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アダプティッドチャイルドは荒野を目指す  作者: 白い黒猫
手探りで進む未来への道
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明日、君がいない

 大学での生活は全てが新鮮で刺激的で俺にとっては楽しいモノだった。自分で学ひたいモノを選択出来るという事が面白く、つい欲張りな程講義を入れてしまった。勉強がこんなに面白いモノであるというのを大学で知ったような気がする。また経済学を学ぶ事でより世界の見え方が広く大人になった気がした。大学は俺にとって初めて実感する自由と大人の世界だった。しかし薫はかなり違っていたようだ

「自由か~。本当の意味での自由って何なのだろうね。全てを捨てる覚悟を持てば手に入るモノなのかな?」

 何故その時薫が俺に電話をかけてきたのかは未だに分からない。本人曰く『……別にただ、誰かと話したかっただけ』そう言い何でもない事をダラダラと話をしていた。そんな話の流れで俺の大学での話を色々していたら。薫がそんな事を言ってきた。

「薫?」

「ん?」

「何かあったの? なんか変だよ」

 俺の言葉にフッとなんからしくない感じで笑う声が聞こえた。

「……何もないよ。何も。ただ疲れているのかな。ウチの学校は思ったやり色々勉強すべき事も多くて……」

 確に俺の大学とはまた違っていてより専門的な内容を学ばなければならなくて大変なのだろう。そう考えあまり深く聞く事もしなかった。

「でも薫なら、そう言いながらも頑張っちゃうんだろうな。でも息抜きしたいときはいつでも言ってよ! 酒付き合うし、話聞くし」

 そして返した俺の言葉にフフフという笑い声が返ってくる。

「ありがと! 頼りにしているよ!」

 そんな言葉を言っていたくせに薫はこの一週間後俺の人生から忽然と姿を消す。


 しかも百合ちゃんが泣きながら俺に電話をしてきた事で俺はその事を知る事が出来た。


[君が言った通りだね、結局人は、欠けている自分を受けいれて一人で生きて行くしかない。それを思い知ったよ]


 百合ちゃんに薫からいきなりそんなメールが薫か届いたらしい。百合ちゃんは驚いて薫に電話をするけど全くつながらず、メールを返しても返事がくる気配がない。そのまま薫の家までいったらしい。そして薫が両親と喧嘩して家を飛び出した事を知らされたという。

 薫のお父さんは百合ちゃんに『一応財布は持って出かけた事もあり心配はないだろう、【頭が冷えたら戻って来い】とメールと伝言ダイヤルを送っておいたから、気分が落ち着いたら家に帰ってくるだろう。

 逆に女の子の君がこんな時間に出歩くのは問題だ。家に帰りなさい』と言って帰らされたらしい。

 俺もそれを聞き、すぐに薫に電話するが出る気配がない。仕方がないからメールで連絡が欲しい。もし良かったら俺の家に来ないか? とか連絡を入れてみるがまったく返事はなかった。

 電話で話をしているうちに薫から連絡がくると困るので百合ちゃんとメールで会話をする。

『何があったのかな? 薫さん。薫さんのお母さんすごく興奮していて全然会話にならなかったの』

『薫さん、ずっと悩んでいたから……』

 百合ちゃんのそんなメールを読みながら、薫への心配が膨らんでいく。しかし同時に俺の中で嫌な感情が蠢く。


 薫は結構百合ちゃんには色々悩みとかうちあけていて弱さを見せていたんだ……。


 何故薫は俺にではなく、百合ちゃんに先程のメールを送ったの?


 その二つの事に怒りと哀しみも感じる。それは薫にとって俺よりも百合ちゃんの方が特別な存在だったから?

 百合ちゃんも口は堅く薫の悩みの内容は俺にも話してくれなかった。そのことにも苛立ちを感じる。色々な感情を渦巻き眠れないまま朝を迎えた。

 結局薫からのその後の連絡は俺にも百合ちゃんにも入ってくることはなかった。勿論薫は自分の家にも戻らなかった。


 父親の方には【互いにしばらく冷静になる為に離れた方が良いと思います。心配しないでください。ずっと相談してきた友人の所でお世話になることにしました】と連絡があり。

 百合ちゃんには【受験の大変な時に、騒がせてしまってゴメンね。ヒデにも心配かけてしまって悪かったと謝っておいて。ボクはもう大丈夫だから。でも少し自分を見つめなおしたいんだ。色々自分の問題を乗り越える事ができたら、また三人でデートしようね。だから今は一人で考えさせてね】そんなメールで失踪する。

 その後俺は薫に【話を俺でよければ聞くよ】とか【良かったら飲まない?】とか誘いのメールを出すが一切返事が返ってくることはなかった。



【結局人は欠けている自分を受け入れ一人で生きていくしかない】


 それは百合ちゃんが薫と初めて会ったときに言っていた言葉。その言葉の意味を俺は考える。

 薫がいう事の【欠け】の意味は分からないけれど、それは俺も百合ちゃんも誰もが抱えているもの。だから寄り合いそれを補いあいながら生きていくのが人間なのでは? と俺は思う。

 何故【一人で生きていく】としてしまうのか?

 俺は、百合ちゃんや薫と言う存在によって、その欠けを埋めて幸せになっている。

 でも薫は? そこまで考えて俺の心は重くなる。友という俺と言う存在が薫をまったく救ってあげることが出来ないという無力感と同時に感じるのは申し訳ないという気持ち。

 薫にとってそれを補える相手を、俺が奪ってしまったから薫は一人で生きていくしかなくなったのだろうか? そういう感情が俺を支配する。だからといって俺には何をする事も出来なかった。


明日、君がいない

監督ムラーリ・K・タルリ

原題 2:37

キャスト テリーサ・パーマー

ジョエル・マッケンジー

クレメンティーヌ・メラー

チャールズ・ベアード

サム・ハリス


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