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アダプティッドチャイルドは荒野を目指す  作者: 白い黒猫
心まで凍みる季節を暖めるもの
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やわらかい手

 夕方になり、ホームパーティーがお開きになりなった事に僕はどこかホッとしていた。

「また、遊びにきてね!」

 という薫のお母さんの言葉を後に、僕らはおいとまする事にする。

 外はもう暗く、日が落ちた事でさらに寒さが厳しくなっている。月ちゃんは、寒そうに手に息を吐いて暖めている

「寒いですね」

 僕はその言葉に頷く。寒くて暗い道だけど、二人っきりになった事で、あの家で感じた苛立ちは消えていた。

「あれ? 月ちゃん、手袋もってきてないの?」

 そういえば行きもつけてなかった事を思い出す。

「忘れちゃって! 出る時にバタバタしてしまったので」

 僕は自分のつけていた手袋を外し、月ちゃんに渡す。月ちゃんはビックリしたようにこっちを見る。

「僕は、寒さには慣れているから。良かったら」

 月ちゃんは、照れたように笑う。

「じゃあ、片一方だけお借りします。両方だと悪いので」

 そう言って、右手だけを受け取る。僕は仕方が無く左手の手袋をつける。なんか妙な気分だ。一つの手袋を二人でつけているだけで、なんとも恥ずかしい気持ちになってくる。

「でも左手は寒くない?」

 僕の言葉に月ちゃんは首を傾げるようにコチラを見つめてくる。

「先輩の右手は寒くないですか?」

 逆に質問で返されてしまう。月ちゃんがそっと僕の裸の右手を触ってくる。僕は月ちゃんの手が思った以上に冷たくてビックリして、手を引いてしまう。月ちゃんは僕の反応に驚いたのか、手を思わず引いてしまう。

「月ちゃん、手すごく冷たいよ。大丈夫?」

 僕はそっと、月ちゃんの左手に触れる。すごく冷たい。

「先輩の手は温かいですね」

 月ちゃんは恥ずかしそうに呟く。

 冷たいけれど、月ちゃんの手をずっと触っていたかった。

「ならば、こうしていたら、少しは暖かいよね?」

 そのまま月ちゃんの手を包むように手を握る。

「先輩が冷たいのでは?」

 僕はニッコリと笑い首を横にふる。月ちゃんはそんな僕の様子を見て、何か言おうとするような仕草を見せたけれど、何も言わずそのまま照れたように下をむき静かに僕と一緒に歩き出す。しばらく二人とも何も言葉を発することなく黙ったまま手を繋いで歩いていく。ドキドキしているのは僕だけなんだろうか? 僕の体温が移っていっているのか、月ちゃんの手も温かくなってくる。女の子の手って小さくて柔らかい。

「先輩は、冬休みどう過ごされるんですか?」

 ポツリと月ちゃんがそんな感じで話しかけてくる。

「うーん、今年は岩手に戻らないから、コチラで祖母とゆっくりという感じかな」

 また冬休みも僕は、実家に戻る事をしなかった。

「いいですね。そういう正月」

 羨ましそうなその言い方が不思議で、思わず僕は隣を見てしまう。でも月ちゃんは変な事言ったとは気が付いてないようで、ニコニコとしながら前を向いている。

「月ちゃんの正月は、どんな感じなの?」

 月ちゃんは、『ウーン』と首を傾げてから、コチラを見てヘラっと笑う。

「一家団欒的な感じかな?」

 僕の正月の過ごし方を羨ましがる理由が、やはり良く分からない。

「そういう正月も、楽しそうだね」

 僕の言葉に月ちゃんは何故か不思議そうな顔をして、困ったように笑う。

「でもね~三が日ずっと家族と一緒というのも疲れるんですよね」

 流石にこういった会話の端々から、月ちゃんが家族と上手くいってないのが見えてくる。

「だったら、三日辺りに初詣とか行く?」

 月ちゃんは、僕の言葉に元気に頷く。

「はい! 是非!」

 そんなにも、家族といるのが嫌なのだろうか? 月ちゃんはニコニコと嬉しそうだ。

 何処の神社が良いかという話をしながら、僕らはそのまま手を繋ぎながら歩く。川崎に僕が住んでいながら、川崎大師に行った事がないという事でそこに行くことにする。

 駅に付き、繋いでいた手は離れることになるけれど、月ちゃんから返してもらった手袋が左手用と違って特別なモノに感じ、填めるときなんかドキドキした。改札の所で月ちゃんがずっと手を振って僕を見送ってくれるのも、月ちゃんは寒くないのかなと心配しつつも嬉しくて、僕も何度も振り返り手をふってしまった。


 この時月ちゃんが一回も薫の事を持ち出してこなかった事もあり、僕はその後薫に今日のお礼のメールをしたときもあえて、初詣の事は薫には伝えてなかった。

 『こちらこそ、最高に楽しかった! 

 サンキュー! 

 やはりクリスマスは大切な人と過ごすべき日だというのを実感したよ!

 それにしても、お前のくれたパズル意外に難しいな!

 あのパズル『星』と『鍵』のヤツはなんとか出来たけれど、ハートに♂と♀ついたヤツ、全然外れないよ~!』

 そんな能天気なメールがかえってきた。 

 家に帰り、月ちゃんからのプレゼントの傘を広げてみてビックリした。外側はなんてことない黒い傘なのに内側は白い雲と青空模様になっているのだ。どんなに土砂降りの中でもこの傘を差していると、僕の上だけには青空が広がっているというデザインのようだ。なんか月ちゃんのセンスらしくて僕は思わず笑ってしまった。


 RPGでは無いけれど、青空の雨傘と、月の手袋、この二つのアイテムが僕を少し強くしてくれた気がした。


『やわらかい手』という映画は『三十五センチ下の○○点』にて月ちゃんが観ている作品でもあります。この物語と違ってかなりセクシィな内容でそのタイトルの意味も結構意味深だったりします(^^;


やわらかい手(Irina Palm)

2006年 103分

イギリス・フランス・ベルギー・ドイツ・ルクセンブルク合作映画

キャスト:マリアンヌ・フェイスフル

ミキ・マノイロビッチ

ケビン・ビショップ

監督:サム・ガルバルスキ

脚本:マーティン・ヘロン

フィリップ・ブラスバン


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