青い棘
映画館のサービスと言うと、一日の映画の日が有名だが、水曜日の女性が安くなるレディースデイー、二十二日は夫婦の日でカップルだと二人で二千円になるといったものも知っている人も多いと思う。
他にも僕にはまだ使えないレイトショー(条例で高校生は使えない地域があります)やシルバー割引など通年通して行われているサービスだけでなく、配給会社や映画館が、ある作品に対してピンポイントに行うサービスがある。
映画をより楽しんで貰う為、映画に因んだ条件を満たすと割引になるものだ。赤いハイヒールを履いてきたらとか、牛乳を持ってきたら(豆乳は不可)とか、枕を持ってきたらとか割引。そう言うサービスを使って楽しむのも映画館で映画を観る楽しさなのだ。
今回観に行った映画は友達三人で観に行くと一人千円になるというサービスだった。映画の内容は、男二人と女一人の十年にわたる友情物語。とは言えそこの三人の間にあるものは友情だけでなく淡い三角関係がベースにあり、だからこそ切なさもあり盛り上がり面白い。男二人は女性を愛しているものの、親友であるもう一人の男性の良さを認めあっているからひくことも行動に出る事もできず、三人の世界を続けようとする。しかし、女性に第三の男性がアプローチをするようになりその関係が壊れていくのだが、この映画で、この割引システムは、なかなか考えさせるものがある。無邪気に楽しめるのは同性三人で行くパターンで、次は本当に友情だけで結ばれていて三角関係になり得ない三人となる。
この時の三人はどうだったのか? 月ちゃんにとっては、恋人と(本人曰く兄のような)友人。僕にとっては、恋人と親友。薫にとっては? その答えは分からないまま。
この映画を観たとき珍しく僕と月ちゃんの意見というか、映画を観る際の視点がズレていた。それは仕方がない事とも言える、僕と月ちゃんは性別が違うから感情移入する対象が異なり、違う見方を示唆してくる事は無いことはなかった。しかしそれは視点が異なったモノだけど、言われて見て僕も納得のいくものでさらに広がった映画の世界を楽しんでいた。
しかしこの映画の時は珍しく対立して同調できなかった。二人の男性に常に変わらず接してくる女性の行動を月ちゃんは優しさととり、僕は残酷さとしてとった。そして当然男性で僕と同じ感覚を持つと思われた薫も、月ちゃんと同じ意見を言ってきた。
「あの男達は二人がかりで女性を追い詰めて酷いよな。結局愛よりも現状維持を第一という状況をとったから、女性はああいう行動を取らざるを得なかったんだよ」
しかも、薫は男性二人に対して怒りの言葉を言ってくる。僕はその言葉に首を傾げる、僕には逆に見えたから。
「でも彼女の、どちらの気持ちにも気付いていながら曖昧な態度をとり続ける姿が、二人を動けなくしていたのでは?」
僕には二人の想いに気が付いていながら、どっちつかずという態度で友情的な関係を続けた女性が理解出来なかった。明らかに片方を愛していたと言うのにその事を男性陣に伝えてなかった事が、事態をズルズルとした関係にしていったように思えた。僕の言葉に薫は首を横にふり、月ちゃんは困ったように眉を寄せる。
「ヒデは女心わかってないな、男が告白される状況を求めていなかったら、出来る訳ないじゃん、ねえ」
薫の言葉に月ちゃんも頷く。
「結局男性二人は彼女ではなく男の友情を第一に行動していましたよね?」
月ちゃんの言葉に、薫は『そうそう! そこなんだよね! だったらどちらもフラれてしまえ! って思ったよ! 僕は』と受ける。
「というより、二人は彼女には互いの方が相応しいと思い身を引いていたというべきなのでは?」
僕がそう意見を言うと、月ちゃんは少し悲しそうな顔をする。
「その部分が私ひっかかってしまって。なんで二人が彼女の幸せを勝手に決めるんでしょうね。彼女の事を本当に想うならば、彼女に選ばせれば良いのに。結局ふられる事から逃げているだけのところがチョット許せなかった」
そう言われて、僕は何も言いかえせなかった。薫の『そうそう、ソコ!』といい頷く。しかし何故自分よりも、明らかに男として上だとみえる人物が、同じように彼女を好きだと分かった場合どうして、自分が相手よりも彼女を幸せに出来ると想えるのだろうか?
「幸せにしてあげるという姿勢が、男の身勝手なんだよな」
薫が何故そんなに、この映画の男性二人に怒りを感じたのかは分からないが、唇を尖らせてそう呟いた。薫がこの主人公の立場だったらどう思うのだろうか? とも思い言葉に出そうとして、僕は止めてしまった。月ちゃんと意気投合して映画の話をしているのをみていると何故か聞けなかった。
真っ直ぐな薫ならば、友達に遠慮することまなく、堂々と友人と愛する相手に想いを告げるのだろうというのが想像できたから。それにどう考えても、顔も頭も性格もよい薫が、そんじゃそこらの相手に負けるなんて事ないから、この映画の登場人物のように悩む必要もないのだろう。
「とはいえ、こういう三角関係は盛り上るよね。意地が悪く、いけすかない奴が絡む三角関係よりも萌える」
「分かります! 選んでもう片方を傷つけるのが可哀想というくらい素敵で性格の良い人間同士で三角関係を作るからこそ、見ていて『あ~』と思いますよね」
「だよな、性格ブスが相手なら、私の方が素敵じゃん! だったらガンガン遠慮もなく行け~って感じになるよね」
ぼんやりしている僕の横で月ちゃんと薫が、仲良さ気に恋愛論で盛り上がっている。男女でありながら二人ともにヒロイン視点にドップリはまっていくように語られる議論が何処かズレた感じが微笑ましく見えつい笑ってしまったが、心の奥に何か気持ち悪い嫌な感情で胸がチリリと痛むのも同時に感じた。僕は、それが二人がかりで否定されたことの悲しさだと思い流したけれど、後になってその痛みの名前を知る事になる。