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アダプティッドチャイルドは荒野を目指す  作者: 白い黒猫
心まで凍みる季節を暖めるもの
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現実の続き 夢の終わり

 十一月となると、朝晩の気温が一気に下がってきた。朝家を出るときに、肌寒さを感じ驚くようになる。

 文化祭も終わった事で、躁状態のお祭り気分も消え、すっかり元の日常生活に戻った僕の世界。

 学校行って授業を受けて、薫や清水と他愛ないことをしゃべり楽しみ、部活で気ままな映画談義を興じる。それ以前とまったく状況は変わらない。

 月ちゃんとは単なる仲の良い先輩後輩だし、薫とは気の合う友人、北野は相変わらず突っかかってくる。


 そして休日は薫と月ちゃんの三人で出かけ、三人で騒ぐそんな感じ。気が付けば月ちゃんは薫の事を『薫さん』と呼ぶようになっていて、薫は『百合ちゃん』となっている。そして僕は薫の事を相変わらず『薫』と呼び、月ちゃんの事は『月ちゃん』と呼んでいる。

 かといって、僕は何かアクションを起こすわけでもなく、まんじりとしない生活を過ごしている。かといって何か余計な事したら今のこの穏やかな状況を壊しそうで怖い。


 四時限目終わって、薫は上機嫌でお弁当を広げている。相変わらず彩りも細工も奇麗な弁当である。

「あっ旨そう! お前の弁当」

 薫は相変わらず僕の弁当を嬉しそうにのぞき込んでくる。手作りのピーマンの肉詰めに、中に野菜が入った卵焼きと、一年の時の弁当に比べ、だんだん祖母の弁当も手が込んできているように感じる。『やはり、ひーちゃんが喜んで食べてくれると思うと腕の振るい甲斐があるわ』と祖母がよく口にする言葉。母の時は働いていた為に、ちゃんと弁当を作ってやれなかったという事もあり、祖母は僕の為に弁当の本まで買って色々研究しているらしい。

二つあるとはいえ、肉詰めを狙ってくる薫を、今日はなんか阻止してしまった。

「あっ」

 薫もビックリしたような顔をする。

「じゃあ、卵焼き頂戴!」

しかし懲りずにニッコリと薫は笑い、断ってからスゴスゴ持って行く。その様子に清水も僕も思わず笑ってしまう。今日は、僕が自分から薫の弁当箱から揚げに撒かれた法蓮草をもらいに行く。

「お前がそんな、ピーマンの肉詰め好きだとは知らなかった」

 清水の言葉に、僕は曖昧な笑みを浮かべる。自分でもチョット大人気ない事してしまったのを自分でも驚いている。

 恥ずかしかったので、話題を変えることにする。

「ところでさ、清水は進路希望どうした?」

 ホームルームの時に、担任から配られたものだ。二年になってから定期的に提出を求められていて、僕を悩ましているもの。薫はもう一年の時から医学部のある目標の大学を決め目指しているので、迷いはないようだ。

「まあ、家計的私立は苦しいから、公立で理工系を適当に」

 その言葉にお金の問題もある事に気付かされる。僕はその問題についても考えていると、薫が清水の方を面白そうにみている。

「将来的に何かやりたいことがあるの?」

 そういえば、清水の夢なんて聞いたことがない。

「まあ、SEとかの仕事には興味あるかな。根っからの理工人間だし。俺って嘘のつけない性格だし営業とか無理そうだろ? お前こそ、医大に行って何になる気だよ! 医者になったら教えてくれお前のいる病院のその科には避けるから」

 そう言ってニヤリと笑う清水に、薫はムッとしたように口をとがらせる。そしていつものように軽い口喧嘩を始めている。

僕はといえば、将来について何も考えていないと思っていた清水の意外な返事に驚いていた。

僕は将来何になりたいのだろうか? そもそも僕の夢って? 幼稚園の時は、電車の運転手とかいった事を言っていたようだけど、今の僕にはそんな目指すものがない。

何かの才能がるわけでもない、頭悪い訳ではないものの人に誇れるほどでもない、何かの目標があるわけでもない、いろんな意味で中途半端な自分という人間に気付かされてなんか凹んでしまった。

「な、お前も思うだろ?」

 いきなり、清水に会話を振られて僕は我に返る。

「ん?」

まったく話を聞いてなかったので、思わず聞き返してしまう。

「この気分屋の鈴木が医者ってやばいと思わないか? その病院行きたくないよね?」

 僕は首を傾げる。責任感強いし真面目だしそこまで怖いと思う事なんだろうか?

「うーん、照れくさいというのはあるかな? でも何でも聞きやすくて良いかな」

 清水は同意を得られなかったことで不満そうな顔になり、薫はとたんに機嫌がよくなりニコニコしだす。

「おお、心の友よ~お前はそう言ってくれると思ったよ」

 顔に似合わずジャイアンな台詞を言う薫に、医者になった薫の所にいくのに少し不安を覚えた。

「薫はさ、なんで医者になりたいの?」

 気になったことをポロリと聞いてみることにした。そうすると薫は少し困った顔をして視線を逸らす。

「なんとなく。小学生くらいの時に入院したんだけど、その担当してくれた先生が格好よくて……いや! じゃなくて、何か人と関わって、人の為になる仕事っていいだろ?」

 うっかりと何か言ったあとに言い訳のようにそれらしい理由を付け加えてくる薫に『アレ?』っと思う。

「つまりは、なんとなく良い感じだから医者目指すってか、やっぱり怖いな、他の仕事ならともかく人の命に関わる仕事の動機がそんなのだと」

 清水のからかいの言葉に薫はまたむくれ出す。

「そんなんじゃないって、ただやるからには人の役に立ち人に感謝されるような、やりがいのある仕事したいし、僕って勉強出来るだけで他、何もないじゃん!」

 清水は、ブツブツと言葉を並べていく薫をみて吹き出す。

「ま、所詮人生の選択なんてそんなものだよな、未来は無限で何でもなれると言うけど、結局は少ない選択肢の中の消去法だよな」

 薫と清水の喧嘩が深刻な事にならないのは、清水がこのように頃合いを見てひくからだ。この中の三人で一番冷静で大人なんだと思う事がある。

 多分精神的に一番子供なのは僕なのかもしれない。


 それにしても、僕にある選択肢って何なんだろうか?

 いろんな職業についている自分を想像しようとするが、どれもピンとこなかった。

「そういっちゃそうだよね、出来そうなと事で、興味ありそうな所から選ぶ、ヒデは何かなりたいもんあるの?」

 薫は一番僕が困る言葉を聞いてくる。

「うーん、コレと言って」

 何故か、薫は嬉しそうに笑う。

「そか、一緒で安心した」

 清水は明るく笑う薫に、フッと笑う。

 何処が一緒なのだろうか? そう思いつつ、言葉で巧く言い表せない感情を隠して僕も笑う。

「ま、そんな先の事悩んでも仕方がないから、俺は大学入って思いっきりハジけるぞ! お洒落して彼女作って!」

 薫はその言葉に、呆れてよいのか、笑っていいのか、からかうべきなのかと悩んでいるのか複雑な顔をする。

「それは、大学入らなくても今できることでは?」

 清水は薫の言葉に思いっきり顔を顰める。

「こんなダサイ制服じゃ、かっこうよさも出しようがないじゃん! しかも俺分かったんだ! なんで恋愛できないのか」

 清水の言葉に、薫は珍しくからかうことをせずに、妙に興味深げに乗り出してくる。

「俺の好みの女性って、大人の女性だから、今の環境にトキメキを感じないんだと! 今俺の周りって高校生のガキばかりじゃん」

 薫はそこまで聞いて、大きく溜息をつく。

「お前だって、高校生のガキじゃん! 逆にそういう大人の女性が振り向いてくれるかと」

 薫の言葉に、清水は何故かニヤリと笑う。

「だからこそ、大学になれば俺のストライクゾーンと相手のストライクゾーンが上手く合致するようになると思わない?」

 薫は『どう思う? コイツの考え』という感じの視線で意見を求めてくる。僕はそれに苦笑いで返す。

「ま、頑張って!」

 薫は心のこもってない口調で清水にエールを送った。


現実の続き 夢の終わり

1932年日本映画 85分

監督・脚本:チェン・イーウェン

脚本:スー・チャオビン

キャスト:水野美紀、

柏原崇、

リー・リーチュン、

ガオ・ジエ、

ガオ・ミンジュン、

ツァイ・ユエシュン、


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