恋愛上手になるために
恋愛と言うものは楽しいモノである。と無邪気に言えるのは両想いになれて、僕らがまだ幼くただ自分の事だけ考えいれば良い年齢だったから。
登下校時間と、週末は二人きりに世界を楽しんでいたが、部活では恥ずかしいので互いに「普通の先輩後輩ですよ!」という体で、清水とか一人挟んだ距離過ごした。他の部員と話している月ちゃんがふとコチラを視線を動かした事で目が合い、賑やかな部室の中でコッソリ微笑み合うといった瞬間も堪らなく楽しかった。
「もう付き合って一月くらい経つけどさ、月ちゃんと、もうキスとかしたの?」
昼休み、弁当を食べている時、清水がそんな事いきなり聞いてきて僕は思いっきり咽せる。恥ずかしさと咽せによる酸素不足の為、頬が熱くなるのを感じながら僕は頭を横に振る。
「あのさ、ここまでの遅すぎるペース考えればわかるだろ!」
薫がどこか突き放したような冷たい口調で清水に代わりに答える。『遅すぎるペース』って何がだろうと思いつつも頷く。そりゃキスとかしたいけど、映画みたいに恋人同士になって直ぐと言うわけにはいかない。しかも僕らはまだ高校生だ。と思いつつも二人の顔を見る。清水は明らかに『まだなのかよ!』という顔していて、薫は何故か怒っているような、むくれているかのような顔をして、清水を睨んでる。
まだ彼女がいたことない清水はともかく、少なくとも知っているだけで三人の彼女がいた薫はどうなんだろうかと考えてしまう。月ちゃんにも何の戸惑いもなく抱きついたり出来る薫だから、僕みたいに躊躇なくキスとか出来そうだ。薫の薄くて形の良い唇を思わずジッと見つめているうちに、女の子と薫がキスしている姿を想像してしまい恥ずかしくなり、慌てて首をを振る。その想像での相手の女の子か月ちゃんだった事は気付いてない事にした。
そんな僕を清水がいやらしくニヤニヤして見ている。
「何? 想像しちゃった? 月ちゃんとのラ・ブ・シーン!」
その言葉を僕は必死で否定する。薫も苦笑しているのを見ると同じように思ったのだろう。かと言って薫と月ちゃんがキスしている姿を想像してた何てもっと言えない。もじもじと薫というか薫の唇を見てしまう。
そんな僕が怪しかったのだろう、薫が怪訝そうに眉を寄せ、『何?』と言葉でもきいてくる。
「薫は……いつも……どんな感じでなの? ……キスとか……」
ポカンとした顔をしたあと、今度は薫が慌てだす。
「そ、そんなの、何となくだろ!」
清水が好奇心タップリのニヤニヤ顔を薫に向けたのをみて、ちょっとまずかったかな? とも思うが、清水は僕よりストレートに聞きたいことを質問してくれる期待も少ししてしまった。
「余裕の発言だな~お前はどのくらいで相手とキスとか次の段階にいくの?」
その言葉に薫は、何時ものようにむくれるとかでなく、唇を突き出し困ったような戸惑うような顔をする。
「わかんないよ、そういうの苦手だから」
清水は、その言葉の意味が掴めないといった様子で首を傾げる。どんな事も要領よくやる薫らしくない発言であるから、僕も多分同じような顔をしたと思う。
薫は僕らの様子を見て、ますます窮する顔となる。そして深呼吸をして覚悟を決めたかのように口を開く。
「何時もさ、一ヶ月程した辺りで相手が求めてきてキスをするんだけど……その先になると上手くいかなくて、その気になれないというか……すると『私の事好きじゃないんでしょ!』とかなって…………『そうなのかも』という感じで別れてきたんだよね」
そこまで言って、不安そうに僕らを薫は見てくる。清水も戸惑う顔を薫に返す。こういう問題って、どう答えたら良いか分からない。
「別に、軽い気持ちとかで付き合った訳ではないよ! 相手を大事にしようとしたし、努力もしたし…………」
薫が僕らの表情を非難ととったのか、慌てたように言葉を続ける。その様子に清水が笑いだす。
「お前がそんなヤツじゃないのは、分かるって! そういう器用さやズルさお前にはない!」
清水の言葉に僕も頷く。同じ事思っていたから。
「遊びや軽い気持ちで付き合えないから! そうなるんだろ? ホラ! 男のアソコは繊細だというから。相手にガンガン詰め寄られてくると、ひくよな?」
薫がホッとしたような、困惑したような顔で清水をみて小さく頷く。
「しかし、モテる男の苦労も何か解ったよ!」
清水のからかいの言葉に、薫は『そんなんじゃないよ』とポツリと言葉を返す。
「鈴木君! 次は求められる相手じゃなく、君自信が求める相手を選びたまえ! そうすれば上手くいくから」
冗談ぽい演技じみた上から目線的な言い方をする清水。僕は内容というか、その親父臭い言い方に笑ってしまう。薫も笑って『お前に言われてもな~』とか言い返すかと思ったけれど、眉間に皺を寄せて、どこか痛みに耐えるような顔をしていた。その表情が気になり声をかけようとしたら目が合いジッと意味もなく見つめ合ってしまう。
「ヒデはさ……」
薫が酷く真面目な顔をして僕の名前を呼ぶ。
「ん?」
薫は顔を僕に向けたまま視線だけを逸らす。
「お前は、百合ちゃんにキスとか……とかしたい訳?」
余りにもストレートな問い掛けに動揺したのか、耳から入った言葉が反対の耳から出て僕の顔の周りをぐるぐる廻る。
「え」
言葉の意味を理解し、顔がカーと暑くなるのを感じた。ここで否定するのも不自然だが、こうして赤面して狼狽えて しまうと益々怪しい。思いっきり肯定しているのも同然で、僕がどこまで想定して慌てていると思われてしまうのだろうかとも考えてしまう。
「そりゃ愚問だろ! 散々想い続けて悩んで両想いになった二人だぞ!」
清水は僕の顔を見ながらニヤリとと笑う。しかし薫の表情はどこか暗い。
「いいけどさ……」
薫は僕の顔をジッと見て、顔を少し傾ける。
「お前は馬鹿しないと思うけど…………」
また薫がらしくなく視線だけ逸らす。
「避妊はちゃんとしろよ!」
丁度お茶飲んでいた清水が咽せる。そして僕は固まる。僕らの反応に薫は落ちつきなく顔をキョロキョロさせ顔を赤くする。
「いや、ほら! 兄ちゃんとしては、妹を大事にしてもらいたい訳よ! 僕だってこういう事言うの恥ずかしいけど、大好きな二人だから……良いお付き合いして欲しいだけだから」
薫がからかう為でなく、本気で僕らを思って言ってくれたのは分かったし、その気持ちは嬉しかったけど、照れ臭く僕は顔を赤くしたまま黙って頷いた。
清水も妙な空気になったこの場に照れたのかハハハと笑って誤魔化す。人としてある意味大切な話ではあるかもしれないけれど、高校生男子三人が昼間から真面目にするには、かなり恥ずかしかった。三人で恋愛論や、性的な話をするのが、コレが最初で最後になった。話題は強引に変わり三人は何故か必死で普段はしないどうでもよい芸能界の話題をして昼休みを終えた。
この昼休みの会話で、改めてセックスが単なる愛情表現の一つだけではないんだという事を僕は思い出す。恋愛にただ浮かれていた僕が、相手への責任というのを気付き少し冷静になった。月ちゃんを大事にして、男である自分が支えて守っていかなければならないという決意を覚えた日でもあった。大事にするのは兎も角、どう支えるのか? 何から守るのか? という事も良く分かってない決意ではあったけれど。
そして生まれて初めてコンドームを買ったのもこの日だった。大事にしたい、と思い最初にした行動がコレ。この事は後になって考えると滑稽だけど、それだけ僕は初めての恋に一生懸命だったし夢中だった。
恋愛上手になるために(The Good Night)
2007年 アメリカ
監督・脚本 ジェイク・パルトロウ
キャスト ペネロペ・クルス
グウィネス・パルトロウ
マーティン・フリーマン
ダニー・デビート
サイモン・ペッグ