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アダプティッドチャイルドは荒野を目指す  作者: 白い黒猫
手探りで進む未来への道
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青春の美酒

 四月になり大学生になった。俺なりにかなり頑張って勉強しやっと入れた大学ではあるものの、入ってみるとそれは季節の移り変わりの一つのような変化でしかなかった。俺は俺のままだし、同じ場所で暮らし生きている。


 とは言え俺は、新しい環境で頑張る自分というのを楽しんでいた。高校での勉強とは比べ物にならない程学ぶ内容は面白い。また大学ならではの自由さが俺に大人に感じさせ嬉しかった。

 百合ちゃんと毎日は会えないのは寂しくはあったけど、勉強を教えてあげたり、進路の相談に乗ってあげたりとしていた事でる事で、以前より百合ちゃんを導ける存在になっているように俺を錯覚させていた。

 百合ちゃんはデザイン系の短大を受ける事を親から許されたものの、そこに落ちた時のためにと文科系の大学も受験させられと、かえって勉強すべき物が増えるという面倒な状況となっていたし、そのことが彼女をさらに追いつめているところもあった。美術的な部分では全く役に立たないけれど、勉強のことは俺の得意分野。その部分を手伝う事で俺は家庭教師をしながら百合ちゃんを応援した。


 薫や清水とはメールでのやり取りが中心で近況を報告するといった感じで関係は続く。薫と百合ちゃんの友情はまだ続いているようで、百合ちゃんの携帯に薫からのメールが届いているのは何となく感じていた。というか、百合ちゃんは薫からのメールが来ている事を隠す事もしなかった。そして俺は敢えてその内容を確認する事もしなかった。というか出来なかった。二人を疑ってのことではなく、自分への自信のなさから。そして薫とはメールで友情を継続し、百合ちゃんとキスして身体を繋げ、愛を確かめ合う。

 薫とは医学部も忙しいらしくなかなか会うことも出来なかった。そんな時に高校の同窓会が開催された。半年くらいだとそこまで積もる話もないかも思うのだが久しぶりにクラスメイトに会うのも面白そうだから、俺と清水は参加した。しかし薫はというと忙しいし面倒くさいといって来なかった。

 渋谷の居酒屋で集まり、酒を飲みながら皆で騒ぐ。コレも大学生になったから味わえる楽しみ。さほど変わってないのに、皆で大人な自分をひけらかしあう。後になれば青くてバカな集団なのだが、皆が大人っポイ世界に浮かれていた。

 そんな中で、話題は薫の事になる。女子は将来医者ならば、高校時代捕まえるべきだった。と肉食系の事を言い男性陣を引かせるような話をしていると、吉田がビールを煽り、顔を顰めるように笑う。

「でも、アイツ落とすの無理なんじゃねぇ? お前らなんかに興味ないから」

 ニヤニヤしているその表情に俺は嫌なものを感じる。言われた女子も思いっきりムッとした顔をする。

「俺みちゃったんだよね~アイツが新宿で歩いているの」

 意味が分からず俺は首を傾げる。

「三丁目で男に肩組まれ歩いてたんだ。すっげ~親密そうに」

 嫌らしく笑うその表情に怒りが込み上げる。思わずグラスを強くテーブルに置いてしまうと、吉田はやや驚いた顔をする。

「お前らはよくアイツとつるんでいたから、鈴木がホモというの不快かもしれないけど、顔とか寄せ合って絶対変だったんだよ」

 俺は吉田を睨みつつも深呼吸して心をなんとか落ち着け笑みを作る。

「アイツをネタで笑いたいのは分かるけど、それはないよ」

 横で清水もフフフと笑う。

「だよな、逆に女好きと言うと語弊あるか、好きなタイプハッキリしていたもんな。可愛い女の子大好きでさ」

 その途端に、女性陣の目が清水に集中する。

「そうよね~理子とかと付き合ってたしね! で、清水くん、鈴木君ってどういう子が好きなの」

 そして吉田を放置で、薫の話で盛り上がる。思っていた以上に薫って人気あったようだ。薫に不名誉な噂なんて根付く事ないくらいに。その事にホッとしながら、俺は改めて薫が好きな相手で盛り上がっている皆の話を聞きながら百合ちゃんの事を考えていた。

 友達の後輩と未だに連絡を取り会うくらい仲の良さを見せている薫と百合ちゃん。ソレってやはりスゴイ事だと思う。実際同じ部活で先輩後輩でありそれなりに仲の良かった清水と百合ちゃんはメールのやり取りなんてしていない。待ち合わせの時にフフと携帯を見つめ笑う百合ちゃん。近づいて聞いてみると薫からといってニッコリ笑いその内容を教えてくれる。その様子からも他愛ないやり取りを楽しんでいるだけなのは分かるのだが、問題はその頻度。俺や清水によりも明らかに多くのメールを薫は百合ちゃんに送っている。その薫の気持ちは何なのか? 悩むまでもないその答え。俺はため息をついた。


 同窓会のあった後、薫にメールではなく電話をした。すると高校時代と変わらないノリの薫が出てきてホッとする。

「前がこなくて残念がっていたぞ、みんな」

 同窓会の事でそう話すと、薫は『ウーン』と困った声をだす。

「離れてみて分かった、卒業してからも会いたい人って、一握りなんだなと。だったらお前とか清水とかと個人的に会ってジックリ話するほうがいいかな」

 その言葉に喜びを感じる。百合ちゃんとの事で薫をやや邪魔に感じつつも、薫という人間がどうしようもなく好きな自分も再確認する。そして俺は次の週、薫と清水との三人で集まり飲む事になった。

 同窓会であった清水はそこまで高校時代とは髪型も雰囲気も変わっていなかったが、やってきた薫を見て俺は少しビックリした。細身のシャツとパンツにやわらかいジャケットとお洒落さは相変わらずで、さらに髪を伸ばしていてさらに恰好良さが増しているように思えた。そして相変わらず約束の時間より遅くやってきた。

 俺の表情に薫は怪訝そうな顔をする。

「いや、なんかチョットしたアイドルみたいだな」

 そう言うと、薫は困った顔をして、清水に助けを求めるように視線を向けた。

 見た目は少し変わったとはいえ、話してみると高校時代と変わらず、ただお酒をを呑みながらこうして話すというのも不思議な感じだった。

 互いの近況を話しているのだが、清水はお酒入るとやや饒舌になるようで、反対に薫は言葉が減っていく。気だるげな様子で壁に凭れ、俺達の様子を見つめる薫の表情。この時は気にしていなかったけれど、後あとでこの時の薫の何処か思いつめたような目を思い出す事になる。その時はそんな事も気が付いていなかった。いや高校時代から薫は悩んでいた。だけど俺はどのタイミングでもそれに気が付いていながらただ一緒に過ごしていた。

 マッタリとしたモードからさらにお酒入ると薫はテンション上がるようだったその飲み会の最後の方は薫が逆に一人でしゃべっていた。

「やっぱ、このメンバーって最高♪ 気使わなくてもいいもん♪」

 上機嫌で今度は俺に凭れ、顔を近づけそういった言葉を繰り返す。

「何? 友達できないの?」

 清水の言葉に、薫は「ウーン」と顔を顰める。

「まあ、話するヤツはいっぱいいるけど、まだ地が出せないっていう感じ~?」

 清水はその言葉にフッと笑う。

「なんだ、またお前お澄まししているんだ」

 薫は思いっきり顔を顰める。

「最初から、この我儘モードでいけないだろ~」

 俺はその言葉に首を傾げる。

「むしろ、その方が薫って、面白いと思うけど」

 俺の言葉に清水も『だよな~』と頷く。

「ぜってぇ、お前はまんまの方が面白いから、さっさと猫脱いじまえよ」

 清水にそう言われ、薫はお酒のせいだけでなく顔を赤らめた。

「でも、難しいよ! そういうの。それにまんまの僕なんかを見せたら……」

 唇突き出して為息つく薫は相変わらずで、二人で笑ってしまった。この夜が楽しかったので、また同じように会おういう言葉でその夜は分かれた。

 卒業しようが、環境変わろうが変わらずこうして続いていく関係がある。大好きな友人とのお酒を飲みながらの気の置けない会話。こういうのが出来るようになったのも大人ならではの楽しさなのだろう。

 そして親友たちとの新しい付き合いの仕方を始めた俺達だった。でもお酒を呑むという事が、人の距離をさらに近づけるものではなかった。


青春の美酒(Wine of Youth )

製作年 1924年 アメリカ

監督キング・ビダー 脚本ケイリー・ウィルソン

キャスト

エレノア・ボードマン

ジェームズ・モリソン

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