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アダプティッドチャイルドは荒野を目指す  作者: 白い黒猫
何かが生まれていく季節
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動物の世界

 進路も目標が決まれば覚悟も出来て意外と気持ちはスッキリするものである。とはいえ進学塾にも通うようになり日常生活において勉強の占める割合が圧倒的に増えていった。勉強することは嫌いではないし、今までとは異なり具体的な目的に向けた勉強であるだけに、集中も出来た。テストの結果としてその頑張りが目に見えて表れててくることで、更に僕のやる気もあがる。逆に今まで自分がいかに本気を出していなかったという事を恥じるべきなのかもしれない。

 夏休みは塾や学校や夏期講習があり、当然昨年のように遊ぶ暇はなくなった。百合ちゃんとは毎日電話とかメールで連絡をとっていたし、二人の都合を合わせて短い時間でも会ったりするで淋しくはなかったし、百合ちゃんとそうして会う事でより頑張れた。百合ちゃんもオープンキャンパスや短期アートスクールに参加していたりして彼女は彼女で忙しそうだったので、多分淋しくはなかったとは思う。それだけ絵を描くという事に彼女は夢中だった。

 同じ進学塾に通っていたこともあり薫や清水と一緒にいる時間の方が多く、その時間はその時間で楽しかった。

 清水は弟の面倒をみなければいけないからとサッサと帰る事が多かったので、夏季講座の合間に百合ちゃんと会う時は薫と三人という感じになる。

 二週間ぶりの百合ちゃんとの一日デートは、二人っきりではなくなったのもその流れからである。『すごく観たい映画があるけれど一人でいくのは寂しいからお願い一緒に連れていって!』と薫に請われて断れなかった。その映画を清水は既に弟連れて観に行っていたようで僕達に声かけてきたようだ。


 出かける寸前に母から電話があり話をしていた為に、三分程遅刻して待ち合わせ場所につくと、当たり前だけど二人はもう到着していた。いや薫がこんなに早い時間に来ているのは珍しいかもしれない。

 百合ちゃんは携帯画面を薫に見せて何やら楽しそうに話している。二人で小さい画面を見ている為に顔を寄せあっている様子は。まるで恋人同士のようにも見えてドキリとする。改めて離れて見ていると薫は格好良い。赤と黒のチェックという大胆な柄のシャツを自然に着こなして決めている。背が低くて冴えない僕とは異なり、アイドル顔負けの甘いマスクに、背もあってスタイルもよく、性格だってすごく魅力的である。僕が女の子だったら、絶対僕より薫を好きになる。百合ちゃんの愛を疑うわけではないけれど、薫も百合ちゃんの事が好き、僕も百合ちゃんの事が好き、そういう意味では同じ立場だった筈なのに何故百合ちゃんが薫でなく僕を選んだのか、その勝因がまったく分からなかった。すごく仲が良いから、百合ちゃんは薫の事は嫌いではないはず。

 百合ちゃんが僕に気が付いて元気に手を振ってくる。薫も僕の方を向いて笑顔をみせる。その笑顔も爽やかでなんとも格好よくて僕を少し落ちこませる。

「ごめん、遅れてしまって……」

 平静を装って僕は二人に声をかけると『二人で楽しく話していたから全然大丈夫』といった答えが返ってきて、それはそれで引っかかった。

「ところで、二人で何を楽しそうにみていたの?」

 今まで、二人がどんな話をしていたのか気になってしまいそんな質問しまう。

「百合ちゃんが描いてくれたんだ! 僕のイメージマスコット」

 百合ちゃんが携帯画面を此方に向けて見せてくれたのは、アヒルの(くちばし)がついた黒猫だった。大きくて切れ上がった好奇心に満ちた感じの目にアヒル口がどこともなく薫ッポイ。

「へえ、何か似てるかも」

 僕がそう答えると、描いた百合ちゃんよりも、薫が嬉しそうに頷く。

「だろ? 二人で考えたんだ! お前や清水のもあるぞ!」

 そう言いながら、百合ちゃんの携帯をとり俺に画像を捲って見せていく。にっこり笑ったメガネかけたアルパカが僕なようで、ノンフレームのメガネをかけニヤリとしているキツネが清水のようだ。清水は確かに良く似ていて面白かった。アルパカの方は見ていてなんか不思議な気分になる。

「清水も薫も似ているね!」

 百合ちゃんは僕の方をチラリと不安気に見ている。

「アルパカは、なんか照れるね。僕ってこういうイメージなのかと思うと」

 百合ちゃんはまだ僕をジッと見つめている。

「ヒデは、絶対草食系で優しくアッタカイ感じだからアルパカってピッタリだろ!」

 薫の方が何故かドヤ顔である。アルパカがピッタリというのは、悪い意味ではないようだけど、悩む所がある。

「優しくアッタカイか。そう思ってもらえているなら嬉しいかな。ただアルパカって僕の中で馴染みない動物だったから、そもそもどういう動物だったかな? と考えていたんだ」

 百合ちゃんは『ウーン』と何やら考える顔をする。

「アルパカって羊や山羊とは違ってありふれていなくて、威圧感はないのに存在感はシッカリあって、大きくて、温かく穏やかで見ていてホッコリ幸せになる感じですよね」

 つまりは百合ちゃんから見て、僕はそう見えているというらしいと知り、嬉しいと同時に照れてしまう。

「有難う、そんなイメージに例えられて光栄だよ。それにこんなに可愛く素敵に描いてもらえて嬉しい。この絵、携帯の待ち受けにしたいな。今度送ってよ!」

 僕の言葉に百合ちゃんはやっと嬉しそうな顔になり、元気に頷いた。

「ところで、百合ちゃんのキャラクターはないの?」

 そう聞くと百合ちゃんは途端に困った顔になる。

「確かに自分で動物イメージするのって難しいですね。私ってどういうイメージなのでしょうか?」

 改めて薫と百合ちゃんを繁々と見つめてしまう。そして薫と顔を見合わせて頷く。多分同じ事考えたのだろう。

「モチロン兎だろ」「兎かな?」

 同時に同じ動物を言われた百合ちゃんはビックリしたように目を見開く。彼女の戸惑いの意味はよく分かった。動物に例えられた時、その動物のどの部分に例えられたのかと色々考えてしまうのだ。

「こないだプレゼントした兎の縫いぐるみ、百合ちゃんに似ていて可愛いと思ったから選んだんだ。その印象もあって兎が浮かんだんだ」

 悪い意味ではなく、可愛いと思っているからというのを、遠回しに伝えると百合ちゃんはチョット照れた顔になる。薫と違って可愛いとか綺麗だとかいった言葉を言えない僕はこんな言葉でもなんか照れて視線を逸らしてしまう。

「じゃあ、そろそろいこうか」

 何故かニヤニヤしている薫にそう声かけて映画館に向かう事にした。


動物の世界 (The Animal World)

1956年 アメリカ


監督 アーウィン・アレン


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