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アダプティッドチャイルドは荒野を目指す  作者: 白い黒猫
何かが生まれていく季節
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窓ノ外ノ世界

 いつものように、駅の改札を出て左手を見ると、月ちゃんと薫が楽しそうに会話していた。

 具体的に何処が違うと言うのではないけれど、月ちゃんと一緒にいる薫の雰囲気が、僕や清水といる時と全然違う感じがする。月ちゃんと同時に薫が笑う。不思議だ、二人は性別から顔立ちや身体つき全く違うのによく似て見えた。

 薫の表情はいつになくあどけなく柔らかい。僕がいつも見ていている薫と、月ちゃんと一緒にいる薫、どちらが素の薫なのだろうか? と馬鹿な事を考えてしまった。


 僕が近付くと同じタイミングで二人はコチラを見て、同じ無邪気な笑顔が僕に向けられる。

「おはようございます星野先輩!」

 笑ったままの月ちゃんとは異なり、薫は僕を見て首を傾けた。

「オハヨー! どうしたの? ヒデ、不思議そうな顔をして」

 薫に指摘され、少し慌てる。

「あ、おはよう。いや、あのさ、何故かソックリに見えて、二人が」

 月ちゃんと薫は、同じように目を見開き、顔を見合わせるが、互いの顔を見て首を傾げる。

「お前と、百合ちゃんなら分かるけど、僕らが? 眼、大丈夫?」

 月ちゃんが、少し膨れた顔をする。

「似てないのは認めますが、そんなに似ているというのを嫌がられると、傷つきますよ!」

 その言葉に僕は笑ってしまうが、薫は慌てる。

「嫌、本当にそうだったら嬉しいけど、似ている要素が全くなさそうだから」

 薫がチラリと僕を見てフォローを求めてくる。

「全く似てないと思った二人が、何か同じ空気出してだから、不思議だったんだ」

 言ってから、何か少し傷つく。月ちゃんと薫が近い世界にいる人間に感じたから。

「ま、兄妹だからね~似ているのは、まあ当然なのかもね!」

 薫はニカリと笑い月ちゃんの方を見下ろす。月ちゃんもその言葉にヘラっとした笑みを返す。その表情はまったく違うのに、何処か似ていると思った。このゴッコ遊びはまだ、二人の中で続いていたようだ。月ちゃんは僕に視線を動かし、そこで『あ!』という顔をして、唇がある『エイガ』と動く。そこで僕もある事を思い出す。

「ねえ。薫! 今度三人で映画みにいかない?」

 僕の言葉に薫は首を傾げる。そして僕と月ちゃんの顔を不安げに交互に見る。

「なんで? 僕いってもお邪魔じゃない?」

 月ちゃんは笑い首をブンブンと横にふる。

「そんな、薫さんが邪魔な訳ないじゃないですか! 三人で行きましょうよ」

 ヘラっと笑う月ちゃんを疑わしそうに薫は見下ろす。そしてチラっと僕の方を確認するよう見てくる。

「実はね、友情割引をやっている映画があって、三人で観に行くと一人千円になるんだ」

 薫は納得したように頷きそして、眼を細める。

「なるほどデート代を浮かそうというわけね。それでもしかして映画終わったら用済みで捨てていくと」

「イヤイヤイヤ」「イヤイヤイヤ」

 僕らは同時に否定をする。そして思わず顔を見合わせてしまう。そんな僕らに薫がブッと吹き出す。

「分かったよ、付き合ってやるから! その代わり三人で楽しめるようにしてよ! 三人でいるのに仲間はずれは嫌だから」

 月ちゃんはチョット拗ねた口調で言う薫にクスクスと笑う。

「そんな訳ないじゃないですか。それに久しぶりに三人で出かけるのが楽しみ」

 確かに僕らが付き合い初めてから、二人での世界にどっぷりはいっていた事もあって、この一ヶ月ずっと二人だけで出かけていた事に僕は改めて気が付く。夏休みはあんなに三人で出かけていたというのに。春休みはほとんど月ちゃんとだけ過ごしていて、月ちゃんだけを見ていたように思う。この春休みを後でいくら思い返しても、月ちゃんとどういう話をしたのか? 月ちゃんがどんな表情で話をしていたのか? といった事は鮮明に思い出されるのに、他の事となるとぼんやりしていて殆ど思い出せない。一緒に暮らしていた筈の祖母の姿すら記憶の片隅にもないってどういう事なのだろうか?

「そうだね、久しぶりの三人のデート楽しそうだね」

 薫が明るくニカっと笑う。僕もその顔に釣られて同じように笑ってしまう。付き合い初めて一ヶ月で、僕はやっと周りに意識がいくほど落ち着きを取り戻していた。そして改めて月ちゃんと僕の二人と世界との関係を考えるようになった。そして最初に見えてきた風景が薫の姿だった。一番僕らに近くて、最も僕らを理解していて応援してくれている存在。それは僕にとって最も力強い味方。

「デートか~ならお洒落していかないとね~ 月ちゃんはどんな格好していくの」

「まだ決めていませんよ! それに薫さんはお洒落だから、どういう格好していても格好いいですよ!」

 そんな風に楽しそうにじゃれ合う二人を、この時はまだ笑いながら見つめることが出来た。

「ヒデはどうするの? どういう服、着ていくの?」

 いきなり声をかけてきた薫に僕は首を傾げる。

「何で? まさか同じ格好なんかしてこないよね?」

 薫は顔を思いっきり顰める。

「それは、遠慮するよ。男二人がペアルックはイタ過ぎる。だからかぶらないように聞いてるだけ!」

 僕はその言葉に笑ってしまう。そして顔を横に振る。

「それは、ありえないだろ。薫みたいにお洒落な服もってないから、かぶりようがないよ!」

 薫は僕の言葉を聞き、何やら考えるように腕を組む。

「あのさ、彼女出来たから、少しは洋服とか気をつかったら! そうだ、ねえ百合ちゃん今度のデート、二人でヒデを着せ替え人形にして遊ばない?」

 月ちゃんは薫の言葉に嬉しそうに眼を輝かせる。

「楽しそうですね! 二人で星野先輩をコーディネートするんですね! やりましょう!」

 僕は盛り上がる二人を困ったようにみているしか出来なかった。こうなると僕一人で対抗できるものではない。

 結局そのなんとも不思議な薫を交えたデートは、学校が休みの入学式の日に決行する事になる。僕もこの時はすごく三人で出かける事を楽しみにしていたし、三人ともそうだと思っていた。いや三人とも楽しみにしていたのは確かだろう。でも無邪気に楽しめる時代が終わっていた事をこの時、僕は気が付いていなかった。


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