、打ち込み台の前へと回り込み、

脚に全力を込め、突っ込み、『十』でも『×』でもない微妙な角度に斬りつけ、一瞬で真後ろに現れる。

スピードを活かした戦法が得意なハヤトの、いつもの修練の風景だった。


とそんなハヤトの修練を見ている者が……1人。

「……〝ハルカ〟。声くらいかけてもいいのに」

「だって、にぃにかっこよかったんだもん。すっかり声かけるの忘れちゃった♪」

裏庭へと続くドアのすぐそばに立つ、茶色がかった黒い長髪をツインテールにした、

ハヤトの義妹である少女・ハルカに、ハヤトは肩を竦めつつ言った。

一方でそのハルカは、パァッと、まるで太陽のような明るい笑顔で、ハヤトに正直な感想を言う。

ハヤトは感想を聞いて、少々照れくさくなった。


初めて会話した時は、感情がこもっていない、まるで人形のような印象を受けたハルカ。

そんなハルカが、ハヤトと一緒に暮らすにつれて徐々に人間性を回復し、

さらにはいつからか、心酔している、と言っても過言ではないレヴェルでハヤトを慕うようになった。

男としては嬉しい限りだが、世の中には世間体というモノがある。

ハヤトとしては……嬉しいけど、同時に自重してほしかった。

でもハルカは言っても聞かないので、もう半ば諦めていた。


「というか、お前は事務仕事終わったのか?」

()()()()()()()()()()()()()()()?」

「……ああ、そうだったな。ところでギンは――――」

「――――絶賛奮闘中だよ♪」

「……意味違うだろソレ」

「そんな事よりもっ!」


少々意味深な発言があったりもしたが、ハルカはなぜか早々に、ハヤトとの会話の内容を変えた。

なぜ変えるのか、ハヤトにその理由は分からなかったが、とりあえずハルカに合わせた。

「で、なんだ?」

「その技、名前ないの?」

「名前……か。別に必要無いだろ?」


「必要だよ。相手をビビらせる時とか!」

「……ビビらせる必要も無いだろ? というかビビッてないという事は、相手が油断してるって事だろ?

だったら尚更名前は必要無いよ。油断している相手の隙を突くのも、卑怯だろうけど戦術の1つだ」

「それでも……必要なの!」

「……じゃあ、ハルカが名前を付けてくれよ。そしたら、技をキメた時に使ってやる」

内心、半ば呆れながらハヤトは言った。


だがそんな返事でも、ハルカにとっては嬉しかったのか、

「ホント!!? だったら……『双刃☆瞬甲斬』!!」

「間の『☆』はなんだ。間の『☆』は」

気になったので、ハヤトは2回尋ねた。しかしハルカはハヤトの質問など無視して、

「うんっ! 我ながらナイスネーミングセンス!」

「無視か!? っつうか『☆』はヤメロ恥ずかしい! せめて間は『・』にしr――――」



現在 7月17日(日) 午後14時37分

星川総合病院 病室


「――――夢、か」

そしてハヤトは、病院のベッドの上で目を覚ました。

「……懐かしいな。あの時の……か」

上半身を起こしながら、夢の事を思い返す。

自分の技に、初めて名前が付いた日の事を。


「……ハルカ」

ハルカの事を思い返す内に、ハヤトは胸をギュッと締め付けられる想いに駆られた。

両親を喪い。義父を喪い。そして唯一の家族である、義妹のハルカまで失った。

昔の記憶と共に、それらが頭の中で再確認されると同時、

今まで心の中で、無意識に封印していた想いがぶり返し始めた。

目頭が熱くなる。まぶたが徐々に潤んでくる。ついには、両目から大粒の涙が流れ出た。


「……………俺は……………俺は……っ」

本当は、大声で泣きたかった。

だけど、ハヤトは堪えた。

ここが病院である事も、理由の1つだが……。



なにより、知り合いにこれ以上心配をさせたくなかったから。



とその時、病室のドアからノック音が聞こえた。

ハヤトはすぐに気持ちを切り替え、涙を右腕で拭う。

もう……そんな時間か。

訪ねてきた相手は分かっていた。

「ハヤト、もうそろそろ時間だけど……起きてるか?」

ドアの向こうから声が聞こえ、同時にドアが開く。


ドアが開くと、そこにはカルマが居た。

院内でレンタルできる『車椅子』を押して、室内に入ってくる。

2日前の銀一との決戦で、またハヤトの両脚が断裂寸前までイってしまったので、借りてきたのである。

「ああ。起きてるよ」

「じゃあ、行こうか」

「ああ」

そしてハヤトは、カルマが持ってきた車椅子へと、腰を下ろした。



午後14時54分

町立星川中学校 運動場


そこには今回の事件で捕まり、拘束されている、銀一を含めた『セーブ・ド・アース』の構成員達と、

『セーブ・ド・アース』を護送宇宙船へと連行している宇宙警察の警官数名。

町長補佐の和夫。異能力を持つ事を除けば普通の町民であるかなえ。

元『探偵結社ミネルヴァ』の諜報員だった亜貴と、その部下である麻耶と秀平。

事件解決に協力してくれた、他の『異星人共存エリア』の【揉め事相談所】の所員達が待っていた。

ちなみに亜貴は、ハヤトや連行されようとしている銀一と同様、点滴装置で点滴をを打っている状態だ。


みんな、黙って目の前で起きている事を見ていた。

ただ、地球から異星人達が居なくなってほしい、という願いから事件を起こし、

異星人達を殺そうとはせず、異星人だけに効くウィルスで無力化する事で行動を制限し、

ついには異星人達を人質に取り、総理官邸へと犯行声明を発した人達。

そんな人達が、宇宙警察の護送宇宙船へと連行されていくのを。


ちなみに判決は、銀一以外の構成員は全員『懲役10年』。

人を殺しはしなかったものの、町民達を軟禁し、恐怖を与え、

ヘタをすれば世界規模で混乱が起きかねない大事件を起こしたためだ。

そして銀一は、他の構成員のそれらに加え、殺人も犯したため『禁錮20年』だ。


「このままハッピーエンドを迎えると……思うなよ?」

「異星人との繋がりは、必ず世界に混沌をもたらす……絶対に」

「いつか思い知るよ!! アタシらの行動が、言ってた事が正しかったって!!」

『セーブ・ド・アース』のメンバーの1部が、護送宇宙船に連行される途中で、

ハヤト達を睨み付け、毒づき、罵倒した。


「なっ! お……お前ら!!」

カルマはそれを見て、聞いて、激しい怒りを覚えた。

ハヤトの車椅子を押さなくてもいいならば、今すぐにでも殴りたい程に。

しかし、対してハヤトは冷静に、カルマを左手で制し、


「言わせておけ。ああいう連中にはな、なに言ってもムダなんだから」

「でもさ!」

「だけどその代わりに――――」

ハヤトは、まっすぐな眼差しで『セーブ・ド・アース』の構成員達を見つめ、言った。



「――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



「……はっ! バカバカしい。んな未来、創れるワケ無いやろ?」

だがそんなハヤトの発言に対し、他の構成員達と共に連行中の銀一はそう言い返した。

「っ!! お前まで!!」

「だけど」

銀一の発言により、カルマの中でさらに激しい怒りが湧き上がる。

そして無意識の内にハヤトの車椅子から手を離し、銀一に近付こうとした。

が、その前に銀一は言葉の続きを紡いだ。



「お前やったら成し遂げてくれるって、今回ばかりは信じてやってもええで?」



『リーダー!!?』

その場に居る『セーブ・ド・アース』の構成員達が、まさかまさかの、

リーダーの『裏切り宣言』とも言える台詞に目を丸くした。

だが、銀一は皆を裏切ったワケではなかった。

その証拠に、さらに言葉を紡ぐ。

「けどな……もしそんな未来が創れなければ、ワイらの〝他の派閥〟が、

今回のよりさらに凶悪な事件を起こすから……覚悟しとき」


「えっ!!?」

「い……いったいどういう!!?」

カルマだけでなく、今までなにも喋らなかったかなえも、驚きの声を上げた。

2人は深く〝コチラの事情〟を知らないのだから、ムリもない。


ハヤトはすぐに、2人に説明してあげた。

「『セーブ・ド・アース』の構成員は、ここに居る人達だけじゃない。()()()()()()()

おそらく銀一は、星川町に仲間を侵入させる前に、他の派閥のリーダーと話をしたんだろう。

『俺達が目的を果たそうが阻止されようが、これからはもう少し様子を見てから事を起こしてくれ』

……みたいな感じで、さ。まぁ、相手がその頼みを聞いてくれるとは限らないけど」


「……大体そんな感じや」

銀一はハヤトの推測を聞いて、一瞬驚いたような顔をすると、悲しそうな目で微笑みを見せ、そう言った。

そして銀一は、ハヤトにはそれ以上なにも言わず、護送宇宙船の方へと、黙って歩き出した。

もうこれ以上、なにもいう事は無い。

そう、背中で語ろうとしているかの如く――――



「おいっ!! 〝ギン〟!!」



とその瞬間、ハヤトは銀一を()()()呼んだ。

銀一は、驚いて後ろを振り向いた。

そこには、銀一の両目を、真剣な眼差しで、力強く見つめるハヤトの両目があった。

いったいなんや?

銀一はふと思った。そしてそれとほぼ同じタイミングで、ハヤトは叫んだ。



「お前や、お前の仲間が絶対納得するような未来を創ってやるから、さっさと出所して帰って来い!!」



その言葉に、銀一は一瞬、不覚にも心を震わした。

力強い眼差し。そして言葉のせいだろうか?

もしかするとコイツなら、と思わず期待してしまう。

「……………阿呆」

だけど銀一は、敢えてそれを言わなかった。

言ってしまう事で、未来が予想外の方向へと、変わってしまうとでも思ったのか?

それとも、ただ単に恥ずかしかったのか?



……………まぁ、どっちでもええか。



そして銀一達『セーブ・ド・アース』は、宇宙警察と共に、地球を後にした。






事件が無事に終息し、再び平和を取り戻した星川町。

そんな町に自分達は無用と、わざわざ遠くから駆けつけてくれた

他の『異星人共存エリア』の【揉め事相談所】の所員の面々は、

各々が担当する『異星人共存エリア』へと帰ろうと、自分が乗ってきた宇宙船へと歩き出した。

とこの時になって、ようやくハヤトは、先程から気になっていた事を()()()()尋ねた。


「……さっきから気になってたんだけど、天宮はなんでここに居るんだ?」

今さらな感じもするが、状況が状況だったため、なんだか言いづらかったのだ。

ちなみに亜貴、麻耶、秀平の3人がこの場に居るのは、事件解決のための協力をしてくれたためである。

そんなハヤトの気を察してか、かなえは怒りもせず、真剣な目で、ハヤトに言った。

「アンタに言いたい事があるの」

「?? なんだ?」

眉をひそめながらハヤトが尋ねると、かなえはハッキリとした声で、言った。






()()……………()()()()()()()()()()()()











同時刻

星川町 隔壁の頂上


星川町の隔壁は、未だに下がっていなかった。

まだ完全に、ウィルスが除去されていないためだ。

そんな隔壁の上に、1人の少女が居た。

金色のショートヘアを生やした、蒼いの目の、中学生くらいの少女。

『セーブ・ド・アース』では〝ケイティ・ハワード〟と呼ばれていた少女。

ケイティは、まだ捕まっていなかったのだ。


ケイティは、風になびく自分の髪を左手で押さえながら、

右手に持った携帯電話を右耳に当て、誰かと話をしていた。

「ああ。()()()()調()()()()()()()()。来年くらいには〝完成〟するだろう」

ケイティは相手にそれだけ伝えると、一方的に携帯電話の通話を切った。

視線を、星川町に在る〝目的のモノ〟へと、向けたまま。

「次会う時が……楽しみね」











――――to be “2nd Season”












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