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アダプティッドチャイルドは荒野を目指す  作者: 白い黒猫
深まるごとに色移ろう秋
33/75

恋の邪魔者

 文化祭に向けて学校全体が浮ついて盛り上がっている。僕も映画研究部に所属しているということで、帰宅部で実行委員でもない人よりも、青春な空気を楽しんでいた。

 人は恋をすると力が沸いてきて世界が薔薇色になるというが、月ちゃんを好きたと気が付いて、世界はなんともドキドキした楽しいものに変わったように感じがする。部活も、文化祭準備も去年と比べものにならないほど、真面目に一生懸命参加している自分が分かる。それだけ今年の文化祭準備は楽しかった。


 ただ二つだけ僕を困らせる事がある。

「あのさ、清水、お願いだからあんな事をされると、月ちゃんがオカシク思うだろ」

 そう僕が言っても、清水はニヤニヤするだけ。

「わざわざ俺が、キューピット役を演じてやっているのに文句かよ! といいながら、ヘラヘラと月ちゃんの隣で喜んでいるくせに」

 僕の気持ちに僕よりも先に気が付いて居た清水は露骨にチョッカイ出してきてからかう。買い出しを態々僕と月ちゃんの二人に頼むとか、役割分担の時に同じグループに振り分けるということをしてくる。そりゃ月ちゃんと作業するのは楽しいけれど、恥ずかしい。

「でもさ、部のみんなも変に思うし、月ちゃんだって」

 清水は目を細めて、いや~な笑いをする。

「いや、月ちゃんもまんざらではないって感じだし、部のみんなも祝福してくれるって!」

 その言葉に僕は苦笑するしかない。そこにもう一つ困った問題があった。一人露骨に僕に突っかかってくるようになった人物が出来たからだ。

 北野である。廊下ですれ違っても挨拶してこないどころか睨み付けてくる。狭いとはいえ部室ですれ違う時も態とぶつかってくる。頼んだ事も無視する。

「北野の事は気にすんな、あいつはガキだから」

 僕の表情から察したのか清水は、そんな事いってくる。

「馬鹿だよな、アイツも、ああいう馬鹿な事したら益々評価下がるっていうの。あの年齢の女は、ガキっぽい男よりも大人な包容力のある男性に惹かれるもんだ! だから星野! その路線で頑張れ!」


 清水はそう偉そうに言い、僕の肩をポンポンと叩く。恐らくは余計な事いって怒らせる事が多く、包容力というのを演出したこともないだろう清水の言葉にどこまで信憑性があるのだろうか? 僕はどういう言葉を返して良いのか分からず微妙な表情になってしまった。


 そんな事話していると、部室に到着する。部屋に入るとまだ人もまばらである。小倉は来ているけど月ちゃんはまだいない。僕は棚に鞄を置き、副部長の指示を仰ぐ。視聴覚室とその隣の部屋を借りられたらしい。当日どういうレイアウトで展示すべきか? 等を話していると部室の扉が開く。

「チ~ス!」

 北野が元気に入って来て、僕の方だけは極力みないようにして挨拶をする。

「失礼します~」

 続けて月ちゃんと永谷が入って来た。

「あれ、三人一緒?」

 僕か内心思った事を小倉が口にする。

「おう! 教科書返すついでに一緒に来た!」

 何故か誇らしげに北野は返事を返す。それを月ちゃんと永谷は困ったように笑い、先に棚に荷物を置く。馬鹿みたいだけど、僕の荷物にくっつくように月ちゃんの荷物が置かれた事にさえ喜びを感じてしまう。反対側は清水の鞄かあることには何の意味も感じてないというのに。

「今日は何すれば良いですか?」

 月ちゃんはニコニコ笑いながらコチラに近づいてくる。そのタイミングで隣にいた清水が飲み物を作りに食器入れの所に移動した事で、隣に月ちゃんと永谷が入る。月ちゃんをつい見ていた事もあり、月ちゃんが僕の方を見るだけで目が合う。ソレだけで僕の鼓動が若干テンポを上げる。ニコっと月ちゃんが笑い僕の体温が上昇した。


 ドン


 軽い衝撃があり僕と月ちゃんの間に黒い影が割り込んでくる。

「何? 何? 何の話してたの?」

 北野だったようだ。そう言いながら、僕と月ちゃんの間にグイグイ入って来た。

「北野くん、痛いよ!」

 月ちゃんが怒ったような声を上げる。

「あっ、わりぃ、わりぃ、小さくて見えなかった!」

 北野の言葉に月ちゃんはますますムッとした顔になる。しかし、北野は最高に嬉しそうにニコニコしている。不満な顔と表情であっても、それが自分だけに向けられている月ちゃんの心だと思うと嬉しいようだ。

 僕の視線に気が付いたのか、北野はゴチラを見て、何故か勝ち誇ったように笑う。どうも北野にとっての、勝ち負けの判定が僕には判り辛い。


 そんな事をしていると、部室に高橋もやってきたので、出来上がっていた僕と月ちゃんのデータをPCに落としてもらおうと鞄の所に行ってみて、アレ? と思う。僕の鞄と月ちゃんの鞄の間にさっきまでなかった鞄が割り込んでいる。ぶら下がっているキーホルダーからそれが北野のモノだと気付く。

(…………)

 この北野と僕との関係って一体なんなんだろうか? いわば同じ女性を巡って争う二人という事になるのかもしれないけれど、なんかいろんな意味でズレを感じるのは僕だけなのだろうか? そもそも何かを巡って人と争うという状況が既に、僕のスキルにはない。だから余計に戸惑う事も多かった。

 人の事は言えないけれど、恋する男ってハタから見ると本当に馬鹿なものだ。今日の北野の行動はあまりにも幼稚で脱力してしまい、笑ってしまった。流石に自分の鞄を引き出して月ちゃんの鞄の隣に移動させるなんて子供じみた事はせず、僕の鞄を開けUSBメモリーだけを取り出しみんなの輪の中に戻ることにした。


恋の邪魔者

(VIENS CHEZ MOI,J’HABITE CHEZ COPINE)

1980年フランス映画

監督・脚本:パトリス・ルコント

キャスト:ミシェル・ブラン

ベルナール・ジロドー

テレーズ・リオタール

アネモーヌ


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