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アダプティッドチャイルドは荒野を目指す  作者: 白い黒猫
手探りで進む未来への道
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明日から大人だ

 受験の為部活も引退し、塾にも通うことで月ちゃんと会う時間は激減した。毎朝の通学時間は一緒だったし、毎日メールや電話などでお話していることで寂しくはなかった。

 そして百合ちゃんとそんな忙しい時間を縫って会うのも俺達の楽しみでもあった。そしてコソコソと二人で会ってキスしたり、抱き合ったり。コソコソする必要なんてないのに、そういう背徳っぽい行動をする事がまた俺達をドキドキさせていた。


 今日も塾までの三十分くらいの時間を駅前のファーストフード店で会って会話する。道路に面した窓際のカウンターにて二人で並んで座っていた。二人で他愛ないこと離しながら二人は意味もなく手を繋いでその相手の手の感触を楽しんでいた。傍から見たら本当に恥ずかしいバカップルだったと思う。実際薫にも清水にも『お前ら見ていると、背筋がムズムズするよ~』とからかわれていた。でもそんな言葉を照れながらもどこか誇らしげに思っていたりもした。

 そんなイチャイチャしていた俺達の窓の前に、誰かが見ているのに気が付いた。百合ちゃんが先にその視線に気が付き不思議そうに見つめている。そして俺もそちらに目をやってギョッとする。

 祖母がニコニコ笑って俺に向かって手を振っていたから。

「初めまして、月見里百合子です。星野先輩にはお世話になっています」

「狩野美奈子、秀明の祖母なの、よろしくね~。

 百合子ちゃんって呼んで良いかしら?」

 笑顔で挨拶しあう、祖母と百合ちゃんの間で俺は浮気の見つかった男性ようにオロオロしていた。

「もう、こんなカワイイ彼女がいるなんて、なんでもっと早く言ってくれないの!」

 祖母の言葉に顔を赤くして俯くしか出来なかった。

 でもこの事がキッカケで、僕と百合ちゃん世界に祖母という存在が加わる事になった。強力な味方という形で。祖母にとっては、娘という存在が再び自分の元に戻ってきた感覚だったのかもしれない。

 互いの連絡先交換をしていて、気が付けば俺抜きでも買い物をしたりしていたようだ。百合ちゃんと一緒に選んだ俺の服とかそういったモノが俺に出されるようになり、デートに俺の家という選択肢が増えるようになったのもこの後からだった。

 そういう事で気になってくるのが、百合ちゃんの家族についてだった。何故か彼女は家族の事を殆ど話さない。門限は九時という事からも、しつけには厳しい家なんだろうな? とは思う。部活においても、突然の集金の時にお金をむき出しでなくポチ袋に入れて渡してきた。『お金を適当に受け渡ししてはいけないって言われていて、いつも持ち歩いているの』と言ってきた時は驚いたものである。祖母が『良い子よね~ご両親の教育も良かったのでしょうね~』とか言っていたところからも、厳しい家庭で育ってきたのあろうと思う。

 そしてその年は、三人で初詣に行き、三人で僕の合格祈願をして、俺は二人に見守られながら入試試験に挑む事になった。

 二人の祈りの甲斐もあってか、合格発表の時自分の番号が壁にあってホッとした。その夜祖母と百合ちゃんという、愛する家族という大切な女性二人に祝福されて家でささやかなお祝いをしてもらい、俺は最高に幸せな時間を感じていた。そして同時にもし俺と月ちゃんが結婚したら、こういう感じで、三人でずっと楽しく暮らしていくんだろうな。なんて事を考え始めたのがこの頃からだったと思う。百合ちゃん以上に好きな人なんて出来る筈もないし、そうする事が一番自然な事だと思っていたから。一緒になること俺にとって当たり前の事。だから迷うとかいう以前の事だった。『ひでくんと一緒にいるときが、一番安らぐ。ずっとこうしていたい』抱き合っているときによくそういう言葉を百合ちゃんが言っていた。家に帰るときに悲しそうにしていたのも、俺と別れるのが寂しいというだけでなく、家に帰るのが嫌だったからにも感じた。それだけに、彼女も俺の勘違いでなく俺との将来を願っていたと思う。


 大学生になるという事で、自分がさらに大人になるという事がよりそういう想いを強くしていたと思う。祖母に隠れて百合ちゃんと廊下でコッソリとキスをしながら、俺はより強く百合ちゃんの身体を抱きしめ、大人の男になるという事にも酔っていた。


明日から大人だ

製作年 1960年  製作国 日本

監督原田治夫 脚本星川清司

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