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キスへのプレリュード

 月ちゃんと恋人になってからの三回目のデートも映画だった。無難なデートを過ごす為ではなく、月ちゃんは映画を一緒に楽しむには最高のパートナーでもあったから。同じ映画の同じ所を好きになり、その事で盛り上がる。二人で話す事で、その映画がどんな内容だったのかより明確に自分の中に刻みつけてくれたような気がする。月ちゃんと観た映画は沢山あるけれど、映画と共にその時どんな感じの会話を彼女としたのかセットで記憶に刻みつけられている。まあこの感覚というのは、月ちゃんと付き合う前の記憶も考えてみたら同じように僕の記憶に印象深く残っている。異なる事といったら、映画と同じくらい隣で観ている月ちゃんの事が気になってしまうという事と、あるシーンを落ち着いて観れなくなったという所なのかもしれない。


 今映画の中では主人公とヒロインがまさに熱いキスを交わしている。僕はそのシーンに動揺しスクリーンを見つめながらソワソワしていた。それまでは多少ドキっとしたものの、所詮他人事冷静に見れたのだが、恋人が出来た今、僕達もこういうキスをする事もあり得ると思うと、必要以上に意識してしまうのだ。

 後で考えると恥ずかしいくらい高校生らしい青過ぎる悩みで もっと他に大切なポイントあるだろうとこの頃の自分を叱りたいが、真面目にキスについて悩んでいた。人を好きになるのも初めてだったし、交際するのも初めての事。月ちゃんと一緒にいるときにどうしたら良いのか悩むという事はなかったものの、今後ありえるであろう展開については内心ドキドキしまくりの状況だった。


 単なるキスシーンであるのに、見つめ続けるのが恥ずかしくてチラリと視線を逸らし隣の月ちゃんを見ると、何故か目が合ってしまい二人とも『ハッ』という表情になり慌てたようにスクリーンに目を戻す。ここでドラマや映画だったら、ソッと手を出して握るといった事もするのかもしれないけれど、そんな事実際やったら月ちゃんをビックリさせそうだ。僕は必死で映画に夢中になっている振りをして、視野の外にいるはずの月ちゃんの気配をずっと意識していた。会場にライトが灯り月ちゃんと改めて向き合う。ヘラっと明るい笑顔を向けたきた。

「いや~バビエル・バルデムがイケメンフェロモン俳優だというのを、改めて気が付かされました。ノーカントリーの時は気持ちわるい得体の知れない人物の印象しかなかったから」

 男一人と女性三人が繰り広げる奔放すぎる恋愛模様を描いた映画を観た後なのに、あえてそこから語ってきたというのは月ちゃんなりの照れ隠しの言葉だったのだろう。

「ノーカントリーの時は髪型も酷かったからね~」

 周りのカップルのように、イチャイチャとするする事も出来ず、僕も月ちゃんの明るい口調に合わせて勤めて感じの言葉を返す。映画やドラマだと二人が想いが通じ合った段階でハッピーエンドとして終わるものの、これが現実だと寧ろその後の時間の方が大事である。


 もちろん月ちゃんとこうして一緒に出かけるのも楽しいし、喋るのも嬉しいし、ただ側に黙って二人でいるのでさえ幸せを感じる。この現状に満足しているとはしているけれど、どこかそれ以上の関係にすすみたいそんな欲も無い事はない。しかしキスとかセックスとか、小説や映画で学んできて耳年増の状態で実経験はまったくない僕にはかなりハードルの高い要素だった。一応僕も男だし年上なので月ちゃんを引っ張っていかないといけないと想うと余計に変なプレッシャーもかかる。

 今までは多少ドキっとしたものの、所詮他人事冷静に見れたのだが、恋人が出来た今、僕達もこういうキスをする事もあり得ると思うと、必要以上に意識してしまうのだ。

 馬鹿みたいだが真面目にキスについて悩んでいた。人を好きになるのも初めてだったし、交際するのも初めての事。月ちゃんと一緒にいるときにどうしたら良いのか悩むという事はなかったものの、今後ありえるであろう展開については内心ドキドキしまくりの状況だった。

「でも、ペネロペ・クルスの色っぽさと迫力生半可なかったですよね。スカーレットヨハンソンとレベッカ・ホールも良かったけれど良識というものをまだ持っているだけに霞んじゃったよね」

 三人の主演女優について楽しそうに語っている月ちゃんを、カワイイなと想いつつ頷いていた。

「先輩からみて、あの三人の女性って誰が一番魅力的でした?」

 いきなり話をふられて僕は戸惑う。この映画に出てくる女性はそれぞれハッキリした個性をもっていた。情熱的で感情的でそして破天荒な芸術家の、情熱的な恋に憧れる直情的で行動的な女性、真面目で理性的で倫理観をもっている女性。この質問は、決して何かを探るとかいうのではない様子だけれど、かなり悩ましい質問である。

「私は断然、ペネロペですね! 他の二人と女性というより人間としてスケールが違いますよね」

 悩んでいる僕に、月ちゃんはそう言葉を続ける。確かにペネロペ・クルス演じる女性はとにかくあらゆる意味で企画外の存在。

「確かに存在感からいうと、彼女がダントツなんだろうけれど、実際いたらかなり問題な女性だよね。多分日本だったら捕まるよね」

 月ちゃんは、『確かに』と頷く。ペネロペ・クルス演じる女性は、逆上すると銃をもってぶっ放してくるというそんな人物で、実際いたら普通の男性は退くそんな女性である。

「そういえばさ、月ちゃんって、エキセントリックな女性を好きだよね」

 僕の言葉に月ちゃんは首を傾げて見上げてくる。

「ベティー・ブルーのベティーとか」

 月ちゃんは『ああ』といい、ヘラっと笑う。

「自分と真逆なので、憧れるというのかな? 問題だらけれも、そのように行動してみたら素敵だなと」

 その気持ちは分かるような気がした。

「分かるような気がする。でも、僕はこの映画のアントニオを羨ましいとは思わなかったかな? あそこまで奔放にいろんな女性と関係を持つって」

 月ちゃんは、プププと笑う。

「多分、アントニオは先輩が憧れる奔放さとは逆方向に特化していると言うべきなのでしょうね。ああいう考えなしで快楽主義な自由さではなく」

 僕は苦笑しながら頷いた。僕が憧れる自由奔放さって何なのだろうと考える。

「薫みたいな、周りを愉快にさせる奔放さが僕は良いかな?」

 月ちゃんは僕の言葉に笑ったけれど、その後首を少し傾けて悩んだ表情をする。

「でも、薫さんは自由奔放ではなく自由奔放でありたい人なのかなと」

 僕が「え!」と聞き返すと、月ちゃんは困った顔をする。

「薫さんは『自由に生きたい!』って言葉良く使いませんか?」

 その言葉に僕はハッとする。

『僕にほ自由がない』

『結局僕らは、制限ある与えられた自由の範囲内で、いかに楽しむかを考えないといけないって事だよね』

『月ちゃんは、自由に生きれば良いよ』

 薫の言葉には、確かに自由という言葉が多い。

「確かに、良く言ってるかも」

 そして二人でフフフと笑う。

「でも、なんかそう言う薫さんの気持ち分かる気がします!」

 月ちゃんも同じように感じていたのか、そんな言葉を続けた。僕はその言葉に頷いた。

 この月ちゃんとの会話で、薫の見えてなかった面に気が付いたというのに僕はその事を深く考えもしなかった。というより、集団の中で孤独に震える月ちゃん、気儘な様子で自由を渇望する薫。二人のそんな面は、僕にも理解出来る感覚だったので、僕は親近感を覚えこそすれ、そこを突き詰めて考える事はせず、同じ思いを共有出来る心地よさを堪能していた。


キスへのプレリュード(PRELUDE TO A KISS)

製作・監督:ノーマン・ルネ

原作・脚本:クレイグ・ルーカス

キャスト:アレック・ボールドウィン

メグ・ライアン

キャシー・ベイツ

ネッド・ビーティ

パティ・デューク

リチャード・リール

シドニー・ウォーカー


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