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小さな恋人

 六月も後半へと時間が進むにつれ、空気はどんどん水分を増し重く息苦しいものへとなっていく。薫も流石に夏服になっていた。そうすることで更に爽やかさが増し、格好良くなった気がする。いや、顔が良い奴は無個性な制服であろうが、ジャージ着てようが格好良いのだと、薫を見て良く分かった。なまじ同じ服を着ている分、周りとの顔の比較もしやすいのだろう。女の子はそれに直球で反応してくる。

 僕は昔から女の子から恋愛相談はされるものの、告白なんかされた事は無い。しかし薫は良くラブレターなるものを貰ったり、告白されたりしている。その現場に居合わせた事も何度かある。その度に困った顔で断わっているようだ。


 今日も食堂で一緒に食べていたら、一年の女の子にラブレターをいきなり渡されるという事があった。薫は無理矢理押しつけられる形となった手紙を見つめ困った顔をして溜息をついている。

「しかし、またラブレターとは羨ましい」

 廊下を歩いていると、一緒にその現場に居合わせた清水がしきりに、薫にその言葉を繰り返す。薫の唇が突き出てきて不機嫌になっていくのが分かる。その言葉を止めさせようと僕は清水を小突く。

「……トイレ行ってくる……」

 薫はボソッと呟くような声で僕達に断ってから、さっさと足早に離れてしまった。

「え、次、体育だから急がないとヤバいよ」

 僕の言葉は聞こえたかどうかも分からない。あっという間に視界から消えてしまった。

「お前が怒らすから、大丈夫かな? 薫」

 僕は若干咎めるような目で清水を見た。そんな僕に目を大きく開け顔を横に振り清水は露骨に心外だと言わんばかりの表情だ。

「顔良いよな! モテモテだよな! って誉め言葉じゃん、それで怒りだすなんて、訳分からないよ!」

「お前しつこかったし、薫は薫で色々苦労も多いのでは?」

 僕達から見たら羨ましい状況でも、実際そうだと分からない苦労があるんだろう。

「でもさ、アイツって告白してきた子から、ちゃっかりタイプの子選んで付き合っているじゃん」

 薫は選んでいるというよりも、せまれまくって付き合っているように見える。

「薫の好みのタイプ?」

 イマイチ理解出来ず、つい聞いてしまう。 

「あいつが付き合う子って、小柄でロングヘアーの子ばかりだろ?」

 ばかりといっても、二人しか知らないけど、確かにその二人はそんな感じだったかもしれない。一緒に出かけた時もそんな女の子見て「あの子、何がいい」とつぶやいたりしているのを聞いた事も一度ではないような。確かに言われてみたらそうなのかも。そんな事を考えていたら、清水が妙に真剣な顔でコチラを見ている。

「……所でさ、星野は彼女いるの?」

 清水は、おずおずっという感じで聞いてくる。

「小学校の時に、らしき相手はいたけど……」

 僕の言葉を聞いた途端に清水は元気を取り戻す。

「それは、彼女に換算しちゃあいかんやろ! 良かったお前は仲間で! 星野って平然と『いるよ』とか言いそうで怖かったんだ」

 異様に喜んでニヤニヤしている清水を見ているとなんか、なんか恥ずかしくなってきた。まあこの年まで彼女いないというのは、遅れているとまでは言わないけど人に改めて告白する事でもなかった。僕は赤くなりながら、更衣室の扉をあける。もう着替えて始めているクラスメイトもいて、更衣室特有の汗と埃に満ちた匂いでムワっとしていて僕は思わず顔をしかめる。

 さっさと着替え、体育館へと向かうことにする。すでにそこにいるクラスメイトを見渡すけど薫の姿はまだなかった。時計を見るともう授業始まるまで一分もない。大丈夫かなとハラハラしてしまう。始業のチャイムが鳴り終わるというタイミングで薫がやっと体育館に入ってきた。逆光のせいだろうか? なんか顔色がチョッ悪くみえた。


小さな恋人(bVICTOR...PENDANT QU’IL)

1998年フランス映画

監督・脚本:サンドリーヌ・ヴェッセ

キャスト:ジェレミー・シェイ

リディア・アンドレイ

マチュー・ラネ

スカン・ゲニン

シャンタル・マルベール

ポーレット・ベンソン

ニコル・リシャール

マリリン・デストール

ローラン・フリュルー

カテリーヌ・ウィンターマン

アンドレ・ヴェッセ

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