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アダプティッドチャイルドは荒野を目指す  作者: 白い黒猫
心まで凍みる季節を暖めるもの
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恋愛睡眠のすすめ

 試験前となり、部活が休みになる。薫に誘われ勉強するために図書館に行くと、月ちゃんが待っていた。どうやら薫が勉強を教えてあげると約束をしていたようだ。


 二人が顔を寄せ合って、小声で話ながら勉強している様子を僕はなんともモヤモヤした気持ちで見つめていた。この二人の関係って何なのだろうか?

 部においては、僕と月ちゃんは相変わらず妙な気の合い方もすることでみんなにからかわれ、最近では照れながらもそんな状態に喜びを感じていた。月ちゃんと自分には他の人との間にはない、何か繋がっている部分があるように感じるから。そうみんなに言われることに、どこか優越感すら感じていた。


 でも薫と月ちゃんと僕の三人になると、僕は疎外感を覚える。薫は月ちゃんと一緒だと、僕や清水の前では見せないようなはしゃぎ方でいつも以上に無邪気な顔を見せ、月ちゃんは僕に対してより打ち解けた表情を向ける。

「薫さんは古典苦手なんですか?」

「丸暗記で何とか切り抜けているけど、なんか肌に合わないんだよね」

 その言葉に、月ちゃんは眼を丸くして僕の方に視線を向けてくる。

「星野先輩も苦手なんですか?」

 僕はいきなりふられた事に軽く動揺を覚えながら首を横にふる。

「ヒデは文系がどちらかと言うと得意だよな。百合ちゃんは得意なの?」

 代わりに答える薫の言葉に、月ちゃんは頷く。

「得意というか、結構好きなんです。あの文章のリズムというか……」

「あの空気感とか?」

 つい挟んでしまった言葉に、月ちゃんは嬉しそうに頷く。

「ですです! ロマンというのと、なんか違って」

「味わいみたいな?」

 何となく気持ちが分かるような気がして、僕の中で一番近い言葉を言ってみると月ちゃんは僕の方を見てニッコリと笑う。

「そう、そういうのがなんか良くて! ね! 星野先輩!」

 僕だけに向けられている月ちゃんの満面の笑顔にドキドキする。僕は顔がつい緩んでしまうのは分かっているけれど、そのまま月ちゃんの顔を見つめ返してしまう。

「そういう所多くて、ホント二人って仲良いよね~。仲間に入れず寂しく感じる時あるよ」

 しみじみという感じの薫の声に、二人でつい赤面して顔を横に振ってしまう。仲良いとか、気が合うという事実は悪い事ではないけれど、指摘されると恥ずかしいものである。

「そ、そういえばね古典の斉藤先生ってお二人はご存じですか?」

 恥ずかしかったのか、月ちゃんが話題を変えてくる。

 確か図書委員の担当をしている先生で、顔は分かるものの授業を受けた事がないので曖昧な返事を返してしまう。眼鏡をかけた端正な顔で、真面目で固そうな雰囲気の先生。薫も似たようなものだったようで、ただ首を微妙に傾けるだけだった。

「斉藤先生って、ほら美声の持ち主ですよね。なので授業が凄く心地良いんですよ」

 実際、会話した事がないのでなんとも言えない。しかしロマンスグレーという感じの容貌から、そういう声は似合うのかなとも思う。

「でね、その声で紡ぎ出される『あり、おり、はべり、いますかり』なんて言葉が呪文のようで、授業中寝てしまう人が続出なんですよね」

 思わず薫と僕は吹き出してしまう。

「それは、斉藤先生の授業というか古典の授業が退屈だからというのではなくて?」

 月ちゃんはプルプル顔を横に振る。

「授業が、丁寧だし分かりやすいし良い授業なんですよ。でもあの声はヤバイです! 聞いているとフッと意識を飛びます」

 薫は楽しそうにニヤニヤをしている。

「その声聞きたいな~今度録音してよ! 是非、夜聞きたいよ!」

 月ちゃんは首を傾げ、薫を見上げる。

「薫さん、眠れないんですか?」

 その言葉に薫は困ったように笑う。

「まあ、ほら! ……来年から受験生だし……色々とね……」

 らしくなく端切れの悪い言葉を薫は返す。いつも明るい薫だっただけに、僕はそういう言葉が出てくる事に内心驚いていた。

「僕とは違って、薫はそこまで受験で悩む事もないだろ!」

 僕の言葉におずおずと頷くのは月ちゃんだけで、薫は苦笑を僕らに返した。

 後で知るが薫はこの頃から色々悩んでいたようだ。でも僕には薫はそういう部分を見せなかったし、僕は自分の事で一杯になっていて薫の事に気付けずにいた。

 薫は心配そうに自分を見つめる月ちゃんに、ニコっと安心させるように笑い、二人にしか分からないやりとりをしているのに、馬鹿みたいに見当違いな嫉妬をしていただけだった。

「分かりました! 私がその眠りの呪文しかと録音してきますから! 携帯で!」

 月ちゃんは、キッパリと宣言するように言い放つ! 声が大きかったようで周りの人から睨まれ肩をすくめる。三人で声を出さすに笑い合う。

 

 そして後日、その音声ファイルは薫と僕の携帯へと届く。確かに落ち着いた美声のその声は耳に心地よかった。薫がその音声を睡眠導入に使ったか? 薫の不眠症は解決したのかは結局分からなかった。

恋愛睡眠のすすめ(La Science Des Reves)

105分

監督・脚本:ミシェル・ゴンドリー

キャスト: ガエル・ガルシア・ベルナル、

シャルロット・ゲンズブール、

アラン・シャバ、

エマ・ドゥ・コーヌ







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