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アダプティッドチャイルドは荒野を目指す  作者: 白い黒猫
深まるごとに色移ろう秋
34/75

母なる証明

 部のみんなで一丸になって頑張ったお陰で、今年の文化祭はなかなか良い企画を作れたような気がした。去年は映画もそれぞれ展示物も方向性がバラバラで、なんとも漠然としたしたものだったが、今年は自分で言うのも何だけど結構面白い内容で映画ファンじゃない人でも楽しんでもらえるのではないだろうか? 映画も契約の関係で、二日間で二度上映できるようになったのでそういう意味でも見せ物が増えて良かった。


 僕の担当は展示コーナーの受け付け案内となった。部長の采配で映画にある程度詳しく説明が出来る人間が展示コーナーで、そういう意味では弱い人を上映室担当にしたようだ。そうしたお陰で、月ちゃんと僕は展示コーナー担当で、北野が上映会担当になった事でより落ち着いて作業が出来て良かった。


 とはいえ、来場者は学生とその家族だけ。展示コーナーを興味ありげに見ていくものの、質問なんて求めてくる人もおらず、また積極的に接触してくる人は部員の友達か家族なので、それぞれの部員が担当するという感じである。のんびり月ちゃんと会場を眺め話しているという暢気なものである。


 受け付けの所で月ちゃんと、これから公開される映画の事を話していたら、入り口の所でニコニコした中年女性が二人コチラに元気に手を振ってきた。月ちゃんはソチラを見て、一瞬驚いた顔をするけれどニッコリと笑う。

「お母さん、それに伯母様まで」

「迷っちゃったけど、やっと此所に辿り着いたわ」 「百合ちゃん、来ちゃった~」

 二人の中年女性は、片方はボブヘアーで片方はショートヘアーという感じで髪型こそ違えどよく似ている、双子のようとは言わないけれど何と言うかよく似ていて姉妹であることが誰の眼でみても理解出来るほどだった。暢気なお母さんといった空気を纏っている。なるほど、コレが月ちゃんのお母さんと伯母さんなのだろう。

「あっ、賢くんも来てくれたんだ」

 二人にくっつくようにいる少年に月ちゃんは笑いかける。小学生くらいだろうか? 身だしなみもキッチリしていてどこかお坊ちゃまという感じがする。

「はい、僕もその内此所の高校を受験すると思いますので。下見です」

 妙に偉そうに、その子供は月ちゃんに答える。

「へえ~偉いね~小学校からもうそんな先の事考えているなんて」

 月ちゃんはそんな従兄弟にお姉さんぽく答えている。

「このあたりの進学校でしたらここが一番ですから! ところで百合子さんは特進クラスなんですか」

「いや、私は普通クラス」

 そう答えると、あからさまに蔑んだ顔をその従兄弟がしてくる。

「それは百合子さんの能力が足りなくてそういう結果なんですか」

 月ちゃんは流石にその言葉に苦笑する。子供の声だからか部屋中にその言葉は響き、部屋にいた部員が苦笑いして見ている。そんな周りの様子も気付いていない。

「まあ、初めから狙ってなかったかな? 賢くんは特進クラス狙っているんだ、大変だと思うけど頑張ってね」

 月ちゃんは、笑って流す事にしたようだ、そして二人の中年女性に視線を戻す。

「今日は来て頂いて嬉しいです。ありがとうございます」

 そう言って、月ちゃんはぺこりと頭を二人に向かって下げる。僕はその行動にどこか違和感を覚える。

「電話でもズッとね、佳ちゃんと、百合ちゃんの文化祭楽しみにしていたの」「当然じゃない、百合ちゃんの文化祭なんだもの」

 二人の女性はバラバラに月ちゃんに、朗らかに返す。三人はニコニコと笑いあっているけれど、なんだろうこの不思議な感じが。僕は首を傾げる。でも気のせいかと僕は三人に作り笑いを浮かべ頭を下げる。

 月ちゃんが僕を先輩と紹介して、二人はそんな僕に「百合子がいつもお世話になりまして」と笑顔で答え、他の部員の家族同様のやりとりは無事終了する。でも月ちゃんのお母さんと思うとなんか緊張する。そして僕は一つの疑問を覚えるがそれをその三人に何故か聞けなかった。

「案内させて頂きますね」

 月ちゃんはそう言って、僕に少し頭を下げてから受け付けから離れ三人に色々展示物についての説明を丁寧にしていっている。流石に小学生の従兄弟は退屈そうだったが、中年女性二人は終始同じような笑顔で頷いたり、質問したりと月ちゃんと楽しそうに会話していた。でも月ちゃんは、笑っているけれど楽しそうに何故か見えなかった。

 展示を見終わった三人は、「このあと美術部の方も見てくるわ!」といって、賑やかに去っていった。月ちゃんはそれを笑顔で見送るが、三人の姿が消えたとたんにその笑顔がズッと消え、小さく溜息をつく。僕の視線に気が付いたのかコチラを見てチョット照れたようにニコっと笑う。

「月ちゃんの従兄弟? なんか強烈だね~」

 受け付けに戻った月ちゃんに、高橋は声をかけてくる。その言葉に僕も月ちゃんも苦笑してしまう。あんなに可愛げない生意気な小学生というのも珍しい。しかも展示物にも、『なかなか頑張ったんですね』と何故か上から目線での感想を述べていて、どこか痛いものがあった。

「なんか、小生意気な子役みたいな感じの子だったな」

 山本さんも見ていたらしくてそう言って笑う。

「甘やかされて育った為に、王子様なんですよ。あんな状態なので、私の兄弟とかとも喧嘩になること多くて」

 月ちゃんはヘラっと笑う。

「頭はいいの?」

 高橋の質問に月ちゃんは、首を傾げる。勉強という意味では分からないが、社会性という意味では頭はよくなさそうだ。

 友達が来たのか、高橋は離れていく。そして入り口に来ていた女性に声かけられて立っていた山本さんが対応のためソチラに向かう。どうやら永谷の家族が来たようだ、山本さんは視聴覚室の方にいき永谷を呼んできてくれた。永谷が母親を案内して展示室を案内しているのを眺めていた。

「見てみてコレ、頑張ったんだよ~」

「へえ、あんた、こんな事やっていたのね~結構面白いじゃない」

 母親に甘えたような口調で話しかける永谷と、それを素直に褒める母親。その状況を見て、先程の月ちゃんの状況がオカシイことに改めて気が付く。月ちゃんは何故ずっと、敬語でしゃべっていたのだろうか? 親戚の伯母さんが来ていたからとはいえ、二人のどちらに対しての態度が余所余所しかった。というか遠慮しているという感じ?

「ところで、月ちゃん」

 月ちゃんはコチラを見て首を傾げる。

「先程の女性、どちらが月ちゃんのお母さんだったの?」

 その言葉に月ちゃんの表情が固まる。

「いや、二人ともすごい顔よく似ていたから分からなくて」

 聞いちゃいけない事聞いてしまったのだろうかと、言い訳のようにそう続ける。月ちゃんは、『ああ』と頷き、苦笑する。

「髪の毛の短い方が母です。二人とも確かに似ていて暢気な母さんという感じでしょ? いつもあんな感じで楽しい二人なんです」

 月ちゃんはニッコリと答える。でもなんかどこか棒読み的で、客観的な退いた感じの言葉を口にする。

「いいな、僕の場合、両親ともに一人っ子だから、ああいう叔父伯母がいなくて」

 月ちゃんはその言葉に曖昧な笑みを返してきた。


 以前月ちゃんが言った『三番目の子供はいてもいなくてもいい子供なんです』という言葉を改めて思い出していた。先程の雰囲気から、お母さんも伯母さんも月ちゃんを愛して可愛がっている様子だったけど、何故月ちゃんはああいう言い方をしたのだろうか。しかしそれを口にするわけにいかず僕らはそのまま、なんともぎこちない空気のまま黙って受け付けに座る。


コチラに出てくる従兄弟の賢くんは、『半径三メートルの箱庭生活』にも

チラッと出てくる月ちゃんの従兄弟です。

母なる証明(Mother)

2009年 韓国 129分

監督・原案:ポン・ジュノ

キャスト:キム・ヘジャ

ウォンビン

チン・グ

ユン・ジェムン

チョン・ミソン

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